劉禅の驚きの正体

 一騎討ちの最中、劉禅に当たったように見せながら吹き矢の毒を受けた劉封。

 劉禅のえっ?という呟きが全てを物語っていたのだ。


 劉禅「劉封兄上、何故!?」


 劉封「お前のことが憎かった。だが同じ母から産まれたお前のことを心の底から憎めようか」


 劉禅「劉封兄上、何を言って?」


 劉封「よく聞け、劉禅。甘梅などという女性は存在しない。いや正確には芙蓉姫などという女性は存在しない。甘梅の仮の姿が芙蓉姫なのだ。俺とお前は同じ母から産まれた実の兄弟。弟を守るのは兄の務め。ゴフッ。ゴクッ。血を吐いてはならん。お前に当たったのではないと間者に思わせるわけにはいかん。妻と子のこと。頼んだぞ劉禅」


 劉禅「劉封兄上」


 劉封「泣くな。これで良いのだ。強くなったな。阿斗。さぁ、倒れておけ。医務室に運ばれたら、事の次第を全て打ち明けるのだ」


 劉封は劉禅の頭を撫でる。


 霊帝「すぐに劉禅を医務室に運ぶのだ」


 梟に捕えられた間者が血を吐いて倒れる。


 劉備「申し開きはあるか劉封?」


 劉封「俺は、阿斗が、憎かった、のだ。俺より、後に、産まれて、おきながら、母と父の、愛を、一身に、受けた、アイツが。ゴフッ。ゴフッ」


 劉備「劉封、どうした?何故、血を。まさか!?」


 霊帝「劉封、お前は何ということを。その身を挺して、劉禅を庇ったのか!何故じゃ」


 劉封「実の、弟を、守る、ことに、何の、躊躇い、がある。ゴフッ。父上、不甲斐ない、息子、で、申し訳、ござい、ません、でした。ゴポポポポポ」


 劉備「喋るでない!劉封を医務室に運ぶのだ」


 張角「ここまで毒が回ってしまっては、最早助からぬ」


 劉備「どうして、直ぐに治療を受けようとしなかったのだ。親より先に行く大馬鹿者が!」


 張角「劉禅様に毒が当たったように見せかけるため。その痛みに耐えたのじゃろう。表向きは、国家転覆の罪で裁かれたことになろう。しかし、今だけは弔ってやるが良い。劉備よ」


 劉備「劉封。お前の最後の言葉が私にはわからん。お前と阿斗は実の兄弟ではない。芙蓉姫と甘梅から産まれた腹違いだ。そこまで、弟のことを想っていながら何故、あのような態度を。我が子のことなのに俺には全くお前がわからん。安らかに眠れ劉封」


 劉封、死す。

 史実では養子とされているが劉備の初恋の人との間に産まれた実の子供という説もあり、その人の容姿は、後に再会を果たし、劉備の実子であり、二代皇帝劉禅を産んだ甘氏と瓜二つだったそうだ。

 劉備は、再会を喜び燃え上がったが甘氏は頑なにその人とは、違うと言い続けたと伝わっている。

 劉封がどうやって劉禅が実の弟と知り得たのかはわからないが。

 兄として弟を守り、次代を守ったことは間違いない。

 例え、その死が国家転覆を図った不名誉を被ることになろうとも。

 その血脈は、劉林に続いていく。

 その死に顔は、苦しみではなく安堵であった。  その頃、黄皓に拉致された劉封の妻と子にも魔の手が忍び寄っていた。


 黄皓「さて用済みとなったお前たちには。ん?」


 孟達「劉封とはソリが合わなかったが頭を下げてまで頼んだのだ。絶対にこの辺りに夫人と子供がいるはずだ。探すのだ!」


 黄皓「馬鹿な!?ここがバレるなどあり得ん。ええい。話されては面倒だ。俺の記憶だけを消してやる。幸い、俺の存在を知ってるのは、お前と劉封だけなのだからな劉封は殺しておかねば。ええい。面倒ごとばかりだ」


 黄朱美「劉封様を殺す。それだけはやめて、ください。貴方のことはつぐみます。だから、劉封様も記憶を消すだけで命までは、取らないで」


 黄皓「ならん。あの男は劉備を弱体化させるためにも死んでもらう。心が弱れば呪術を刷り込みやすいからな。それ、忘れてしまえ」


 黄朱美「うっ。ガクッ」


 黄皓「さて、次の寄生先を探さねばな」


 スッと洞窟に溶け込むように消える黄皓。


 孟達「居たぞ。2人とも無事だ。しかし、衰弱しているかもしれない。直ぐにお運びするのだ」


 劉林「バッブ〜」


 劉林は壁を指して、鳴く。


 孟達「どうしたのです。壁の方を指して、そこには誰もいませんぞ。劉林様」


 黄皓は洞窟に溶け込んだだけで、未だその場を離れられないでいた。


 黄皓「あのガキ。俺のことを覚えているのか。忘れろ。忘れろ。効かない!?今、殺しておくか。いや、不味い。先ずは劉封を消さねば」


 記憶を消そうと試みるが赤ちゃんというのは未来への希望に満ち溢れているものである。

 呪術の類が一才効かなかったのである。


 劉林「バブ〜バブ〜」


 劉林は、尚も壁を指して、何度も鳴くが他にも見えない孟達には、暴れているだけにしか見えない。


 孟達「劉林様、暴れてはなりませんぞ。そこには、誰もおりませんからな」


 黄皓「厄介なガキだ。早く立ち去れ。やはりここでこの男ともども殺すか」


 面倒に思った黄皓がまとめて殺そうと試みたところで、左慈が現れた。


 左慈「匂う。小生の鼻が反応しておる」


 黄皓「次から次に鬱陶しい。待て、アイツは于吉を滅した左慈方士か。まさか俺の存在がバレたのか。何処で。潜伏は完璧だった。不味い。これは不味いぞ」


 新手の出現に辟易する黄皓だがその姿を見て、呪術払いの左慈方士だと認識して、警戒を強めるのだった。

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