ゐ
ピンポンパン、ポーン。
変な間を持ってお知らせ音が鳴る。
「間もなく、谺。縺ョ鬧?↓蛻ー逹?閾エ縺励∪縺吶?ょ●霆翫?髫帙?∬サ「蛟偵↑縺ゥ縺ョ縺ェ縺?h縺??√豌励r縺、縺代¥縺?縺輔>」
相変わらず聞き取れない。
ピンポンパ、ポーン。
席に座り直す一同。夜風と鷸成は仲良く手を繋いでいた。
ほどなくして列車が停車し、ビーッという耳障りな汽笛と共にドアが開く。一行は外に出た。
「あと二回か」
去りゆく列車を見ながら瞳が呟く。「37564」の真ん中まで終えたことになる。あと二つでゴールだ。
長かったな、と瞳が思う脇で、睦ががたがたと震えていた。
「嫌な予感がする。なんだかとっても嫌な予感」
まあ、睦が根拠なくそんなことを言うのはままあることである。爽が宥めた。
「あと来てないの、睦くんと夜風先輩だからね。次来る確率上がったら怖いよね」
もう既に終わった者の余裕である。というか爽は「ある法則性」に気づいており、次がどちらであるかはわかっている。だからこそ、睦の懸念が杞憂に終わらないことを知っているのだ。
言われて夜風がああ、と納得する。
「言われてみればそうだな。あと二人で、私も来ていない」
「大丈夫! よかちゃんのことは俺が守るし、助ける!」
夜風の手を握って決然という鷸成。その意気やよし。
しかし、睦の震えは止まらない。
「そういうことじゃないんだよ……なんかずっと、違和感があって……」
「違和感?」
爽が聞こうとしたそのとき、ガタンゴトンと迫ってくる音が聞こえた。
箕輪がこてん、と首を傾げる。
「あらぁ? いつもより早いですねぇ」
確かに。今までなら少しは話し合える時間があった。早くないだろうか。それは一同が思ったことだ。
だが、残酷にも列車が迫ってくるライトが見えて、更にはもはや騒音と変わりないお知らせ音が鳴る。
「間もなく、蛻苓サ翫′蛻ー逹?閾エ縺励∪縺吶?ら區邱壹?蜀??縺セ縺ァ縺贋ク九′繧翫¥縺?縺輔>」
ノイズと何ら変わりないアナウンスに、鷸成が顔を歪める。とりあえず、六号車前に移動するしかなかった。
移動途中、ふと壁を見た瞳があれ? と思う。思わず立ち止まり、壁に感じた違和感を探るために凝視した。
「ちょっと瞳、列車来ちゃうよ」
「ん、ああ……」
頭の中を整理して結論を出す前に、爽に促され、六号車の位置に向かう。列車が構内に入ってきた。
この違和感はなんだろう。睦ではないが、何か見過ごしてはいけないもののような気がする。……考えすぎだろうか。
列車が到着し、ドアが開く。もう一度壁を確認したかったが、後ろが支えているため、車内に入った。
「間もなく、蛻苓サ翫′逋コ騾イ閾エ縺励∪縺吶?るァ?¢霎シ縺ソ荵苓サ翫?縺秘□諷ョ縺上□縺輔>」
何を言っているかはもはやほとんど聞き取れたものじゃないが、おそらく発車前の駆け込み乗車云々のことだろう。それにしても、今回はスパンが短い。早く終わらせたいのか、それとも何か
車内はお馴染みの質素なグリーン車だ。ドアが閉まると、ゆっくりと動き出す。
僅かだが、考える時間はあった。その短い時間で瞳は違和感の正体について、漠然とはしているが、まとめることができた。
「なあ、みんな、さっきの壁なんだが」
と皆の目が瞳に向いたところで気の抜けるお知らせ音が鳴る。
「縺比ケ苓サ翫>縺溘□縺阪?√≠繧翫′縺ィ縺?#縺悶>縺セ縺吶?ゅ%縺ョ蛻苓サ翫?六号車縺特別車両縺ィ縺ェ縺」縺ヲ縺翫j縺セ縺吶?ゅ←縺?◇縺頑・ス縺励∩縺上□縺輔>縺セ縺」
辛うじて「六号車」と「特別車両」が聞き取れた。正解で合っているらしい。
それはよかったのだが、瞳の遮られた発言が気になり、爽が瞳を見る。
「それで、瞳……」
バツンッ。
電気が消えた。
これは則ち、映写機による「上映」が始まる合図だ。いくらなんでも早すぎる。
「待ってよ、心の準備くらいさ」
睦の台詞が途切れた。鷸成のときと同じだ。
「……鹿谷の車両ということか」
「むっくん、泣いてないといいですが……」
子どもじゃあるまいし、と残る一同が箕輪の発言に心の中で突っ込んだ。が、箕輪は言葉を連ねる。
「むっくん、あれで寂しがり屋さんですからぁ、心配ですわぁ」
「え、むっちゃんって寂しがりなの~?」
鷸成が食いつく。
「そうなんですの。移動教室とかで時々お見かけするのですが、教室の隅で消しゴムのカスを弄って気を紛らしてるみたいでしたわぁ」
「それはぼっちによく見られる傾向だね~」
「決めつけるのはよくないぞ。そうやって遊ぶのが趣味なのかもしれん」
箕輪、鷸成、瞳、と徐々にずれていく論点。黙って眺めていた夜風から一言。
「言ってる場合か?」
それは確かに。
ここは睦が囚われている過去から救うための作戦会議でもした方がよっぽど有意義だ。
だが、これまでのメンバーの過去でさえ、知らないことだらけだったのに、小学校に途中から転校してきた睦のことなどわかるだろうか。どんな過去があるのか、予想すらできない。
睦自身も「どれがくるかわからない」とまで言っていたのだ。睦に予想できないものをわかるはずがない。
身構えるくらいしかできない。
少し長めの暗がりが続く。幸いなことに暗所恐怖症の人間はいなかったので、耐えることができた。
