1-2 アセビ家


 経年劣化した黄ばんだガラスが割れ、工場の主な原料の鉄は盗まれてほぼ残っていない。

廃工場とはいえ、建物の中にまで緑が生い茂っていた。


そして適当に敷いてやった大きめの布団の中で、朝起きるとアセビに膝枕されていた。


「何してんだ?」


 柔らかく、凹凸のないなだらかな足で、かなり気持ちいいが、あまりの柔らかさに少女の細い太ももに俺の頭が沈む。


「いつからやってんだよ、」


 はなれてもくっきりと頭の形が残る足を見てしまう、男は自分のトゲトゲした髪を触り、黒色の厚手のニット帽を被らせる。


「飯食うか…」


 バンの後ろ、食料を備蓄している段ボールから何個かの缶詰や袋を取り出す。

準備をしてやると、食料の気配を感じ取ったのかアセビはほっせー腕で率先して手伝おうとする。


「腹減ってんのか?缶とか開けるだけだし手伝いなんていらねぇぞ。」


四角いプレートにベトベト…ベチョと携行食乗せていき包装していた物をそこら辺に投げ捨てた。


「…いただきやーす」

軽く手を合わせると俺は食べ始める、


アセビは要らないと言った手伝いを、手伝ったのに見ているだけで食べようとしない。

「どうした?見てないで食べろよ。」


 アセビはまたキョトンとした顔で俺の目を見てくる。

「だから食え。」

再度食べるように言うと、


少女は男の捨てた包装にこびりついた、

通称ゴミやカスと言われる部分を乾いた舌で舐め取り、口の中に入れ、モグモグと食べ始める。


モソモソと包装紙を口に入れ、しまいには鋭利な切り口の缶を丸ごと口に入れようとした瞬間、


「お前っそっちじゃねーよ!

こっち食え、こっち。」

アセビの持つ缶を叩き落とし、

もう一つ目の前にあるプレートを指差す。


……コクリ

アセビは初めて混乱した人みたいな動きを見せて頷くと、俺が不味そうに時間をかけて食っていた携帯食料を一瞬で食べ終えた。


「アセビ、食ったな。」


『じゃあそろそろ』そう口から出そうになった俺を感じ取ったのか、少女は無言で車の座席に座った。


そっちの方が俺にとっては楽だけど

なんだかわかんねぇな、立場がわかってるのかわかってないのか次の行動が理解できている様子で少し…


わざわざ思うことでもないか。


俺もバンに入ると運転席から携帯電話を取り

少女の空な目を向く。


「そろそろ話してもらうぞ、

家族の電話番号言え。」


000ー960ー960

ブーブーブーブー……プツ

やっと繋がった。


「あーあー聞こえてるか、お前の娘を誘拐している命が惜しければ………はあ!?」


少女は静かに息を整えそっぽをむく。


「おい...何言ってんだお前!」


あまりの不快な言葉の数々に拳に力が入って、音量を上げるボタンを押してしまう。

そこでやっと電話の声が耳に届いてくる。

「だからぁいらないんですよ!


ありがとうございます引き取ってもらって、

こっちも処分に困ってたんです。」


「オイ!!テメェそれでもッ...」


お前...アセビ

そうかだからかあんなに衰弱した目で

ずっと俺を見てた。


この人は自分に何をする人なんだろうって。


「身代金?ソレに価値なんてありませんよ。

では絶対に!持ち帰ってこないでくださいね。」

プツッツーツー


子供が誘拐された電話に、しかも親なのに、

それを聞かされてなお異様な喜声よろこぶこえ


一方的に切られた携帯電話を横の窓ガラスに投げつけ、蜘蛛の巣に似た大きなヒビが入る。


「ふざけんな!ってかクソー!

…金になんねーじゃん。」



身代金 無料フリーの少女アセビと

天涯孤独を貫いてきた男の二人旅旅、はじまりはじまり。

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