1-5 バーテンダーでは無い
「無理だー…道が悪すぎる!」
アスファルトが無造作に隆起している悪路に、大きく揺さぶられながら突き進む黒のバン。
窓の外には明るく登っている太陽
それに照らされた、青臭い緑色が絡みつく壊れかけのビル、チカチカする電気式の街灯、
建物全てが完全に人の手から離れ百年以上経った、いつも通りの街並みが並ぶ。
「大丈夫だとは思うが、後ろに乗ってる原付固定から外れたら言えよ!」
と荒っぽく言いながら、俺はバックミラーを見るが、不思議と何も見えない。
「オイ!聞いてんのか」
返事もしない舐めた態度の少女に、仕方なく後ろ振り向くと、
黄色に塗られた原付が横たわっていた。
肝心のアセビはと目を動かして探すと、床で潰された血のように広がる髪しか見えなかった。
「オイー!なんか喋れよ!」
少女は注意した時には、すでにその原付が倒れて、静かに敷かれていたのだ。
俺は大急ぎで、車を止めた、タイヤから煙が出るほどブレーキを踏み込んで、すぐに原付をどかす。
ヨイッショ、ゴソゴソ
「しっかし結構な値段のロープで縛っておいたのになんでだ?」
まさかコイツが逃げるためにやったのかとも一瞬思ったが、今までのコイツの性格上、いや、この小さい存在の…生物上ありえないと自分が否定する。
よくよく原因を探すとかつて強靭なロープだった黒色のロープが、いつの間にか粉吹いて灰色の変色、そして切れている部分を発見した。
怪我がないか一応アセビの体を見たが、
怪我なんかよりも気になる所があった。
「ロープが弱くなってたのか……仕方ねぇな先に店行くぞ。」
1時間ほど車を飛ばして、崩れた世界を走り回った。
そして、全く隠れるつもりはないカラフルな迷彩柄の外観に大きく“メディクター”と書かれた大看板の店が見える。
ガラスの両扉を押して入ると、中はこの世界では珍しく綺麗にされていて、バカ広いホームセンターのように、多種多様なものが置かれていた。
「チッ7年は持つって書いてあんだけどなぁ」
俺は大きな袋を肩にかけて、ずらりと並べられた防犯グッズやキャンプ道具の中からまた同じ縄を選んだ。
「で…あっちか。」
そしてある程度の用を済ませたエイキチは、看板を目印に、店の端っこにラック一つしかない女児服コーナーに行く。
ラック一つをからにして、カゴいっぱいにつまれた女児服を、似合わない男が保つ。
その前から一枚のカーテン隔てて衣擦れの音が聞こえる。
アセビの細い身体より気になる点とは、元々白かっただろう服に、汚れがついて、
先の桶を洗う事件から背中部分に大きく穴が開いてしまった、服だった。
今は、新しい服を見繕う為に着せ替えをしているところだ。
着替え室のカーテンが開き、出てきた少女はかなり似合っている、清潔感のある水色のドレスを着ていて、可愛くくるりと回った。
「よしこれなら、」そう言おうとした直前、真後ろに俺より遥かにデカい
「なんだそのガキ」
「…お前には関係ねぇよ、黙っとけ。」
喧嘩腰に言葉を返すと、
その大男が、目を輝かせて話し始めた。
「ん?オマエはエイキチ〜、おーおーでも納得がいったぜ、お前はペドだったってな。」
瞬時に殴りかかろうとして、見る大大男の凶悪な顔、クマみたいな体格、とは言うが、その印象は断じて優しそう、とかふくよかで表せるヤワなクマじゃない、もっと凶暴なグリズリーとかの気迫の笑顔だ。
「俺ぁが何度もカトレアを抱いてくれって、言ったのに、あんな美人を抱かねぇなんてなぁ!」
大粒の涙を流しながら、袖を捲って、開かれた腕の剛毛に涙を吸わせる。
「うるせぇ!お前らの性癖につき合わせんな、美人って……200キロはほぼ軽自動車だろうが!流石に抱けるわけねぇだろうが!」
大男は丸太のように太い腕を顎に当てて、少女を覗き込むと、
「俺の嫁には…流石に負けるがしかし……
その少女はなかなかに美人だな。」
「だろ!最初はかなり汚れてたし、でも洗ってやったらかなり綺麗になったし!
コイツは仕事中にたまたま…あ」
その褒めたとも取れる言葉に、興奮と嬉しさ隠せなくなった俺はうっかり要らないことまで話してしまった。
「エイキチお前...仕事中って窃盗の奴だろ、それをなんでお前が、」
「……事情があんだよ、黙ってろ」
コイツだけには会いたくなかった、
理由がある。
「まあ俺ぁが教えた屋敷だしな問題が起きて当然か、背中の袋買い取ってやるレジに出せ。」
言われたまま袋の中身をレジにばら撒くと、
「また良いものが多いな、.....優秀な目だ。」
一言褒めると静かに職人の顔になり、鑑定作業を進めた。
その無言中毎回暇になる時間だが、今日は違った、近くからガラの悪い声が聞こえた。
「誰だよこんなとこにガキ置いてったの、
邪魔だろうが!」
「あ?」
少女を守るように間に立つ、俺を見たチンピラは少し驚いた顔をしたが、すぐに獲物を見つけた目になる。
「お前のガキのせいで俺んの靴が汚れちまっただろうが!金払えよ、払えないならなぁ、
代わりにコイツくれよこの見た目なら高値で売れる。」
「あ?!」
この声は、わざとチンピラを煽るような口調で言った。
俺はもう拳を握っていたし、一撃で相手を戦闘不能にできる一撃を、もう一言言われたら、相手の声が届くより先に拳が届いただろう。
真後ろから、ガーンと大きな金属音がしなければ。
一瞬にして振り返る。
「ちょっと待ちな、俺ぁな女の売買は気にくわねぇんだよ。この地区一つしかない店、お前使えなくするぞ!この荒廃した街で、店の出禁。それすなわち死だぜ。」
2メートルはある大柄な大大男が近くにあった飾り用途の物かと思っていた、大型のククリナイフを取るとそれはもうモンスターだった。
俺でもコイツと全力で戦ったら背骨を谷折りされる。
嫁も何度か見たことがある、痩せたら美人だろうと言う見た目をしているが、
太って居たとしてもあまりある美貌に今でもコアなファンがついている。
俺には意味分からねぇけど。
でもあの重さで俺の上に乗られたら、
嫁には別の意味で谷折りされる。
「や、やめるよメタル、
…っで、でも今度はカトレアとヤらせろよ。」
「ああそれは大歓迎だぜ!」
にこやかにナイフを土台に戻すと、メタルはモンスターから、この店の店主に戻った。
「はあー〜なんなんだ、コイツら喋んないアセビより疲れる。」
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