1-12 鏡写し


「...おーいアセビ起き、」

俺は起きて1番にアセビの肩を揺らして、起こそうと手を伸ばした、その光景に手が止まる。


 少女を包み込むように飾る、

子供らしさと女の子らしさ満載のKAWAII ピンク、安全とクッションのため少しパツパツに見えるが触ってみれば指が沈み込むふかふかの布団。

薄めのピンクのふわふわの掛け布団から、

覗く顔がなのに儚げで、口元に置かれている小さい手が小動物のように見える、

その姿にあまりにも可愛いの過剰摂取で、

俺は両手を上げて絶叫する。

「かわいい!!」


少し寝起きが悪そうに目を覚ました。



長い長い荒れた土の道を走らせる車内で

アセビは窓の外を眺めながら、俺のことを無言でこまめにチラチラと見てくる。

「.......」


「忘れろっ」

俺はアセビに言い聞かせるようにそう言うが、


「...何のこと?」

「いや、それで良いんだ。」

俺はアセビの顔が見れないまま、

前だけを見て運転していると、


「....カワイイ」ボソッ


「オイ!…はぁーなんか見えたかよ?」

ツッコミの勢いのまま後ろを見ると、後部座席で俺をいじってはいるが、長い時間窓の外を見ていることに気づく、何を見ているのか俺も見ようと横の窓ガラスを開けると、


一面に広がる黄金景色。


「畑か、」


はるか昔、人に作られた畑なのに人の手を離れ、土は荒れ、水も汚染されてるはずなのに植物は仕事を全うして、むしろ生き生きと畑に米を咲かせていた。


誰も食べることはできない汚染された米なのに、見た目だけは綺麗な米、

「鑑賞用だな。」



目的の大きなホームセンターの駐車場に着く、でも誰もいない世界でそんな馬鹿正直にわざわざ遠い駐車場になんて停めない。

壊れかけのホームセンターの真ん前に停めて、

「アセビ、行くぞ仕事だ。」

「うん」

二人は歴戦の猛者のようにゆっくりとホームセンターに突入する。



「流石に食料が、少なくなってきたな

別に無いわけじゃないが健康的な食事は今日の夜までしかないな。」


「大丈夫だよ?」

「そうじゃない、お前が大丈夫とか関係無い、無くなったからココに探しにきたんだ。」

エイキチは見上げるアセビに、横顔しか見せないまま進む。


入り口を抜けると、何階も突き抜けた吹き抜けに、声が反響するほどの大きなホールに出た。

遥かに遠い上空はドーム状になって、

だだっ広い白い壁に、幾つも街灯の形をした照明が並び、

白の大理石に色々な色のタイルが埋まる床は

間反対に二股に分かれ、先が見えないほど遠くまで続いている。


そして中心にはシャンデリアだったモノが落ちて小山になっている。


俺は何度も見たものには目もくれず、

ズカズカと進み食料とか使えそうな物を探す。


「...他はビンテージのカメラ、絵の具とか画材、なんかも需要が高い。」


アセビが質問をしてエイキチはそれに食料になる缶詰類や長期保存食材を袋に詰めながら、答えて教えていた。


「食料は珍しければ珍しいほど高く売れる...

みんな飢えてんだよ。娯楽に、」


そんな達観したような俺は

汗を垂らして食料を袋に詰めながらアセビに言う。


「あの形はダメだ、あそこら辺にある宝石店は大体が偽物って、聞いてんのか?」


アセビを見ると俺の真横にあった、

鏡に映る自分が不思議そうに手を振ってみたり、背中を見てみたり、まるでダンスをしているようだった。


そんな下手なダンスに微笑ましさもあり、

笑いを堪える。


「ダンスッフ、上手いなハハッ。」

上擦った声に何か感情を感じたのか、

アセビのダンスは終わった。



「...エイキチは何が上手いの?チカラ?」


「俺は目利きだな

高いもの、珍しいもの、隠されてるものを見つけるのが上手い。


専門は皿とか壺工芸品とか、芸術品、金品宝石、まあ絵画とかだな。


筋力で言えば俺よりメタルとかカトレアとかまだ強い奴はいるぞ。」


「...へー」

アセビは今までやった事他の人も出来るのかと思うと少し引いた。


「話してるとすぐだなぁ、これ以上は俺の積載量限界だ、戻るぞ。」


戻ろうと長い道を辿りまたホールまでついた時、

「いいもの持ってんな?エイキチィ、」



声がした瞬間、アセビを俺の後ろに隠す。

「お前ガイヂか、」



痩せこけた老人の見た目をしているが、

ここら辺では有名な悪人。

何度か手を組んだこともあるが、

その度に盗みや裏切りを繰り返す、

いつしか噂が広がりすぎて、ココらでは居なくなったと思ったんだけどな。


デコに皺を寄せたエイキチは

ガイヂを見直す。


こんな時に面倒な奴だ。


「良いものって、背中に背負ってる食料のことか?別にそんな良い物でも、」


「そっちじゃねーよ、」


閉じてる片目を開くと、

研いだ鉄パイプで俺の背中に担いでいるものを指す。


「あ?じゃあ何のようだ。」


それにはエイキチも、牙を剥き出しにした歪んだ口、見開いた白目の中、孤立する黒い眼光、お互い静かなの重圧、殺気を放つ。


「ハハ何でもねぇよッ、お前が何庇ってんのかしらねぇけど、妊婦かよ。」


先に矛を収めたのはガイヂの方だった、

でも後コンマ一秒遅かったら、エイキチの拳が頭骨を砕いていただろう。


 この世界で生き残るには一番大事と言える技能がある、自らの実力を自覚し引き際を見極める、危機察知能力だ。

「ちっ、アイツ鈍ってねぇなクソが。」


見えなくなるとアセビを俺の後から出して、

肩を掴んで話す。


「ああ言う奴、危険な奴とは会話すんな。」


「分かった」


「本当か?まあ俺の身の届く範囲なら良いけどな。」


パラパラッと

目の前に小さな瓦礫が降ってくる、

今すぐ崩れるような予兆では無いが、いつかは……


「……そろそろ帰るかメタルの店に。」

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