やがて、明るくなっていくと共に聞こえてきたのは、非常に聞き馴染みのある鐘の音だった。全国共通といっても過言ではない、学校の鐘である。
きーんこーんかーんこーん、と呑気に鐘が鳴る中、児童たちは解放されたかのようにざわめき出す。授業終わりのようだ。
そこはどこぞの学校の教室で、睦は窓際の一番後ろという誰もが羨むような位置に陣取っていた。転校を繰り返していたというから、端っこの席になりがちだったのかもしれない。
児童たちの声が騒がしい。「次何の授業だっけ?」「そんなのどうでもよくない?」「あと一時間頑張ったら給食だー!」と各々に楽しみを口にしたり、談笑をしている。
睦は机の中をがさごそとし、次の授業らしい国語の教科書とノートを取り出す。他の子どもたちにはプリントが配られ始めたが、何故か睦のところには届かない。
見ていて不思議に思った睦が、係の子に声をかけに行く。
「あの」
「きゃはは! 何それめっちゃ面白いー」
「あの」
「えー、面白いじゃん」
「あの」
「笑いのツボ浅い? ははは、よく言われる」
「あの!」
四回目の呼び掛けで、友達と話していたらしい係がようやくびくんと反応する。声を大きくしたからだけではなく、肩をぽん、と叩いたからだろう。
瞳たちは無視という名のいじめかとも思ったが、本気で気づいていなかったらしい。
「いたの? びっくりしたー」
そんな係の子を見て、その友達が「今の見た?」「ガチビビり」「マジウケー」などとからかう。係の子をからかっているようだが、いじめではないだろう。「まあウチらも全然わかんなかったしねー」とか言っている。
影が薄い、と睦のことを思ったことはないが、もしかしたら影が薄いのかもしれない。睦の場合、転校を何度も繰り返しているから、学校に馴染むのが大変だったと聞いているし、そもそも馴染む前に転校を余儀なくされたこともあるらしい。とはいえ、これは傷つく。
「で、何?」
「あの、僕の分、プリントないんだけど」
「え? おっかしーなー。先生から渡された分全部配ったんだけど」
では配り間違いだろうか。誰かが二枚持っているとか……と思ったが、誰も出てくることはなく、そのまま授業の時間になってしまい、先生が入ってくる。
「先生」
挙手している睦のことなど眼中にないように授業が進んでいき、配ったプリントを出してほしい、と言われたところで、堪らず睦が声を張る。
「先生! 僕にプリント配られてないです!」
「は? 人数分刷ったはずだが……三十五人だよな?」
教師の発言に室内がどっと湧く。きょとんとする教師に、腹を抱えて笑いながら、児童の一人が指摘する。
「先生ー、その年でボケたんですかー。三十六人ですよー」
その通り。机は縦六列、横六列で三十六ある。ということは……
「ああ! すまん、俺が刷るの忘れたみたいだ。隣のやつに見せてもらえ」
「……はい」
睦は着席すると、隣の女の子にプリントを見せてもらった。
「なんて教師だ。小学校は全教科を担当するから、自分のクラスの人数は覚えていて当然だろうに」
瞳がぐちぐちという。
「まぁ、敢えてフォローするならぁ、むっくんが来たばかりだったのでしょうねぇ。むっくんは私たちの学校に来るまで、半年以上同じ学校にいたことがないそうですからぁ」
箕輪も敢えてというくらい、それはドン引きの事態だった。担任から存在を忘れられるなんて堪ったものではない。いくら転校が多い児童とはいえ、自分の担当するクラスに来た以上、しっかり覚えて、過ごしやすいようにフォローするのが教師の役目というものだろう。
これは瞳の考えであって、世の教師がどう考えて行動しているかなど、一生徒に過ぎない瞳たちにはわからない。
ただ、クラスメイトからも存在を忘れられているようなこの状況では、不便であっただろうし、肩身の狭さに拍車もかかったことだろう。
自分たちの知らないところでは、睦はこんな苦労をして生活していたのか、というのを瞳たちは初めて知った。思えば、睦は自分からこういう過去を語ろうとしなかった。語るほど大したことでもない、と判断したのかもしれないが、どう考えたって、これはひどい。
そもそもこのプリントが足りない問題に関しても、配る側も、後ろに回す側も気づかないのはおかしい。正確に人数を把握しているなら、睦のいる列でプリントが足りないことに気づくはずだし、後ろに回す分が一枚足りないことも気づいて当然なのだ。
それを気づかないふりをしているのだ。けしからんやつらめ、と瞳は怒るが。
「リーダー、この人たち、何の悪気もないよ~?」
「悪意の臭いがしない」
「え」
鷸成、夜風からの進言に、瞳が驚く。悪意なく、こんないじめのようなことを?
不思議がる瞳に箕輪がふふ、と含みを持った笑みをこぼす。
「子どもは残忍な生き物ですよぉ? 無垢という言葉をご存知ですかぁ? 無垢であるが故に、どこまでもどこまでも残酷になれるものなのです」
そう語る箕輪は達観しているというよりか、身を以て知っているように聞こえた。
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