漢中の無血開城
投石攻撃が暗くなる頃に止まった。
曹仁「なんとか今日を凌げたか。皆、よく頑張った。しっかりと身体を休めるのだ」
ドンドンドンドンと太鼓が打ち鳴らされ始め、その後にうおおおおおおという声が鳴り響く。
曹洪「全軍、警戒せよ!蜀漢の奇襲だ!」
しかし、声は聞こえるものの闇の中、何処から来るのかわからないため闇雲に弓だけを打ち込み、翌朝、俵にいっぱい突き刺さった矢を前に。
龐統「曹仁殿〜。アッシらにこんなにたくさんの矢を消費してくださり感謝しますぞ」
曹仁「やられた。昨日の奇襲は闇夜に乗じて、こちらから防衛の物資を削ることであったか」
法正「そして朝になりましたな。魏軍はすっかり寝不足のようだ。投石攻撃を開始せよ」
2日目は普通に攻めてきたりと代わる代わる行動が変化する蜀漢を前に、曹仁たちはすっかり疲弊していた。
曹純「兄上、我が虎豹騎隊に是非とも投石機の破壊を!」
曹休「曹仁殿、このままでは、遠くない未来。我らの敗北は必定。今、ここで投石機を破壊せねば」
曹仁「ならん。今は耐え忍ぶ時。必ず必ずや曹丕様が洛陽の反乱鎮め、お戻りになられる。その時まで」
それだけを信じて、さらに耐え忍んだのだがもたらされた報告により絶望する。
伝令「報告!長安と洛陽に蜀漢の旗が!曹丕様は、兗州方面に逃走したとのこと。我々は、見捨てられました」
満寵「そんな、一体どうやって長安と洛陽を?」
伝令「涼州方面より回ったと。既に、涼州の各地にも蜀漢の庇護下となった馬超の旗が掲げられております」
曹仁「そうか。援軍はもう望めぬか。それどころか曹丕様は本当に我らを捨て駒にしたのだな。親族衆である我らを」
満寵「絶望してはなりません!まだ何か手立てが」
曹仁「もう良い。こうなっては致し方あるまい。潔く討ち果てるのみ」
曹純「兄上、先陣は俺に」
曹休「最後までお供いたす」
曹洪「最後まで俺ららしく、堂々と行こうか」
曹真「蜀漢に目にもの見せてくれる!」
突撃を決めた曹仁たちに声が聞こえる。
???「我が名は曹孟徳である。蜀漢の者たちよ。剣を納めてくれぬか」
龐統「曹孟徳と言えば、魏王の父、我々の敵からの申し出で、剣を納める利点が我が軍にあるのかい?」
曹操「漢中を蜀漢に開城するように説得しよう。それで、彼らの命を見逃してもらいたい!」
法正「攻めあぐねていた我らとしては、これ以上の血を流さずに漢中を得られるということか」
龐統「成程、城は明け渡すから人命を助けて欲しいと来たかい。交渉としては不十分だねぇ」
曹操「我らは蜀漢の呂布将軍によって、許昌より助けられた。我らはその時、蜀漢と密談を交わした。魏に蔓延る者どもを成敗し、蜀漢と最期の戦いをするとな。この件は、既に劉備殿を通して霊帝様にも伝わっているはずだ。ここは、我らを見逃してくれぬか。頼む」
龐統「あの曹操殿が部下のために頭を下げるとはねぇ」
曹操「ただの部下ではない。俺にとってかけがえのない友人であり家族だ!」
法正「まぁ。良いでしょう。この漢中を得られるというのであれば、曹仁たちの身柄を曹操殿に受け渡そう」
曹操「かたじけない。蜀漢より受けた恩を後々、仇で返すことになるのは痛いが」
龐統「構わないよ。劉丁殿から言われてたからねぇ。それにこちらの被害はないよ。兵糧に関しても豊かな漢中を得られるのなら問題無いしねぇ」
曹操「フッ。寛大な心に感謝する」
曹操は、こう告げると曹仁たちのいる漢中へと入って行った。
曹仁「殿、御無事だったのか」
曹操「蜀漢の呂布に助けられた」
満寵「では、殿は蜀漢に?」
曹操「いや、許昌と漢中を受け渡すこととはなるだろうが蜀漢の一員とはなっておらん。平たく言えば、俺は自らの命とお前たちの命を助命してもらう代わりに、許昌と漢中を蜀漢に渡す」
曹純「そんなことをすれば、兗州の司馬懿と華北の曹丕様との間で、戦が」
曹操「そうだな。だが俺に取って、お前たちの命はそれほど重い。だからこそ俺は子桓に付き元凶である司馬懿を討ち、劉備とこの国をかけて最後の一大決戦に挑みたいのだ。もうそれしか挽回する手立てもないしな。それに俺はやはり覇道を諦めきれん。劉備の王道と相いれぬものだ。だが、目指すその先は同じだと信じている。だからこそ、俺は英雄は俺と劉備だけだと言ったのだからな。最期は雌雄を決さねばならん」
曹洪「殿、裏切った我らのことを未だに家族と」
曹操「何をいう。子供や妻を人質に取られて、辛かったであろう。もう安心せよ。お前たちの妻も子供も無事だ。もう一度、人質に取られぬように、緩衝地帯である診療所にて匿ってくれている。落ち着いたら会いに行ってやるのだ。良いな?」
李典「殿、なんと感謝すれば良いか」
楽進「本当に無事なんですね」
曹操「あぁ。子考よ。漢中の無血開城に同意してくれるな?」
曹仁「承知しました」
曹仁と龐統の間で書面が交わされる。
曹仁「我らの助命を受け入れてくれたこと感謝する」
龐統「いえいえ、アッシもこれ以上血を流さずに漢中を得られたのでねぇ。お互いに得となったわけです」
満寵「一つ聞いても?」
龐統「何でしょう?」
満寵「蜀漢の攻撃は初めからおかしかった。それも今にして思えば、殿を待っていたのだと。一体、いつからこの作戦を?誰がこんな作戦を?」
龐統「我らが主君の弟君であらせられる劉義賢殿ですよ。この後、大変でしょうが殿も曹操殿との雌雄を決する戦いを待ち望んでおられますので、頑張ってくださいねぇ」
満寵「全く、全て掌の上だったということですか。やれやれ、戦いたくありませんね。それでは」
こうして、蜀漢は漢中を手に、曹操は大事な臣下をその手に取り戻して、漢中における戦いは終結。
間も無く曹丕と司馬懿による魏の統治を巡るいざこざが幕を空けると共に、義賢は来るべき最期の時のために、ゆっくりと身体を休めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます