二十二年 七月   「炎天」

 炎天えんてんはよく晴れた夏の日の灼けるような暑さを言います。キーポイントは晴天。どれ程暑くとも夜には使えません。似た季語としては「炎昼えんちゅう」「炎暑えんしょ」「油照あぶらでり」「盛夏せいか」「大暑たいしょ」「溽暑じょくしょ」等々驚くほどたくさんありますが、状況がそれぞれ微妙に違うとしても、ここまで分類し名付けずにはいられないほど、日本人は伝統的に細分化、分類化が好きなんだなあと思いました。だから八月のオリンピックなんて有り得ないと大多数の日本人が感じたのではないでしょうか。



  炎天や人皆揺らめく影となる


 まさしく暑さも極まって、体から水分が全部抜けてしまったような炎天のオフィス街です。高層ビルの鏡面の外壁も、舗装道路のアスファルトも、日光と熱を増幅するって知っててやったのか。太陽なんて枯れてしまえ、などと呟く力さえ無く。アイスコーヒーを飲もうとオフィスから漂い出てはみたものの、照りつける直射日光に残りわずかな精気を奪われ、それでもコンビニを探して彷徨うゾンビのような人々を詠みました。ボツ。



  炎天の日暮れ遠しや六地蔵


 夏は明けるのが早くて暮れるのが遅いから、無為に生きていると長い長い一日になります。例えば、朝の涼しいうちに村はずれに住んでいるおじいさんのところまで、を届けるなんて楽勝でしたが、優しいおじいさんから、おはぎをひとつふたつ貰って、冷えた麦茶などをいただいているうちにも、お天道様は張り切って高く昇ります。

 お腹もくちくなって、さあ帰ろうという頃には既にして炎天下だ。こうなればと木陰から木陰へと忍者のごとくに渡ってゆけば、もう汗びっしょり。一休みの路傍にはお地蔵様が並んでいました。ひとつ、ふたつ、と数えれば、ちょうど六……?

 さて、ここで問題です。お地蔵様を数えるときの数詞って何でしょう?



  炎天や異音異臭の室外機 ☆☆


 真夏だというのに勤続十二年のエアコンの様子がおかしい。

 カラカラと金属音が聞こえたり、シュピーという、ため息? エアコンのため息? それだけではなく、油っぽい焦げ臭いような臭いがする。でもエアコンとしての仕事はきちんと果たしている。どうしようかな。もう保たないかな。すぐそこまで猛暑が迫って来てるのに。ここで壊れると命に関わる大惨事になる。仕方ない、買い換えるか。差し迫った状況に共感していただけたのか。入選でした。


 炎天に見つけたコンビニ蜃気楼、という句も作ったのですが、「蜃気楼」は春の季語なので季重なり。みずからボツにしました。




    ※ クイズの答えは「尊」でした。

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