鄧艾の計画
曹丕が司馬懿と和解の相談をする少し前のこと鄧艾は曹丕によって呼び出されていた。
鄧艾「失礼します曹丕様。お呼びと聞き、参上しました鄧艾です」
曹丕「入れ」
鄧艾「はっ」
曹丕に促されるまま玉座の間に入る鄧艾は、曹丕の前まで行くと跪いて、頭を下げる。
曹丕「よく来てくれた。父が挙兵してことは知っているな?」
鄧艾「はい。これで反」
そこまで言いかけた後で頭の良い鄧艾は考える。
鄧艾は、普通に曹丕と曹操で挟み撃ちにして司馬懿を叩くものだと考えていた。
しかし、本当にそうだろうか?
曹丕と司馬懿が結んで、曹操を相手に戦をするということは考えられないだろうか?
一抹の不安を覚えた鄧艾は、相手の出方を探るべく、言葉を変える。
鄧艾「はい。これで反乱が治れば良いですが」
曹丕「反乱か」
鄧艾「違うのですか?曹操挙兵の知らせは反乱だと思ったのですが」
曹丕「その通りだ!ようやく話のわかる奴に会えて俺は嬉しい。賈詡の奴も夏侯玄の奴も、俺に父と手を結び司馬懿を討つべきだと進言した。全く、それではようやく手にした俺の覇権が父に奪われるではないか。お前もそう思うであろう鄧艾よ」
鄧艾「はい。その通りかと。曹操が再び返り咲けば、曹丕様の天下は大きく乱されるかと」
曹丕「うむうむ。その通りだ。司馬懿と通じていたらしい逢紀・郭図・審配も信用ならん。そこでだ全員を牢に閉じ込めておくことにした。俺が司馬懿と和解交渉をしている間、アイツらの見張りをお前に頼みたい。やってくれるな?」
鄧艾「はい。その大役、お受けしましょう」
曹丕「今にして思えば、司馬昭の奴を司馬懿の間者と決めつけて、殺さなくて良かったと言える。丁重に扱うようにな」
鄧艾「承知」
曹丕が司馬懿と和解交渉に向かうのを見届けると鄧艾は、ホッと胸を撫で下ろす。
鄧艾「これでようやく反撃の機会が訪れましたなと言わなかった自分を褒めてやりたい。恐らくこう言っていたら俺も今頃、牢屋にいた事だろう。それにしても曹丕様はこの後に及んでも司馬懿と結んで、曹操様と戦う道を選ばれるのか。これでは、せっかく悪い噂の払拭に動かれていた夏侯玄殿の行為を無にする事となる。やはり、この国を治められるのは、曹操様をおいて他にはいない事が証明された。なら俺がすべきことは」
その頃、牢屋で見張りをしている男は眠たそうな顔で、苛立ちをぶつけていた。
見張りの兵「ふわぁ〜。全く、1人しかいなかった牢屋がいつの間にか大所帯になったなぁ。ふわぁ〜。お陰で、こっちも寝不足になっちまった」
司馬昭「ハハハ。本当に申し訳ない。でも僕は彼らよりは優等生だったと思いますが」
見張りの兵「確かにな。今にして思えば、アンタと2人きりの時の方が楽だったぜ」
司馬昭「うたた寝もできてましたしね」
見張りの兵「おぅおぅ。絶対に曹丕様には言わないでくれよ」
司馬昭「勿論だよ」
司馬昭と賈詡たちは別々の牢屋に閉じ込められている。
勿論、この2人の会話は、隣の牢屋で向かい同士で罵り合う声に掻き消されて、聞かれることはない。
賈詡「逢紀、司馬懿と通じて、そこまでして保身に走りたいのか!」
逢紀「曹丕様を守るためだというのが何故わからん!司馬懿とまともにやり合って曹丕様が勝てると本気で考えてるのか?」
賈詡「そうやって、口を開けば曹丕様のためと。言ってる事とやってる事が矛盾している事が何故わからん!」
逢紀「矛盾などしておらんわ!」
賈詡「口では曹丕様のためと言いながら行動は司馬懿に利していると言ってるのだ!」
逢紀「んなわけがないだろう!司馬懿と通じて持久戦に持ち込む事で、最小限の力で司馬懿を倒せると考えたまでのこと。お前のように戦を仕掛けていれば、負けていたのはこちらであったわ!」
賈詡「違う、戦を仕掛けない事が司馬懿の勝ちに近付いていたのだ。お前は司馬懿よりも恐ろしい男の存在に気付いていないだけのことだ!」
逢紀「ほぉ。司馬懿よりも恐ろしい男が向こうにいると。ぜひ聞きたいものですな」
賈詡「蜀漢の益州侵攻軍の総大将を務めていた劉義賢の存在だ!」
逢紀「はぁ。それも司馬懿が結んでいる限り、安泰でしょう。全く」
賈詡「我らとも素知らぬ顔で、停戦条約を結んだ男が何も考えていないと?あの男と対面して、俺は全てを理解した。司馬懿などと比べ物にならないぐらい恐ろしい男だとな。だからこそ早々に、魏をもう一度曹丕様の旗の元、一枚岩にする必要があったのだ。その機会を貴様は奪ったのだぞ!」
逢紀「だったらあの時、そう言えば良かったではないか!反対意見だけしか述べなかったお前にも言葉足らずな部分があったということではないか!」
賈詡「この頭でっかちが!それに例え司馬懿と曹丕様が手を結ぼうとも曹操様には勝てん。それは袁紹との戦で、お前が1番良くわかっていることだろう!」
逢紀「何を言っている!アレは許褚という化け物の存在があったからこそ成し得たことであろう。そうでなければ、袁紹様が負けるはずが無かったのだ!」
賈詡「もう良いわ!貴様と話していると疲れるだけだ!」
逢紀「それはこちらとて同じこと!」
そこに鄧艾が現れる。
鄧艾「まぁまぁ、お2人さん。魏を想う気持ちは同じではないか?そこで提案なんだが、ここにいる面子で、曹操様を新たな魏王にお抱えするという俺の計画に乗って見ないかい?なーに、協力してくれるなら簡単なことだ。逢紀殿には、曹丕様に鄧艾が裏切ったと伝えてもらう役目を任せる。成功したら、曹操様に逢紀殿たちの今後の補償を約束してもらう。どうだい?」
賈詡「俺としては、願ってもない話だ。早々に魏を纏め上げないと蜀漢に奪われかねん」
郭図「我らは、曹丕様を裏切ることなどできんよ。だが、確かに曹丕様では限界なのかも知れん。協力はしてやるが補償など必要ない」
郭図の言葉に逢紀も審配も何も言えなかった。
そんなことわかっていたのだ。
わかっていても認められなかったのだ。
こうして、鄧艾による計画が実行されるのだった。
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