1-13 大嫌いな緑
しきりに伸びる剥き出しの電線に、這うように巻きつく植物の大きな葉っぱとツル、下には細身の木の中心から電柱が生える。
二つは大きな一本として支え合い、寄りかかり合っていた。
そんな一本の木が景観として生える、ツルツルとした石畳の床に赤褐色のレンガ垣に囲まれた駐車場でバンを止めて、カチャカチャと二人はテント用のブルーシートを協力して広げ、上にピンク色の布団やショッピングモールで拾った充電式のランプを出すと、宿泊の準備をし始めた。
「ちょっとのつもりだったんだけどなぁ…
盗りすぎたか、」
バンの中身は後部座席の四つ全てを横の壁に収納して、左脇に縛り付けて大部分を占める原付に荷物を積んだり、挟んだりしても、バンの中は大人が一人乗れる程度の隙間しかなかった。
アセビにこの世界での生き方や、金目のものの見分け方をレクチャーしながら盗ってたら
メディクターから出発した時、想定していた量よりパンパンになってしまった。
どう考えてもこの状態で帰るのは不安が残る、カーブを曲がれば重さで前輪が浮きそうだ。
エイキチからしても大切な儲け物だが、
「仕方ねぇ、喜べ!今日は豪華な飯だ。」
フライパンと缶詰牛肉を両手で持って、
アセビに豪華な飯宣言すると、アセビは涎を垂らし、藍色のその目は俺の目では無く牛肉を目で追う。
ジュワーーッ
熱された鍋肌に肉が着くと、美味しい悲鳴が聞こえる。肉の側面に少しだけ焦げた色が浸透していくと、フライパンを前に出しながら前部を上げる、肉がフライパンの動きについていけなくて回転しながら宙に浮く。
ジュワーッ
焼けていない、もう一面が鍋に落ちてまた肉汁が飛ぶ。
「うおーー!」
必死な声でやっている事は、ペッパーミルを引いてかけ、塩をつまみ高い地点から、誰かさんみたいにかける事だった。
その時同時にアセビも簡単な料理をしていた、パンに蜂蜜を垂らし、その上からサラサラと砂糖をかける。
アセビは料理の最中指についてしまった砂糖を見ていると、口を開け少しだけ舐め、
目を丸くする。
「アマッ…」
パンに蜂蜜と砂糖
肉にはブラックペッパーと塩
お世辞にも料理がうまいとは言えないが、二人とも目利きの力なのか火入れは完璧に近いし、目分量も完璧だ、それに手際がいい。
「食うぞー」
分厚い肉で、噛み切るには何度か噛む必要がある、そして噛むたびに肉汁が溢れる。
胡椒の塊が入っていて、たまに辛味が襲ってくるが、ハチミツの甘味が緩和して、調和する。
目にも止まらない早さで食べると、
二人はお腹を膨れさせ布団の上で寝っ転がった、エイキチの姿は無邪気そのものだが、
アセビは少し危ない姿に見えた。
それでもギリギリアセビが入らないようなバンの中、食後のおやつのために取り出していた、バンの中でも一番の
の箱をエイキチが開ける。
「ブルーチーズマジィ
お前は何でも食べんのな。」
少し躊躇して食べるのに、アセビは何の躊躇いもなく小さい口で手早に食べる。
「ブルーチーズねぇ……お、」
箱の中身にあった、
ブルーチーズの説明書を読む。
フランス イタリア イングランド
三種のブルーチーズを合成した、オールブルーチーズ
一口食べるだけで涙が出て、手が止まらなくなる!そして塩のしょっぱさがあり、独特な匂いと混ざるとまるで海、なぜだか海に出たくなる気持ちになる最高のブルーチーズです。
っだと。
ゴク
一思いに残りのブルーチーズを飲み込むと、塩分で喉が少し熱くなる。
「マジィ、ならね〜」
石畳の角は永い時の雨や腐食を繰り返し、
崩れてその割れ目からカビと苔の生えてる。
ランプの電気をつけて、いい雰囲気になった時間、俺らは空を見ながら何と無く話す。
「……本物の音楽を聞きてぇな、楽器を音の反響のいい会場で、俺を中心に楽器が鳴り響く。指揮者なんていらねぇあんなのただ棒振ってるだけの奴だろ絶対必要な人、じゃあない。
レコーダーもあるって言ったって……今聞けるのなんて何回も焼き増しされた音の悪い粗悪品だ。」
粗悪品そう言ったのは俺の筈なのに
あんなに安らいだ物が、粗悪品だと知ってる、それが嫌いだ。
「楽器か、楽器、もしかしたら骨董品屋であるかどうかだなこの地域に骨董品屋なんて無いがな。」
どこかで楽器を見たか記憶を遡って、見てみるがどこにも無い。
「…もしかしたらメタルの店の倉庫漁れば見つかるかもしれねぇが。アイツ入れてくれねぇんだよな〜、
プライバシーがどうとか性癖まで言い振らしてる奴が何言ってんだ。
雇い主みたいに振る舞いやがってただの買取のオヤジだろ。」
静かに聴きすぎている、アセビを心配して見ると、お腹も引っ込み寝っ転がったまま上を見ていた。
そのまま上を見れば、暗い群青色にいくつもの星が浮いていた、色とりどり形とりどりの星が空を埋め尽くすほどに出ている。
大きな星は一番近い月なんかより大きく、
楕円形や正球形、輪っかのついている星、物によっては不規則な形をした、図鑑に載っているような、星の見た目そのままが確認できる、いつもより少しだけ綺麗に見える夜景だ。
「そう言えばアセビ、今何歳だ?」
「誕生日は分からない…多分10」
「俺は20、俺も…大体獅子座、
ライオンなんて見たことねぇけど何となくかっこいいだろ。」
空を見ているアセビにも見えるように空に爪を立てるライオンの真似をして聞くが、
「エイキチは頭がいい、」
想定外の鋭い言葉を言われ、たじろぐ。
「頭が良い……そうか?
大体の知識は教えられたものだ、部品のことも同じ奴に教えられたしな。」
「誰、」
今日はやけに質問が多いな、コイツ何を考えてるんだ、
こっちを見ないで質問ばっかしてくるアセビに違和感を感じて、寝る体制を変えるついでにアセビの顔を伺うが、
いつも通り読み取れないような、顔、
……緊張してるのか?
「…この地域一番の天才兼天災この地域の電気を全て支配してる奴だ、開発室に改造した電波塔に住み込んでる、そして必要な部品を集めるために俺を利用してる一人。」
「利用してる?一人?」
「他にもいるってことだ、メタルだってそうだ。影では俺が売った値段より高く売ってる、それじゃなきゃ店なんて出せてねぇ。
アイツもアイツも、
アイツも、
…アイツらも」
何度か反復した愚痴を呟いた後、
アイツらと言う複数の人を指す言葉を吐いた瞬間、ブルーチーズを食べた時なんかとは比較にならないほど、渋い顔で、拳を硬く握り込む、伸びた爪が手のひらを痛いくらいに刺すがやめない。
嫌いだ。
「みんな
パァン!
強く拳を手のひらに打ち付ける。
「アセビお前は……
嫌、なんでもない今日は早めに寝よう、明日は一日中走らせても着くかわからないし。」
俺は口をついて出ようとした言葉を自分の中の誰かに止められて、誤魔化すように寝る言い訳をつく。
何も言えないように、抵抗もしないアセビに手早にピンク色の掛け布団をかけて、自分も質素なボロボロのブランケットを巻くと、寝息を出し、静かにさせて黙らせた。
「…おやすみ」
「ああ、」
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