司馬懿の撤退

 許昌を攻めていた司馬懿は、曹操軍の排除によって、今度は許昌を守る側となっていた。

 攻め寄せるは、荀彧擁する呂布軍と郭嘉擁する曹操軍の混合である。

 しかし、包囲を狭めているだけで一向に攻めてくる気配は無かった。


 司馬懿「これは、明らかな釣りだな。逃げられぬように野戦に持ち込みたいのだろう。しかし、だとしたら解せん。こちらの方が兵は2倍近くいる。寧ろ、野戦をしたいのは、こちらの方だ」


 鍾会「でも野戦できない。まぁ、嫌な心理戦に持ち込まれましたね」


 司馬懿「うむ。相手は、荀彧に郭嘉だ。何も手が無いわけがない。野戦でこちらを打ち破る策があると見て、良いだろう」


 その頃、荀彧は。


 荀彧「とのように司馬懿は考え、野戦に挑めなくなっているかと」


 荀攸「叔父上の言う通りだとして、こちらはハッタリなわけだ。せめて、徐州兵が合流すれば、わからんが」


 荀彧「そこです。呂布将軍のこと。手回しはしているのでしょう?」


 呂布「するにはした。だが南の情勢、次第としか言えんのが現状だ」


 華雄「まぁ、それはわかるんだが。これがハッタリだとバレたらやばいわけだよな?」


 李儒「ヤバいなんてものでは無い。我々なぞ、軽く踏み潰されて終わりじゃ」


 徐栄「いっそのこと奇襲するってのは?」


 李儒「徐栄よ。確かにアリのように見えるかもしれんが。それをすれば、やはり策が無いと教えているようなもの。ここは、包囲を狭める方向で、野戦に来ないなら逃げ道を無くしていく方向で良い」


 郭嘉「確かに文若のやり方は、掴みとしては最高だと思うよ。でも、相手も馬鹿じゃ無い。本当に許昌から撤退すると考えているのかい?」


 荀彧「えぇ奉孝。必ず、司馬懿は許昌からの撤退を選びます。既に、包囲はなりつつあるのですから」


 郭嘉「まぁ、ここは劉備殿の軍師となった文若のお手並みを拝見させてもらおうかな」


 曹操「だが、司馬懿という男、何を考えているのか全く読めん不気味な男だ。我らの斜め上を行く」


 その時、遠くから何者かの声が。


 ???「殿ーーーーー!!!」


 曹操「とうとう俺の耳がおかしくなったようだ元譲。悪来の声が聞こえてきたわ」


 夏侯惇「いや、孟徳。俺にも聞こえるぞ」


 夏侯淵「殿に惇にぃまで、そんな怖いこと。いや、俺にも聞こえるな」


 ???「ハァハァハァ。やっと、追いつきやしたぜ殿」


 曹操「悪来、本当に悪来なのか?無事であったか!」


 典韋「ヘイ。典満の奴が親不孝なことしやがりやして、こうして」


 曹操「それを言うなら、俺も甥に生かされたようなものだ」


 夏侯惇「俺も充のやつにな」


 夏侯淵「惇にぃ。俺だけすまねぇ」


 夏侯覇「父さん、俺も残れば良かったって、思ってたの!?酷いよなぁ。可愛い月姫の子供達に会わないと死んでも死に切れないよ俺」


 曹昂「夏侯覇、お前な。そういうことじゃないだろ。こっちに来い」


 曹操「悪来がいれば百人力よ」


 典韋「アンタが呂布か。殿のこと助けに来てくれたこと感謝するぜ」


 呂布「気にするな。たまたまそこに保護しないといけない野良猫がいたまでのことだ」


 曹操「俺が猫とは、面白いことを言う。鬼神と恐れられた男も冗談を言うのだな」


 呂布「お気に召したのなら何よりだ」


 典韋「殿が猫だぁ?お前、表に出やがれ」


 呂布「ほぉ。それは面白い。俺も一度、曹操殿の最強の親衛隊と戦ってみたかったのだ。こちらでな」


 典韋「アッシの力で捩じ伏せてやらぁ」


 机の上で、手をガッチリと組み合って、腕相撲を始める呂布と典韋、その結果は。


 典韋「かぁ。この固すぎだろうが。全然動かねぇ。鉄かよ」


 呂布「その程度で挑もうとは小癪な」


 典韋「ぐおおおおおお。イッテェな。おい。お前に負けたの今疲れてるからだからな。アッシが本気を出せば」


 呂布「良かろう。いつでも再戦を受けてやろう」


 時は過ぎ。


 司馬懿「その話は本当か!?」


 弘農兵「はい。弘農の港は全て錦帆賊に制圧されて、内陸部も黄蓋・程普・祖茂・韓当らによって次々と降伏。弘農は、蜀漢に落とされました」


 司馬懿「馬鹿な。弘農が落ちたとなれば、ここは目と鼻の先」


 まさか、この俺が謀られたのか。

 荀彧と郭嘉のあれは、俺を野戦に誘き寄せるのではなくその逆、篭らせて状況を悪くさせるための。

 してやられたわ。

 しかし、まだ大丈夫。

 まだ、焦る時では無い。


 長安兵「報告、申し上げます。長安の守備を任されていた高幹が討ち死に。長安は蜀漢の手に。どうして、援軍を送ってくださらなかったのですか!」


 司馬懿「長安が落ちただと?人質はどうなった?」


 長安兵「この期に及んで人質などと何を言って。ガハッ。な、ん、で」


 鍾会「ごめんね。ギャーギャー煩いから。つい斬っちゃったよ」


 司馬懿「今のは、俺が迂闊だった。手を煩わさせてしまったな鍾会」


 鍾会「いえいえ。気にしてませんって。それにしてもまずいっすね。人質が解放されたんなら。曹仁の奴が曹操が生きてることを知ったら合流されちゃいますよ」


 司馬懿「こんなことなら何かと理由をつけて殺しておくべきであったか」


 鍾会「まぁ、後の祭りっすね。時間が巻き戻せるわけでも無いですし。それにしても敵さんはどうやって長安に人質がいることがわかったんすかね。正確すぎやしませんか?」


 司馬懿「うむ。しかし、今は。この場より撤退し、兗州の陳留に入る」


 鍾会「豫州は良いので?」


 司馬懿「曹操の影響力の強い地域だ。そこに入ったところで、こちらの言うことを聞くものは、少ない。放棄して陳留で迎撃するのが良いだろう」


 鍾会「残念っすけど仕方ないっすね。了解っす」


 こうして、司馬懿は優雅に兵を撤退させた。

 荀彧もこれを追撃することはなかった。

 ひとまず、許昌を取り返すことが目的だったからである。

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