身代金フリー

(アックマ)

1-1 はじめてのゆうかい


ある豪華な洋館の敷地内、

男は金品の音が鳴る大きな袋と死体のように動かない少女を抱えて、門の前に止めてあった黒色のバンに駆け込む。


心臓の鳴る音が耳元から聞こえる、

指先が膨れ上がる感覚がある。


車がグラグラと

心臓の音より小さく揺れる。


その指で少女の体を手早くでも繊細に縛り上げ、転がるように車のエンジンをかける。


ハンドルを握ると少しだけ心が静まる。

「焦るな焦るな、はぁはぁ..はー」


男は深く被ったニット帽から覗く鋭い目で少女を睨む。

「お前動くんじゃねーぞ

殺しはしない身代金目当てだからな

...静かだな。」


少女は常に死んだ目で俺を見るだけ、

誘拐する直前も何も無い一室で椅子に座って動かなかった、混乱してんのかと思ったが、表情からは読めそうにない。


血走らせた目で何も走って居ない道路を見る、


バンを走らせて数十分、

少し離れたところにある錆切れた廃工場に開いた大穴に車のまま入る、


「ここなら大丈夫だ、どんな悲鳴あげても聞く奴はいない。」


1番近い避難所も数キロは離れている辺境、

近くにはあの屋敷ぐらいしか無い。


「まず気づくのか?

あの大きな屋敷にガキ一人おかしいだろ!」


男の拳がハンドルに下ろされ、外から見たバンが大地震の中のように前後に揺れる。


「固定電話も出るわけねぇか、

...数日待つか?いやそんなことしてたら警察に特定される」


イライラを抑えるために、指を曲げた関節部分を鋭い犬歯で噛む。


その癖が出る原因を見ると、


白い服も純白の生地の端が少し黄ばんでいた。

髪は綺麗な勝色、黒にも見える暗い藍色をしているが、濡れているような異様なテカリ


垂れた髪から覗く、目をつむっている少女。


「誘拐されたってのに安心した顔しやがって

おい起きろ!

...,家族の電話番号わかるか?」

優しく肩を叩くと、パチリと大きな目を開き、白眼との縁のない淡い黒色が見える。


その目はキョトンと俺を見る。


「テープが邪魔か?」

口に貼られた肌色のテープを、少女の柔肌に傷をつけないようにゆっくり取る。


プルンッ

口紅が塗られてるんじゃないかと思うほど赤い血色のいい唇、形も...良い


気がつくと目で追ってしまうそんな邪な目を向けても嫌悪感どころか、その目には何も無い、

まだ見られて居て幸せとか感じてそうな顔してる、まあ俺の妄想だが。


「ああもう良いなんかしゃべれ!お前は」


俺の目を見られている、


「喋らねぇのか、...お前舐めてんのか?

ああ!」


座って居ても自分より明らかに大柄な威圧感のある男に、また上目遣いで見上げる。


なんか喋れよ、悪い気持ちになってくるまあ誘拐犯だし悪いことは確かだけど。


「お前は誰だ

そんぐらいはしゃべれんだろ。」


「ア..セビ...」


「アセビ..アセビか、

アセビお前の白い肌に、整った骨格、黒めの髪だから分かりずれーが、白人だな。」


コクリッ

少女は無言で細すぎる首を振る。


「親もか?」


少女は固まり辺りの野鳥の鳴き声木々の波音が聞こえる、人口の音はやはり聞こえない。

シーン


「ああ!母親が白人か?」

コクリ


「父親も白人か?」

コクリ


「はぁーめんどくせぇの引いちまったか?

しゃべんねぇしそれに...あの屋敷」


剥がれた鉄板の穴から、空も暗くなり煌びやかな星夜空が見える、

いつもと変わらない平凡な夜だ。


「チッ、もう寝るか、

風呂なんて入れないぞ。」


初めてのことによる疲れか早く寝れた、

でも気に食わないことがある、

俺の意識が暗闇に落ちる、

その時すでに寝息が聞こえていた事だ。

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