二十二年 十一月  「冬凪」


  冬凪ふゆなぎや桟橋に待つ猫二匹


 冬凪は寒凪かんなぎともいいます。真冬の海は季節風の影響で波立ち荒れる日々が多いのですが、たまに穏やかな日もあります。そんな日には珍しく猫たちも桟橋まで出向いて、ドスのきいた声で漁師さんの舟をお出迎えをしてくれます。

 にいやあ~ご、うな~ご、あうあうあ~ご、ゴロゴロゴロゴロ(すごい低音)

  (翻訳)早く寄越せ、喰ってやる、残さず全部喰ってやる~。



  冬凪ふゆなぎやきみのほっぺもしおの味 ☆


 軟弱な雰囲気は否めません。自分では気に入らないのに佳作を頂きました。

 これは多分、仕事で、遠洋漁業とかで長く不在だった愛情深いお父さんが、泣いて嫌がる我が子を抱きしめているんですね。海辺で。お母さんは笑ってみています。


 という字は大きく分けて「塩」と「潮・汐」とで使い分けます。食事に関係するのは「塩」、海の潮流に関係するのが「潮・汐」で、朝が潮で夕方が汐です。ですからには「塩」を使い、には「潮」を使います。



  冬凪や看板だけの海の家


 夏は水着の人間でごった返す海水浴場。冬には骨まで痺れるような風が吹き、誰一人いません。でもほら、こんな暖かい凪の日は、貝殻を拾ったり、海藻を拾ったり、なんだか分からないものを拾ったりして楽しめます。夏には煩い音楽をかけてイカを焼いていた海の家は畳むとこんなに小さくなっちゃうのですね。



付記(締切に間に合わなかった句)


  冬凪や特養に母を置いてくる


 母の病状が進んで、専門家のいる特別養護老人ホームに入所することになりました。それは冬というのに麗らかな凪の日でした。宜しくお願いします、という声が震え、眠ってしまった母のベッドから、自分の身を剥がすようにして立ち上がり、母の居室を後にしました。


  我知らず母と手結ぶ冬の凪


 子どもの頃はどこに行くのでも母と手を繋いでいきましたが、大人になってからは全然繋いだことなんか無かったのに。母の病が分かってからは、外出するときはいつも、どちらからとも無く母とわたしは手を結んでいました。それは母の心細さからと言うよりも、わたしのおびえが母に伝わって、わたしを安心させるように手を握りしめてくれるのでした。

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