二十二年 五月   「瀧」

 「瀧」の傍題はたくさん有ります。瀑布ばくふ飛瀑ひばく、瀧壺、瀧しぶき、瀧道、瀧風、夫婦瀧、男瀧、女瀧、瀧見、瀧見茶屋。瀧に性別があるのも、いま知りましたが、瀧見茶屋でもオッケーなんだって。(「俳句歳時記・夏」角川書店 から引用)


 日に透けるような若葉が茂る頃、左右から覆い被さってくる青葉の梢を除けながら瀧道を辿ってゆくうちに、轟々という水音がはっきりと聞こえ始めます。木立の間から流れ来る、ひやりと冷たい霧を含んだ風が上気した頬を冷やし、なおも進むと木立がひらけ青空が見えました。



 真言を唱える声や瀧仰ぐ


 激しい水音を消し飛ばすような雄々しき声です。岩だらけの滝壺で頭から瀧に打たれている白装束のひとが何人もいるのでした。ひたすら瀧に打たれる修行を「瀧行」と言いますが、これを行うのは仏教のなかでも空海を開祖と仰ぐ。山伏を代表とする山岳信仰である、または八百万やおよろずの神を愛するなどです。瀧行では多くは宗派に応じて真言やお経や祝詞のりとを唱えます。


 「瀧」と聞いて、まず思い浮かべたのが悲鳴嶼行冥ひめじまぎょうめいというところからして凡人なのですが『鬼滅の刃』というコミックに、泣き虫で心優しき僧が登場して、全盲ながら瀧行や巨石を動かすなどして己を鍛え上げ、鬼滅隊随一の技と力で敵の鬼をバッタバッタとなぎ倒します。

    敗因……読後感に瀧が残らない。

 


 瀧見茶屋安倍川餅の旨さかな


 自分で言うのもおこがましいですが、「それが、なに?!」

旅人が息を切らして山道を登ってくるわけですよ、ふいに視界が広がって轟々と瀧が落ちている。ここまでの山道の辛さが素晴らしい景色と瀧の息吹に触れると、不思議なことに癒やされてゆく。「あー、生きてて良かった。この世に安倍川餅があって良かった」知らず知らずに故郷の歌を口ずさめば、御茶屋さんのおばあちゃんが腰を抜かす。「あんた! 、なんでその歌を知ってるの?」

「え? この歌、父ちゃんがレコード大賞貰ったときのだから」

 泣きながら旅人を抱きしめる、おばあちゃん。

「三郎ーっ!」

「違うよ、三郎は親父だよ」

「与作ーっ!」   以下省略。

 敗因……句の主役が与作だから。


 白装束の僧の手印や瀧落つる ☆☆


 最初の句を丁寧に描いてみました。

 俳句が分かったなんて大それたものじゃありませんが、夏井先生がよく仰る「見たものをそのまま俳句にしてごらん」と言うお言葉に従ってみました。最初の句とまったく同じ場所で同じものを詠んだつもりなのですが、劇的添削?

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