司馬昭の演説

 鄧艾は、司馬昭・賈詡・夏侯玄を牢屋から出すと逢紀・郭図・審配の方に向き直る。


 鄧艾「できるだけ痛くないようにするが」


 郭図「遠慮は要らぬ。そうでなければ、曹丕様を騙すことなどできんであろうよ」


 審配「痛いのは苦手なんだが」


 逢紀「本当に曹丕様では無理なのか。あの方は、袁尚の元から寝返った我らを重用してくれた。できることなら」


 鄧艾「無理だろう。曹丕様は、この状況で尚、司馬懿と手を結ぶことを決め、曹操様に抗おうとした。非人道的な行いをしてきたのが司馬懿だとそれに曹丕様は巻き込まれただけだと必死に説いてきた夏侯玄殿の忠節を無にしたのだ。もはや、曹丕様に民衆も兵も付いてこない。この選択を後悔させないと約束する」


 逢紀「わかった。やるが良い」


 3人とも短い悲鳴を挙げて、気絶する。


 見張りの兵「俺は何も見てねぇよ。ほらよ」


 司馬昭「何をしてるんだい?」


 見張りの兵「傷だらけになってた方が脱走を食い止めたって、現実性が増すだろ。ほらよ。数発は、殴ってくれや。俺も曹丕様のやり方ではもうダメだと思ってたんだ。声を上げられなかった代わりに協力してやるからよ。ホラ」


 鄧艾「君の忠節を無駄にしない」


 見張りの兵「んなこと気にすんな。顔は腫らしといた方が良いよな。最後に顔面を殴られて気絶したって現実性が増すだろ?」


 司馬昭「笑顔で言うことでは無いと思うのだけど」


 見張りの兵「いや、なんかこういうの初めてだからよ楽しくてよ」


 鄧艾「では、行くぞ。歯を食いしばれ」


 オラァ。

 オラァ。

 という掛け声で数発殴り付け、色んなところが腫れ上がる見張りの兵。


 見張りの兵「いやいや、待て待て。こんなに痛いなんて聞いて。おごっ」


 最後に鄧艾の拳が顔面にクリーンヒットして、その場に仰向けにノックアウトする見張りの兵。


 司馬昭「これは流石にやりすぎなんじゃ」


 鄧艾「これぐらいやっておかないと抵抗したと思われないだろう」


 賈詡「それにしても、これ生きてるのか?」


 夏侯玄「ピクピクと痙攣しているので、大丈夫でしょう」


 司馬昭「で、次はどうする気なんだ?」


 鄧艾「司馬昭殿には身内のしてきたことを洗いざらい民衆と兵たちに話してもらう。辛いだろうが」


 司馬昭「なんだ、そんなことで良いのか。要は、曹操の方に味方するように誘導しろって事だろ?俺は魏が曹操の元に戻ったらよ。この国出るわ。愛に生きる事に決めたからよ。最後の仕事として、やってやるよ」


 賈詡「愛に生きる?」


 司馬昭「おぅ。蜀漢の王粛ってやつの娘がすげぇ美人なんだよ。惚れてんだ。安心してくれ。戦になっても蜀漢に協力はしねぇからよ」


 賈詡「敵国に行くという人間を見送る者など居ない」


 夏侯玄「いや、見送ろう。司馬懿の失脚のため協力してもらうのだ。それこそ、司馬昭殿の身の安全も保障しなければならない。それでこそ公平である」


 賈詡「何を言ってる!蜀漢にまた人材が流れる事など許可できん」


 鄧艾「賈詡殿、気持ちはわかるが。司馬昭殿の蜀漢には協力しないという言葉を信じるしかない」


 賈詡「そんな口約束など信用できるか!」


 司馬昭「まぁ。そうだよな。でも元姫の奴が、こっちに来てくれる可能性は皆無だしな。俺が向こうに行くしかねぇんだよなぁ」


 賈詡「そんなこと蜀漢の張飛が夏侯淵殿の姪にしたように奪えば良いだろう」


 司馬昭「無理だろ。俺は元姫の奴を悲しませたくねぇしな。それに、夏侯淵殿の姪は、奪われたのか?強引に奪った奴との間に幸せそうに4人もの子供を産むのか?」


 夏侯玄「賈詡殿」


 賈詡「わかった。勝手にしろ。但し、敵として出てきたら真っ先にその首、狙ってやる。覚悟しておけ」


 司馬昭「あぁ。良く心に留めておくよ」


 司馬昭は、華北最大都市、鄴にて集まった人々を前に演説を始める。


 司馬昭「こうして、集まってくれた皆に話したい事がある。今、ここに曹操様の大軍が向かってきている」


 ざわざわする民衆たち。


 司馬昭「だが安心して欲しい。曹操様は皆を救いに来てくれるのだ。ここで、僕が知る限りの真実を話そうと思う。我が父、司馬懿についてだ。司馬懿は、曹丕様に臣下から人質を取るように進言した。それは、全て。後に、父が曹丕様に罪をなすりつけて、反乱を起こすためだ。父は、この国を曹家から簒奪する計画をずっと立てていた。しかし、曹丕様とて、それを受け入れた。臣下の子供や妻を人質に取ることなどあってはならない事だ。それを止められなかった責任は、父の子である俺にもある。だから俺はここに父、司馬仲達の罪を告白する。父は、許昌にて曹操様の暗殺を企てただけでなく、呉王が操られていた件や蜀漢の内乱にも関与している。自らの手を汚さずに奸計にて、三国を貶めようとしたのである。こんな犬畜生にも劣る者を決して許してはならない。覚悟ある者は、武器を持ち曹操様に力を貸して欲しい。この国をより良い方向に導く事ができるのは、曹操様をおいて、他にいないと断言できる!」


 悲鳴のような声の後、皆が武器を取り、うおおおおおおと大歓声をあげる。

 そして聞こえてくるのは、『狙うは司馬仲達の首』『覚悟せぇ』『曹仁様たちの心変わりの原因は、司馬懿のせいだったのね許せないわ』などと民衆が一致団結して武器を取ったのである。

 この結果、勢力図は大きく変わることとなり、曹丕に付き従う華北の兵は10万にまで減少し、兗州を治める司馬懿の兵30万よりも下回ることとなり、大戦犯は誰がどう見ても曹丕にしか見えない。

 それどころか曹操の兵は10万から100万に膨れ上がり、誰がどう見ても曹丕と司馬懿に勝ち目などなかった。

 これに対して司馬懿は、選択を迫られることとなる。

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