二十二年 八月 「螽蟖(きりぎりす)」
まず確認。螽蟖、螽斯、蟋蟀、全部キリギリスです。どれも字が虫っぽくてイヤな秋の季語です。歳時記には「チョンギース」と鳴くとありましたが、幼い頃あれは「ギースチョン」と鳴いているのだと父に教わって以来「ギースチョン」だと信じてきました。今さら認識を改めるなんてできません。
五歳児のポケット今日は螽斯 ☆ (今回、佳作の評価を頂きました)
はい。捕まりました。こんな短くて、ちっちゃこい指の奴に捕まるなんて。自分でも信じられません。でも相手は五歳児ですから、逃走するのは簡単だと思いますよ。
ああっ? お母さんが勢いよく五歳児のズボンをパンツごと脱がした! 逆さにふるってポケットチェック! 数個の石と枝とドングリとだんご虫。そしてわたし。
お母さんが叫んだ。「きいいい、やあああやあああ!!!」
いまだ! 窓の開いたベランダから故郷の草むらへダイブ!
アレ? 出来ないや。網戸がある。ジタジタバタバタ。
「
すばるくんて言うんだ、この子。お尻を出した昂君はママと向き合って床に正座しています。
「はい」
「忘れた?」
「ううん」
「そしたら、どうして、毎日毎日、虫さん、連れて来るの?」
かわいそうなおかあさん。
「えーと」
五歳児が腕組みをして考え込みました。こうやって考えると良い考えが浮かぶんだって教わったんだって。お兄ちゃんに。
「あの、ね。ああっとね。」
「うん。なあに?」
「お母さんも虫さん好きになりますように」
かわいそうに。お母さん、心の葛藤が顔に溢れ出てますよ。
縁側に無口な父と螽蟖
どちらも動かず、かと言って相手の出方を見るような殺気は感じられません。ただ自然に隣り合って坐っているのでした。先週までの灼けるような日差しは和らぎ、遠い山並みに秋の気配を感じる日でした。
捕まって目玉くるくる螽蟖
また捕まってしまった。うわ、うわ。ネバネバした手で触るな。
なんだよ、このチビ助は。毎日毎日、俺を捜しに来るなよ。他に行けよ。
え? なんだよ? その弁当箱、何する気だよ。まさか俺をそこに……。
あれ? 蓋開けたら良い匂いがする。タマネギじゃないか! くれるのか?
一切れくれた。ありがとうな、坊や。おじさん、腹がペコペコなんだよ。
もっとくれるのか? その弁当箱に入ってるタマネギ、全部?
いやいや、それは悪いよ。いくらなんでも。坊やも食べろよ。
弁当箱、置いていくのか? 坊や、坊や、ありがとうな。また明日来いよ。
待ってるからな。ボツなんて気にすんな!
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