二十二年 六月   「朝霧がビーズのように」

 今回の兼題はとても綺麗なのですが、写真が特大の女郎蜘蛛とその巣でした。

 恐いよ! 確かに、朝霧がビーズのように蜘蛛の巣を飾っています。しかし本気で蜘蛛が苦手の人がいらっしゃるのですから、こういうのは悪ふざけと言って、控えるべきか思います。



 驟雨しゅうう去り夕風雲をひるがえす☆並選


 写真からの視覚情報だけで句をつくりました。季語は驟雨、夕立のことです。日中の蒸し暑さを一気に放出したかのような夕立は気分を晴れ晴れとさせてくれます。切れ切れになった雨雲が夕風に追い散らされていくようです。



 吾転戦す母に伝えよ女郎蜘蛛☆並選


 語り手は若い兵士です。――昨日までは故郷近くのこの森で、生まれ育った村を守ってきたが、明日からは遠い激戦地で闘うことになった。昔馴染みの女郎蜘蛛よ、うちの母親に伝えてくれないかな。俺が遠くへ行くことを。すぐに戻ってくるから心配するな、とも。



 五月雨さみだるる禁足地の森朽ちた門☆並選


 しとしとと五月雨は降り続く。この禁足地の森を締め切る門も朽ちている。こんな戦争が始まらなけりゃ、ここに来ることも無かっただろう。家も屋敷も何も無い。何故、禁足地にしたのか。俺は知りたいとは思わないがね。



 山雨過ぎ梔子くちなしの花匂ひける☆並選


 俺たちの連隊は早々に故郷を後にした。知らない丘や川を越えるうちに雨が降り、また止んだ。すると、ふいによく知った匂いがした。この甘い匂いは梔子くちなしだ。母の好きな花だ。

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