二十二年 十月   「草の花」

 草の花。草の花って、どれ?

 いくらなんでも大雑把すぎる。

 でも芭蕉の句に「草いろいろおのおのの花の手柄かな」があります。

 なんか聞いたことあるな~と思ったらSMAPと槇原敬之さんだった。

「ナンバーワンにならなくてもいい。そのままで特別なオンリーワン」

 芭蕉、パクりかっ! ちがうよ、槇原だよっ!(ウソです。槇原さん、ごめんなさい) ともかく秋の野原の草花を漠然と眺めて、秋って深い、と呟いて一句詠むのが「草の花」の極意と見た!(違ってるかも知れない!)



  父ばかり汗だくサッカー草の花


 僕の父はコンビニのスーパーバイザーだ。二十四時間稼働しているから、たまの休日くらい寝てていいのに(寝てた方が助かるのに)昼近くに目覚めると「サッカーしようぜ」と唐突に言い出した。母が「だってもうすぐお昼だよ」と不満げな顔で言うが聞いちゃいない。

「サッカーボールあるか?」

「あるけど」

「なんだ、暗いな。サッカーしたくないのか?」

「ううん」

 ここで逆らうと父の権威がこじれるから温和おとなしくついていく。

 僕はサッカーボールを脇に抱えて、寝起きのままのパジャマの父を追って、広い方の公園に向かった。父は適当に距離を取ると「よし、こい!」と言う。僕は思い切りボールを蹴ったが、父が構えていたのとは大分離れた方角に行ってしまった。

「わざとか?」

「ちがうよ!」

 父はいまいましい顔でボールを追いかける。

 そして遠くから「いくぞー!」と叫ぶや高々と蹴り上げる。

 僕は頭を抱えてボールから逃げる。

「なにしてんだよっ!」父が怒鳴る。

「だって、恐いし」

「お前なあ」父が僕の両足を掴んで逆さづりにする。

「助けてえ! 助けてえ!」

「バカ、誘拐犯だと思われるじゃないか!」

 サッカー再開。珍プレーの連続で僕はお腹が痛くなるまで笑ったが、父は汗だらけ、泥だらけになった。ゴメンね、父。


 

 草の花走ればリュック右左


 小学校に上がった頃は身長も小さくて、道端の草に今よりもっと近かった。それで学校が今よりもっと大きかった。小学校までの通学路に今よりもっと空き地があったし、雑草(「雑草という名前の草はありません」と言ったのは植物学者の牧野富太郎先生です)がいっぱい生えていて、走ったり転んだりしても全然痛くなかった。



 草の花姉の名擦れし絵の具箱 ☆☆


 姉は七つ年上で「バカの男子みたいに戦いごっこなんてしなかった」(姉談)から、小学校で使う絵の具箱もきれいに残ってた。箱の内側にマジックで書いた名前だけが少し擦れてるけど。今から七年前の原っぱも、いまと同じだったのかな。

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