二十二年 五月   「夏の山でハイキング」

 春の山は「笑ふ」。夏の山は「したたる」。秋の山は「よそお」ふ。冬の山は「眠る」。俳句では山も擬人化します。花が咲くことも俳句では「笑ふ」と表現しますから、笑う山は、木々の花がつぎつぎと満開になることだと思います。夏は若葉のみずみずしさを「緑滴る」と言いますね。秋の「装う」は紅葉に染まる美しさを、冬の「眠る」は雪を被って静まる神々しさを思いました。



 山道や峠で入道雲に会う ▲ハシ坊


 わあい! やった! また、ハシ坊だ!

 夏井先生から『「山道」と「峠」どちらも要りますか?』との御指摘がありました。確かに今、峠にいるんだから登ってきた山道は要らないかな。でも長いこと歩きに歩いて、やっとこさ峠にたどり着くまでの苦労や頑張りを、わたしは語りたい!

 先生のアドバイスに従えば、「汗ぬぐう峠で入道雲に会う」山道を取るなら「つづら折り山路険しき夏の雲」季語はそれぞれ「入道雲」と「夏の雲」です。



 道知るや後先になり夏の蝶 ☆並選


 季語は夏の蝶です。久々に兄弟四人が集まって両親の墓参りをした帰り道。どこからか青条揚羽あおすじあげはがついて来ました。青条揚羽は漆黒の翅に青空の色の模様が並んでいて、夏には必ず出会う蝶です。四人の兄弟の頭上を飛んだり、少し先に行っては戻って来たり。末子の景祐が「この蝶、お袋かなあ?」と呟きます。

「そんなわけ無いだろ」長男の誠市がにべもなく言い捨てます。

「そうかなあ。お袋の墓の所からずうっとついてきてるぜ?」

「お母さんよ、決まってるじゃないの」

 長女の慶子が誠市をきつくたしなめました。「景ちゃんだけね。そういうとこ気がつくのは」

「ホントかよ」次男の祐平が小さくぼやきます。

 駅が見えてきました。蝶は翅を翻して来た道を戻ってゆきます。

「おかあちゃま、また来ますからね」慶子が手をふりました。

「かあちゃん、またなあ」景祐も手を振ります。

「俺ら、いくつだよ」帰途の切符を買いながら誠市が眉間に皺を寄せてつぶやきます。

「俺は還暦過ぎて三年目だけど」祐平が三人分の切符を買いました。



 捩花ねじばな螺旋らせん雲へと伸びてゆく


 季語は捩花で夏です。捩花は小さな小さな蘭の花です。芝生などを敷き詰めてある広場の隅に幾本かが寄り添うように咲いています。直径が5mm程の花ですが、華麗なミニチュアサイズの蘭です。その細い茎はどこにも寄りかからずに空へと真っ直ぐに伸びてゆくのです。

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