孫策の決意

 呂布と別れた孫策は、孫翊の説得のため周瑜と共に呉へと向かった。

 意外にも警戒されることなく孫翊と謁見することができたことに、驚いていた。


 孫策「公瑾、どう思うよこれ?」


 周瑜「伯符。これはあまりにもおかしい。我々がここからいなくなっていたことは、把握しているはずだ。それに、伯符が頼りにしていた二張の姿もないどころか文官系の人間が全くいない」


 二張とは、張昭と張紘のことである。

 文官系の人間とは、主に内政を主体に国を回す人のことたち政治家のことである。


 孫策「やっぱりそうだよなぁ。どう見てもおかしいよな」


 周瑜「これでは、国の財政すらどうしているのか」


 孫策「迂闊だったかもな。もっと情報を仕入れてから」


 話していると玉座の間についた。


 孫翊「孫策兄上、よくぞ戻ってきてくださいました。これで、蜀漢に」


 董襲「孫策様さえ帰ってくれば、百人力だぜ。蜀漢を討ち果た」


 董襲がそこで止めたのは、孫策がとんでも無いことを言ったからである。


 孫策「成程、通りでここまで何の調べもなく入れたわけだ。残念ながらお前たちの期待に俺はもう応えられねぇんだ。劉義賢に多大なる恩を貰っちまった。それを返しにここに来た。孫翊、蜀漢に降伏しちゃあくれねぇか?」


 董襲「ふざけんじゃねぇ!こんな腑抜けは、俺たちが憧れた孫策様じゃねぇ。牙の折られた虎なんざ必要ねぇ」


 孫翊「董襲、静かにしろ!孫策兄上、まず受けた恩とやらについて詳しく聞かせてもらえますか?」


 孫策「何を考えている翊」


 孫翊「孫策兄上は、俺を説得しに来た。即ち、今は蜀漢に仕えているということでしょう?」


 蒋欽「なっ!?孫策様まで裏切ったってのか!ふざけんじゃねぇぞ!」


 孫翊「だから鎮まれ!今や、呉から蜀漢への人の流れは止められていないだろう。孫策兄上に限ったことでは無い」


 董襲「文官なんざ必要ねぇ。武でのしあがれる国を作るんだ。そうだろう孫翊様」


 孫翊「俺もそのつもりだった。だが蜀漢と戦ってどう感じた?あの武力しかないと言われた呂布ですら策を弄したのだ。我々のやり方は、もはや時代遅れだったのだ」


 蒋欽「今更、そんな言葉で納得できるか!孫翊様もそういう考えならこちらにも方法がある。俺たちは、これで失礼する」


 董襲と蒋欽が出ていく。


 孫翊「孫策兄上、すまない。皆、孫策兄上の武力に惹かれて集まったものたちゆえ。貴方の敗北宣言を聞きまだ気持ちの整理が付かないのだろう」


 孫策「後でゆっくりと話す時間を持つさ。アイツらも大事な俺の家族だ。そして、蜀漢も俺の家族だった。ただ、それだけのことだ」


 孫翊「孫尚香が嫁ぐことをずっと反対していた孫策兄上の口から家族という言葉が出てくるなんて。それで、孫策兄上と周瑜殿は、俺をどうやって説得するつもりなのかな?」


 孫策「先ずは、俺たちが蜀漢と戦っても大きく兵を損耗しなかったことについてだが。何だっけ。あー、こういう話は苦手なんだよな公瑾、任せるわ」


 周瑜「やれやれ伯符のやつ。どうやら我々が立ち直れない痛手を受けぬように、劉丁殿が立ち回っていたとのことだ」


 孫翊「孫策兄上は知らないかもしれないが、先の戦いにおける呂布軍の攻撃は苛烈だった。これは、どう説明をつけるつもり?」


 孫策「そんなもん。何回も骨折ったのにこっちが無視したから腹たったんだろ。よくあることだ」


 周瑜「伯符、大雑把すぎるぞ。それは、蜀漢が呉に対して、本腰を入れて、攻め滅ぼす方向に変えたということだ」


 孫翊「成程。で、周瑜殿は、全く悪びれる様子もなく話すわけだ」


 孫策「俺たちが悪いと?」


 孫翊「2人とも今は蜀漢の人間だろ?俺は呉の人間を守るべき王だ。降伏したとして、もうそうされないという保証が何処にある?」


 周瑜「確かにそうだ。確約はどこにも無い」


 孫翊「なら、降伏勧告に応じることはできない。降伏することで、我らが手駒のように使い潰されては堪らない」


 孫策「あんなぁ。俺は、難しい話は、わかんねぇけどよ。敵の命を大事にする奴がよ。味方になった俺らのことを不当に扱うと思うか?そうじゃねぇだろ。このまま敵対して、疲弊して、その先に何があんだよ。そもそも張昭と張紘は何処だよ。アイツらならお前のこと宥めたんじゃねぇのか?」


 孫翊「孫策兄上が病で倒れて、俺が舵取りするようになってからとうの昔に逃げ出したよ」


 孫策「アイツらがそんな無責任なわけねぇだろ!追い出したんじゃねぇのか?何で、武力至上主義みたいになってんだよ!」


 孫翊「孫策兄上がそうしたんだろうが!」


 孫策「俺がそうした?何言ってんだ?」


 周瑜「呉王よ。伯符は、于吉から受けた呪いのせいで言動を覚えていない。いや、正確には、覚えていることと覚えていないことがある」


 孫翊「都合が悪くなったら呪いとは、于吉はだいぶ前に亡くなったはずでは。もっとマシな嘘を付くのだな」


 孫策「成程、よーくわかったよ。俺は何かに取り憑かれてたわけだ。おそらく武力を追い求めた覇王項羽の魂に近づくために。あーあ、于吉の野郎の計画通りだったわけか。情けねぇ。本当に情けねぇ。そんな俺の魂がアイツらだけでなく弟まで。なんて、罪深いんだろうな。翊!嘘じゃねぇ。俺は力を追い求めて、自らを滅ぼした項羽に近付こうとしてた。武力だけじゃ国は治まらねぇ。許してくれるなら俺にもう一度この国を預けてくれねぇか。頼む」


 孫翊「孫策兄上、わ」


 ???「ちょっと待てーい。そうはさせんぞ呉王よ」


 孫翊「うがががが。頭が。兄上、離れてください。うがぁぁぁぁぁ。孫策、よくもぬけぬけとここに顔を出せたものだな。衛兵共、ひっ捕えろ。俺の国は、誰にも渡さん。誰にも渡さんぞ」


 ???「それで良いのだ。ぐふふふふふ」


 何者かによって、豹変する孫翊を見て、孫策と周瑜は、呉の内部に于吉の力を継ぐ何者かの存在があることに思い至るのだが捕えられて、牢屋へと連れて行かれるのだった。

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