曹丕と司馬懿の仲違い

 許昌から戦況不利と判断した司馬懿。

 洛陽にて、敵の策略とは言え献帝と妹たちを引き渡すことで見逃してもらった曹丕。

 どちらも撤退した先は同じく陳留であった。

 しかし、陳留に先に入っていたのは、司馬懿だった。


 司馬懿「やれやれ、曹丕様。この体たらく、どう責任を取られるおつもりですかな?」


 曹丕「それを言うなら仲達。貴様とて同じことであろう。父を殺すことはおろか蜀漢に強奪されるなど。父と霊帝が接近したらどうなると思っている。我が国の磐石な支配体制が揺らぐのだぞ!」


 司馬懿「貴方様は、この期に及んでまだ立場を理解しておられないのか。嘆かわしいものだ。人質を奪還され、献帝を渡し大義を失わせたのは誰か?貴方様ではありませんかな」


 曹丕「そこまで言うのなら貴様との蜜月関係もここまでだ!俺は、鄴に帰る。せいぜい蜀漢の侵攻をここ陳留で防ぐのだな仲達!」


 司馬懿「蜀漢とは先程、話が付きましたよ」


 曹丕「なんだと!?仲達、貴様ーーーー!!!我が国を蜀漢に譲り渡すと言うのか!この売国奴めが!」


 司馬懿「そのようなこと致しませんよ。ただ蜀漢としても我々が争ってくれるのは好都合ということです。お互いの利害関係が一致したので、こちら側の決着まで手を出さないという約束をしたのです。まぁ、中立を決め込んだ青州に関しては、その類ではありませんがな」


 曹丕「貴様、鮑信を売ったか!それならこちらとて、蜀漢と同盟を結んで、貴様を滅ぼすことの利点を説くまでのことだ!」


 司馬懿「ククク。果たしてそのような利点、蜀漢にありますかな。我々が争えば得をするのは蜀漢だけだというのに」


 曹丕「ぐぬぬ。だからこそ挟み撃ちで切り取りを提案すれば乗ってこよう。貴様だけは絶対に許さん」


 司馬懿「まぁ、せいぜい頑張りなさいませ。蜀漢はテコでも動かないと思いますがね」


 曹丕「やってみなければわからんであろう。貴様の顔など見たくもない!とっとと去れ」


 司馬懿「去るのは貴方様ではありませんかな。ここ陳留から」


 曹丕「フン!」


 スタスタスタとその場を後にする曹丕。

 話は変わるがこの少し前のこと司馬懿と劉義賢との間で、ここ武都にて。

 とある密約が交わされていた。


 義賢「蜀漢、益州侵攻軍総大将の劉義賢である。お初にお目にかかる司馬仲達殿」


 司馬懿「丁寧な挨拶痛み入ります。まさか、ここまでの鮮やかな侵攻を見せ付けられるとは思いませんでしたよ。主要都市5ヶ所の同時侵攻などを考えるとは」


 義賢「驚いてくれたのなら何よりだ。それにしても貴殿も下手を打ちましたな。人質を取って、無理やり従わせるなど多くの弊害が出る策を用いるなど」


 司馬懿「蜀漢の拡大が思いの外早かったのでね。なりふり構っていられなかったんですよ」


 義賢「隠す気はなく認めるということか?」


 司馬懿「今更、隠してどうなりましょう。こちらはこの状況を変えるべくお願いする立場でありますからな」


 義賢「ほぉ。司馬仲達殿は、この盤面でもまだ諦めないと。これは面白い。必勝の策とやらをお聞きしましょうか」


 司馬懿「なーに。劉義賢殿にとっても実りのある話ですよ。曹丕様のこと全ての責任を私になすりつけてくるのは、目に見えています。そこで、新たな華北の統治者が決まるまでの間、蜀漢の手出しは遠慮願いたい」


 義賢「ほぉ。大きく出たものだ。しかし、それはこちらに何の実りがあるというのですかな?このまま攻め滅ぼせる兵力を蜀漢は有しているのですぞ」


 司馬懿「それなら青州は如何ですかな?曹操様と曹丕様の権力闘争以降、中立を決め込んでおられます。説得次第で蜀漢に靡くのではありませんかな?最強の切り札も手に入れられたのですから」


 義賢「成程、だがそれは同時に領土を減らすということ。貴殿は兗州と華北だけで、蜀漢に抗えると?随分と強気なものだ」


 司馬懿「蜀漢にも弱点はあるということですよ」


 義賢「ほぉ。それは興味深いが教えてはくれないのであろう?」


 司馬懿「当然、こちらの切り札ですからな」


 義賢「良かろう。貴様との停戦協定、我が兄に相談するとしよう。こちらも攻め取った領土の安定を図りたいのでな。停戦は望むところだ」


 司馬懿「賢いお方で感謝しますぞ劉義賢殿」


 義賢「どうやって、この盤面をひっくり返すのか見せてもらうとしようか司馬仲達殿」


 司馬懿はこの時、劉義賢の顔色ばかりを窺っていた。

 そして、ある結論に達した。


 司馬懿「ククク。顔に死相が漂っていた。劉義賢の寿命はそう長くあるまい。できるだけ華北の戦線を引き延ばせば、勝手に死んでくれよう。我が策を看破するあやつさえ死ねば蜀漢など恐るるに足らん」


 同時に劉義賢も司馬懿の顔色を窺って、一つの結論に達した。


 義賢「貴様の必勝の策とは、おおよそ想像がつく。この俺が死ぬことであろう。だが、残念だったな。例え何度死の淵に立たされようとも兄上の天下のため、我が命は尽きぬ。引き延ばせられると思うなよ。俺が何の手立ても打っていないとでも。ハッハッハッハ。我が子への愛とは切っても切れぬものなのだ。参戦するであろう曹操殿を相手に挟み撃ちでどこまで耐えられるか見ものだな。司馬仲達よ。某漫画の決め台詞で締めてやろう。お前は、もう詰んでいる。いや死んでいるだったか?歳は取りたくないものだ」


 こうして仲違いを始める曹丕と司馬懿を尻目に劉義賢は、青州を手に入れるべく行動を開始する。

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