血を吐く義賢
会談が終わり、宣言通り、蔡文姫は、匈奴と魏の面々を速やかに涼州から撤退し、その行き先は、司馬懿のいる許昌だと思われた。
義賢「ゴホッ。ゴホッ」
馬超「劉丁殿!?血を?横に横になるのだ」
義賢「流石に少し、疲れましたな」
馬超「あのような挑発する態度など貴殿らしく無い」
義賢「フッ。最も信頼している相手にずっと騙され続けている蔡文姫殿が、哀れでしてな。ゴホッ。ゴホッ」
馬超「例え、劉丁殿の考えている通りだとして、司馬懿という男がそのようなわかりやすい証拠を残すだろうか?」
義賢「フッ。だから今だったのだ。鍾繇が王累に涼州を任せて、とっとと逃げた。行き先は、どこであろうな」
馬超「まさか!?」
義賢「流石に思い至ったようだな馬超将軍」
馬超「しかし、だとして。戦が始まって、半月は経とうとしている。いや、充分間に合うか」
義賢「流石、同じ騎馬民族だな」
馬超「一緒にしないで貰いたいのだが。我々の率いる西涼鉄騎こそ最強と自負している」
義賢「そう考えてるのと同じように、彼らとて、匈奴の騎馬こそ最強と考えていよう。ゴホッ。ゴホッ」
馬超「劉丁殿!?また血を。すまない、話はまたの機会に」
義賢「構わん。この涼州のことは、馬超将軍に任せる。漢中の応援に兵を派遣するのも。長安の先、洛陽まで兵を進めるのも、な」
馬超「劉丁殿!劉丁殿!劉丁殿ーーーーー!!!」
義賢「煩いわい!やれやれ。まだ死なぬわ。休ませてくれい」
馬超「し、失礼した」
全く、心配されるのがこうもありがたいとはな。
この世界に来て、もうすぐ40年にもなるか。
やれやれ、還暦近いこの身体が悲鳴をあげるのも無理はないか。
いや、正確には死んでいたのだったな。
少し、疲れた。
休ませてもらおう。
遠い意識の先で、話し合う声が聞こえる。
???「先生、いったいいつになったら目が覚めるんです?」
???「わからないんですよ。外傷は見当たらない。頭にも致命的なダメージを受けた形跡がないんです。ですが現状を見る限り、植物状態としか」
???「貴方じゃ埒が開かないわ。転院の手続きをさせてください。彼は、大事な私の生徒なんです。親御さんも来れないこんなところにいつまでも置いておけない」
???「ですが、どこの病院でも結果は同じだと思います。医学的には、意識が戻る可能性は限りなく低いとしか」
???「そんな。嘘。私、何て報告したら良いのよ。劉君、お願いだから戻ってきてよ」
???「今は、そのように話しかけ続けて様子を見るしか」
???「うっ。うぅ。私が優勝旅行だなんて、はしゃいで。劉君の好きなこの国を選ばなければ。こんなことには。ごめんね。先生のせいで、本当にごめんね」
涙が顔に当たっている。
そんなに泣かないで。
董先生のせいじゃないから。
俺が不注意で、足を滑らせて、墓の中に落ちただけだから。
もうちょっとだけ。
もうちょっとだけ、待ってて。
絶対に俺、そっちに帰るから。
義賢「ハァハァハァ」
士仁「劉丁様、目を覚まされましたか?」
義賢「士仁か。何日寝ていた?」
士仁「匈奴が涼州より撤退して、間も無く1週間になります」
義賢「そうか。そんなに寝てたか。全く、歳に病とは、つくづく辛いものだ。戦局は、どうなっている?」
士仁「弘農は、甘寧将軍が落とされ、
義賢「そうか。皆、よくやってくれたな。あの三郡が落ちたとなれば、司隷の制圧に時間はかかるまい」
張達「おぅ。目ぇ冷めたか殿。輸送の方も滞りなくできてるぜ。安心しな」
義賢「苦労をかけた。さて、司隷をとれたとて、まだ半分。華北のほとんどは、魏の勢力下であるからな」
范疆「劉丁様、目ぇ覚ましただか。オラ、心配しただ」
義賢「お前のキンキン声も久々に聞くと心地良いものだ。あ、兄上は!?」
麋芳「ひっ。ぎ、義弟なら大丈夫だ。関羽と張飛殿が取り押さえた」
義賢「そうか。ところで、お前はまた雲長のことを呼び捨てとは」
麋芳「嫌いなんだから仕方ないじゃ無いか。ガミガミガミガミと上から目線でネチネチネチネチといびりやがって、お前の部下じゃねえってんだ」
義賢「そうだな。お前は俺の部下だ。何か文句があるなら上司に言ってくださいと逃げれば良いものを。ククク」
麋芳「かぁぁぁぁ。その手がありましたか。今度から使わせて」
義賢「ダメだ」
麋芳「ヒィぃぃぃぃ。そんなぁぁぁぁぁ」
義賢「ハッハッハ。制圧した後の戦局はどうだ?」
士仁「はい。弘農より甘寧将軍が河東郡に。長安から田豊軍師が丘力居殿と共に
義賢「苦労をかけた。奉先の豫州攻略の方はどうだ?」
士仁「そちらは、心強い援軍が到着されたようで、許昌を足掛かりに順調に攻略しているとのことです」
義賢「そうか。豫州・司隷の攻略が終わり次第、青州・兗州の攻略へ取り掛かる。ワシも長々と寝てる場合では無いな」
士仁「一気に歳を取られましたな劉丁様」
義賢「言葉尻かの?」
士仁「はい」
義賢「まだまだ董白と愛し合っておる現役じゃ」
董白「何、言ってんのよこの馬鹿!そりゃ私の方が年下なわけだからまだ30後半だし、営みもねって、何言わせんのよ」
義賢「フォッフォッフォッ。董白のツンデレはいつ見ても可愛いのぉ」
董白が士仁に耳打ちする。
董白「士仁、あの人のこと宜しくね。ほっておいたら無茶して、今にも死んでしまいそうで不安なのよ」
士仁「心得ております董白様。しかし、止まりはしないでしょう。あの御方は、その命をこの蜀漢のために燃やし尽くされる覚悟なのですから」
董白「そうね。欲を言えば、ずっと隣にいて欲しい。でも、それはきっと今世では、叶わないのでしょうね。彼は、この世界の人間じゃ無いのだから」
士仁「ですが、我々の行く末を案じてくださっていることだけは、痛いほど伝わります。劉丁様の言う平和が訪れると信じて、この武をふるうのみ」
董白「そうね。きっと来る。そんな気がしてるわ」
劉義賢が眠っていた1週間の間に何があったのか。
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