死に戻りの発動
これは、何も知らない1回目の義賢が益州での朱褒と雍闓の反乱に旅立つ前日の話である。
義賢「うっハァハァハァ」
この胸の痛みは、死に戻りか。
一体、何故。
何があったというのだ。
しかも苦しさがいつもと段違いだ。
義賢「ゴフッ。ゴポポポポポ」
血反吐を吐くなどあり得ない。
まさか、夕食に毒が?
久しぶりに5人で外食したのが間違いだったか。
騒ぎに駆けつける4人の男たち。
士仁「義賢様が血を。毒を盛られたのか!直ぐに、間者を探すのだ。意識を強く持ってください義賢様。義賢様。義賢様ーーーーーー!」
麋芳「士仁、騒がしいぞ。って、これはどういう状況だ?」
范疆「義賢様が血を吐いて、倒れてるだ!」
張達「嘘だろ。出陣を控えたこの日に益州総督に就任した義賢様が暗殺されるなんて。こんなの未だ毒を盛られて目を覚さない劉禅様に引き続き、義賢様まで暗殺で失うなんて。一体全体どうなってんだよ!」
泣き崩れる4人を見つつ息を引き取る義賢。
甘氏「おお。劉義賢よ。死んでしまうとは情けない。今一度、時をやり直すのです」
義賢の頭に様々なこの後の記憶が流れ込んでいく。
義賢「全く、いろんな記憶が流れ込んで来ましたよ。俺の命はどうやら残り少ないようだ」
甘氏「!?」
義賢「魂だけ呼ぶなんて、中途半端なことするからですよ甘氏義姉さん」
甘氏「何が起こっているのか私にもわかりかねますが貴方はいくつもの並行世界を見てきた義賢ちゃんなのね?」
義賢「えぇ。避けられないのは董承の死。それと阿斗に対する毒。甘氏義姉さんも気が気じゃないのでは?」
甘氏「当たり前よ。息子が毒を盛られたのよ。気が気じゃない親なんて居ないわ」
義賢「純粋に司馬懿の手の者ではなくて、兄上の世をよく思わない連中の仕業なのは、確かですが。どの世界線でも阿斗が目を覚さないまま劉封の処刑が執り行われ、犯人がわからない」
左慈「やれやれ、再び小生の出番が来るとは。于吉の呪術の流れを汲む者の仕業となれば捨て置けまい」
義賢「うおっ。そうだった。左慈方士は、こっちにも干渉できたんでしたね。俺の命もどうやら残り僅かなので、できれば身体に心労はかけたくない。そっちのことは左慈方士にお任せしますよ」
左慈「うむ。小生とて、劉玄徳の御代を望むものである。邪道な輩には制裁を加えねばなるまい」
???「大変なことに巻き込んだが、もう1人の私のことを宜しく頼む」
義賢「絵図描いてたのは、アンタじゃなかったんですか?尊敬できない方の兄上」
???「時に変な方向に進むのもまた物語である」
義賢「はいはい。どうやら未来で俺のことを待っている人がいるみたいなので、とっとと終わらせて、残りの人生は董白と2人の時間を大事にさせてもらいますよ」
???「フッ。あの世界の女。しかも酒池肉林を望んだ董卓の孫娘に恋をするとはな。わからぬものだ」
義賢「女を取っ替え引っ替え、子供だけ産ませて、曹操に攻撃されたら放棄していく薄情者と一緒にしないでいただきたい」
???「あの世界では、妻子の命など二の次。それに曹操は女と子供には優しいからな。よく保護してくれた。まぁ、何人かはそのまま記録に残らない曹操の妾になったのもいるがな」
義賢「寝取られてんじゃねぇか!」
???「寝取られたわけではない。命を繋ぐためにだな。こう見えてワシも雲長も翼徳も血脈は、ずっと続いているのだぞ。降った劉禅然りな。血を残すとはそういうことだ」
義賢「はいはい。良いように解釈して正当化してるだけじゃねぇか!いや、俺の国でも居たな。名家でありながら争っていた相手の茶飲み友達にまでなって、血脈を繋いだ男が」
???「そうであろう。時に辛酸を舐めようとも血が繋がれば勝ちなのだ」
義賢「それと違って、従うことを良しとせず滅んだ名家もあるけどな。どちらが美学なのかも解釈次第だしな」
???「そうであろう。血が続く方が良い。雲長と翼徳のため怒り散らして、他の者たちを巻き込むよりはな」
義賢「まぁ、あれのせいで人材がたくさん死んだしな。怒りを納められないのもまた兄上の人間臭いところだな」
???「両方とも呉に謀られて死んだのだ。許せるはずもなかろう。まぁ、その未来すら変えてみせたお前には脱帽するがな。ワシも女好きが覚醒しておるし」
義賢「手当たり次第、手を出し始めて手が付けられなくなってますが」
???「フッ。しょうがなかろう。英雄色を好むのだからな」
義賢「それ、曹操と兄上だけが英雄だと言われて、内心喜んでました?」
???「当然だ。かの最強の男、曹操殿に面と向かって、言われたのだぞ。まぁ、アレのせいで身の丈に合わない野望を抱いたがな」
義賢「そうですね。初心を忘れずに民のことを考えていたらあのような突発的なことしなかったでしょうね」
???「多くを巻き込み死に至らしめ孔明に苦労をかけた。悪いとは思っているが間違っていたとは思わん。それもまたワシなのだ」
義賢「長々と談義する気はなかったんですが」
???「で、これを変えうる手は考えているのだろうな」
義賢「一つだけ。どちらに転んでも子供をなくすことになる兄上には、悲しい想いをさせてしまいますが」
???「それも致し方ない。ワシは、やはり子供を捨てることになる運命の持ち主なのだから」
義賢「では、失礼します」
甘氏「良き世界を掴み取ってくれることを楽しみにしていますよ義賢ちゃん」
義賢「貴方がどうして甘氏のフリをしてるのか。その辺りのことも帰る時に聞かせてもらいますよ芙蓉姫様」
甘氏「!?話し方でバレちゃったかしら?」
義賢「えぇ、可笑しいとは思ってました。あちらの世界での甘氏義姉さんは、俺のことを義賢ちゃんとは呼びませんから。癖まではそう変わらないでしょう」
甘氏「そうね。でも不正解よ。芙蓉姫は私であり、甘氏もまた私と言えば勘のいい貴方ならわかるかしら」
義賢「成程、理解しました。それでは」
甘氏「えぇ、頑張りなさい。愛しい人の弟、義賢ちゃん」
???「フッ。陶謙殿に、紹介されたお前を見た時、ワシは驚いた。初恋で恋焦がれた芙蓉姫だったのだからな。名前を変えていた理由までは教えてもらえなかったが」
甘氏「それは秘密ですよ旦那様。さぁ、最後まで義賢ちゃんの冒険を見守りましょう」
???「そうだな。どんな未来を手にするのか。見るとしよう」
こうして、劉禅と劉封の一騎討ちの日まで、夢で見たことに全て手を打ったのが、あの義賢である。
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