1-14 シャーベットアイス
「仕事…やりにくいな、」
「大丈夫かよ、お前。」
エイキチは大きな木のジョッキで酒を飲むとテーブルにガンッと大きな音を立てて、少し板が歪むくらいの勢いで、ジョッキを置く。
全身を微かに紅上させたやさぐれた顔で、
突っ伏している。
メタルはリフォームが大好きで、1日でも離れればもう店の雰囲気から、売ってる物店自体の機能すら一新される。
今日のメディクターはBARだった。
「俺も9日坊主じゃねぇよ
でも疲れたぁぁ、
ご飯食わせて、寝かせて、色々教えて、
その間は自分を殺して、
こんなに気い使ったことねぇよ。」
「フガッ、スースー……」
愚痴をこぼした時、子供用ベットで寝かされるアセビが反応するようにいびきをかく。
「アセビもカトレアの部屋で寝かせて貰ってる、悪りぃなこんな夜中に帰ってきて、泊めてもらって。」
たまにリフォームの弊害で店を完全なアーミー仕様(迷彩柄)に変えることもある、だから店の周囲は目を凝らして注意するんだが、今回は違った、店の看板はネオンの電飾で飾られて、ピカピカ光っていつもより早く見つけることができた。
夜中、「こんな時間だし出なくてもいい」と思って押したチャイムから返答があった。
カトレアはアセビを喜んで迎え入れようとしたが、もう寝ている事を伝えると、少し落ち込んでいた、それでも寝ているアセビを見せると、喜んで自分の部屋に抱っこして行った。今はもう二人で寝ているんだろうな。
流石に同じベットではない、カトレアと同じベットで寝たりしたら最悪潰される。
店の中は暗かったから、もう業務時間は終わっていたんだろう、それなのに気がついたらこんな状況だ、俺もコイツも気が狂ってる。
「子供は寝かせたから、酒に溺れるか、
親らしいじゃねぇか。」
ジトーとした蔑む目でメタルの方を睨む。
「いい親じゃないけどな、」
「黙ってろ、俺の親と比べんなよ」
ニヤけた面でいつも通りのツッコミをするメタル。
エイキチの見てたのはメタルの後ろ、バーカウンターの横に掛かってる数枚の肖像画。
全員メタルと似たような体型に、気の狂ったヤツの目をして、片側の口角をたるんだ頬を突き抜けるくらいまで上げた同じ顔をしてる。
「お前は偉い!けつが青だった頃と比べれば、格段に良い子だ。腰を掴んだ女は離しちまうけどな、ガハッッハハッハ」
「歳も数年しか変わらねぇくせに何、親目線でいやがんだ、分かってんだろ!
俺はそう言うのが大っ嫌いなんだよ!
…………あー疲れた、」
血肉に飢えた獣のように鋭い目に殺意を乗せて、エイキチは喉が痛くなるほどの声を出し、また疲れた。
酒と大声のダブルパンチを、直接喉に喰らった俺は喉を掴んで、静かにテーブルの木目を眺め始めた。
ふと肩にかかる違和感が気になり、
肩にかけてた袋を店のテーブルに置いた。
「お!売るのか?」
「…売るのは明日だ、めんどいことは明日の俺に任せる。今の俺は酒に溺れて何もかもを水に流す。昨日の牛肉ステーキの夜飯も出す!」
「牛肉って聞いてねぇぞ!俺にも食わせろ!」
「もうねぇよ。」
エイキチはもう眠くて、
自分から言った事に反応したメタルに
ぶっきらぼうな言葉を吐いて、静かになる。
「かー んだよ、」
メタルは本当に悔しそうに羨ましそうに、天井を見上げて、両手で目を覆う。
そのBARにいた男二人が目を閉じた。
バーカウンターの奥、客から見れば目の前にそうBARの名前を書かれた看板があった。
その裏にはこう書かれている、
男達は冷え切った絶妙に古い場所が好きなんだ。女もベットも飯だって同じで、
ヤッちまえば脳はクールに落ち着くんだ。
体はよりホットになるがな。
エイキチは酔い潰れていつのまにか眠ってしまった。…そして夜が明けた!
眩い光が入り口のガラス戸から差し、バーカウンターに似合う暗い目の内装に光の線になってエイキチの瞼を照らす。薄い瞼を超えて、白っぽい太陽の光が滲んで目を閉じているのに嫌に眩しさを感じる。
そしてなんとなくあったかかった。
「……んあ、なんだコレ、」
さっきから手にヒラヒラと当たって俺をイライラさせた何かを掴み、目の前に持ってくるとあせびのために買ってやった、ピンク色の掛け布団だった。
ギシギシ
「おはようエイキチ、膝、膝」
誰かが太陽の光を遮って、店の中全体がが暗くなる、お馴染みの店全体が軋む音を出しながら、静かに近づいて来ようとするカトレア、指を口紅のついた口に持っていって、静かにしろとジェスチャーをしながら、俺の下を指差す。
「ああ?膝って何か」
眠気に誘われるまま目線を下まで落とすと、
ちっっっっっか美少女の顔が、もう数センチの距離で寝息を立てて、それが顔に当たる。
あまりにも無防備な顔で俺の膝を枕に寝てるアセビがいた。
「いい子に育てたね、」
いつの間にか近づいていたカトレアが、寝ていたアセビの髪をくしゃくしゃに撫でる。
あの力で揺らされば当然、
アセビもパチリと目を覚ました。
「あっごめんなさい…」
小さく謝ると何か悪い事をした子供のように
サッと去っていく。
まあ目を開けたらこんな二人がいたら怖いだろうなぁと考えていると。
「頑張ったんだね。」
圧迫感はあるが優しい顔で、
俺のことも親みたいに頭を撫でる。
「お前もかよ、」
「なんか言うことがあるんじゃないか?」
嫌いなルールだ。
昔この店に初めてきた時この店のルールとして教えられた、でも数年この店を利用していると、だんだんと別の人はそのルールを守っていない場面を目にして、気づいた。このルールは幼かった俺に言った適当なルールだと。
でも今でも強要され、言わなかったら安く買い取るよと脅されたこともあるし、
仕方なく、やっている。
仕方なく、
「う……ただいま。」
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