1-4 サイレンと

遠くで警察のサイレンが聞こえる夜

俺はいつもより早く目が覚めた。


「寝つき良ーな」

工場の壁にも着いていない、外からしか支えていない高い足場から、壁の隙間にちょうど見えるアセビを見ながら男はタバコに火をつけた。



「ゴホッケホッ  ハゥー、

孤児院出てもう5年か、何してんだ....俺。」

咳き込んで出したタバコの煙にどこからか光が差して過去の自分が写って見えた。



俺はエイキチ名字はない

いや、わからないと思う方が正しい。


もう記憶もない物心がつく前に

辺鄙な孤児院に入れられた。

そこで親に捨てられたって聞かされたが、

本当の話はわからないアイツらのことだ金を受け取って売買に加担しててもなんの違和感もねぇ。


シスターぶったババアどもは食事のマナーが汚いとか俺の黄色の肌は汚れているとか

勝手に因縁をつけて、


鞭打ち 食事抜きなんて毎日当たり前で、

暗い地下室で監禁されたり

裸で教会の塔から吊し上げられたり、


たまに聖杯に血を溜めて飲ませる

変なお仕置きもされた。

要はそんな場所だ。


裏ではカルト的なことに手を出しているのにそのくせに外面だけは完璧に演じて、高名な心の広いシスターの居る、孤児院も兼ねた教会ともてはやされる。


最低の場所だ。



そんな中でも俺と仲良かった奴がいた。


最初は誰も近づいてこなかった、

お仕置きをよくされる俺をみんなは問題児とでも思ったんだろ、どうでも良くて無視してた俺も悪いとこはあった。


でも気づいたら勝手にみんなの渦の真ん中に立たされてたのには流石に驚いた。


俺は最初からこの孤児院に違和感しか感じてなかった、通常は親と子供の関係に成るモノが、王と奴隷のように扱われるどれも狂った関係性。


それを言わされたんだ、そしたら俺を取り囲み話を聞いてた奴らが、ババアから貰えるご褒美なんかより、自由を求めるようになった。


俺はここを出ても使えそうなダチと逃げたが俺以外はあっけなく警察に捕まり、

孤児院ではなく監獄に直で送られた。

俺もその後は警察に追われて逃げ続けた。



多分あのババアが警察に金でも渡したんだろ、ただの孤児院にしては異様に豪華だったりした。

シスターしか入れないエリアとして口うるさく話された、

だだっ広い廊下には黒丹の両開きの扉。

両脇に置かれた高価そうな花瓶、

絵画にさまざまな工芸品。

下に敷かれたのは外観質素な石造りの孤児院に似合うわけないレッドカーペット。


脳裏に焼きついた

あいつらのうすらニヤけた面、

外風の寒さかわからないが今でも寒気がする。


でも1番記憶に残ってるのは、彼の顔だ。


俺を仲間達の外から内に入れた張本人、

気がついたら入れられていた話術に

変に知恵の効くやつだと思った。


もちろん彼は使えると思って孤児院を抜け出す参謀のような立ち回りまでさせた、それでも。


「覚悟したろ!行け!」

柵の上に乗った俺に手を伸ばしたかと思うと、俺を外に突き落としてくれた。


「アイツの名前は確か....」


そんな一刻ほどの時間しか形取らない過去回想に耽っていると、風の音に消え入れてしまいそうなか細い泣き声が聞こえた、

俺は驚いて、九分目以上残っていたタバコをベランダから、火のついた面とフィルターの面の上下をゆっくりと回転させながら、地面方向に垂直の直線を描いた。


タバコはフィルターを下にして落ち

地面につき風に吹かれ倒れると泥で包まれる。


「…アイツか?」


コツコツ…

作業用梯子を使い外通路から

オレンジ色の階段を音を出さないように静かに降りて覗くとやっぱりアセビの声だった。


ブランケットが二枚もかかっているのに

震えているアセビを見て、アセビの腕の間に手を入れ確認すると、

冷え切った手で手を握られる。



驚いたが、起こさないように慎重に指を離していく、最後の二本になるとまた涙が出てきて、握り直される。


振り出しに戻る、何度か繰り返すがうまくはいかず、男は仕方なく自分の防寒具自分にかけて、寝床に入ると少女の頭を優しく撫でてやる。


「オイオイどうした、


あんな家で暮らして

閉じこもっちまったのはわかるけど、

お前もまだまだ子供だな。」


覚悟か……俺にはあるのか、

なぁ…親友。

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