第2話 プロジェクト·アイオーン
西暦2045 7月 新世界歴0010年
JAXA相模原キャンパス プロジェクト·アイオーン神宮寺研究室
「馬場博士 植物へのアイオーン照射の件ですが その後の進展は、どうでしょう?」
「神宮寺室長 室長の予想通り、照射したすべての植物が通常の成長を続け 枯れた植物は一鉢もありません
ただ照射した植物から取り出した種子から発芽した物たちは、ごく普通に成長し枯れていきます」
「遺伝はしないという事か。。。8月の会見で使えるネタは、あるかね?」
「ありますよ 画期的なのが 様々な環境でのじゃがいもの成育を観察しましたものですが、太陽光と僅かな水さえ与えれば
ほぼどのような環境でも成育し収穫出来ます どうです使えますでしょう? 貧困国の食料事情が、大幅に改善されることは、間違いありません」
「さすが植物生態学の権威、馬場博士ですな 検討させて頂きましょう 今月末迄に 地域、環境別のデータを私に送っておいてくれるかね」
白河玲子に目配せをして室長室に入る 神宮寺
しばらくすると、お茶を2つトレーに載せて入室の許可を求める
白河玲子
「この鉱石、アイオーンを調べれば調べるほど この世界に存在していい物ではないと、そう思えてくるね」
「使い方によっては、神にも悪魔にも なれますわ」
怪しく微笑む 白河玲子
「我々の仮説が正しければ。。。全人類90億人の命を握っていると同義だからね」
「最初は、どこまで若返っていくのかと不安でしたけどね」
懐かしそうに7年前を思い出す
「うん あの時点ですでに動植物への実験で、その生物のもっとも成熟した年齢で成長も若返りも止まると確信していたからね
7歳若返った気分はどうだい? 僕は、10歳若返っていることになるけどね」
「嫌な気持ちになる女性が居るはずは、ありませんわ
髪質も肌のハリも 夢の中に居るようです」
「肉体的にも精神的にも人間がもっとも成熟しているであろう
20代後半で落ち着くだろうと思うよ」
「そろそろ時間ですわね」壁に掛かった大型のモニターに
JAXA広報部長·山形聡と部長補佐の川谷正和が映し出される
「神宮寺室長、白河博士おはようございます」
「おはようございます 山形部長、川谷部長補佐よろしくお願いします」白河玲子が挨拶を返し 神宮寺は、軽く手を上げる
「いや〜神宮寺室長 8月の会見の対応に四苦八苦しております 現時点で数千件の申込みがありますが 絞り込みとしましてG30参加国の各省庁それに国連の、事務次官級以上 及び各国主要教育機関の学部長以上その他、主要メディア、企業、医療施設と厳選しまして1000人ほどの申込みを受け付けることになりますが
よろしいでしょうか?」
恰幅の良い山形部長が額の汗を拭いながら話す
「それは、今から緊張しますね まぁお任せしますが
G30以外でも中東の例の国々も呼んだらどうですか?
寄付金も期待できるのでは?」
「そうなのですが、過激な行動に出る者が居るのではないかと
山川理事長が尻込みをしていましてね」
「理事長には、僕からも話しておくよ 申込みを受け付ける方向でお願いします」
「そしてメディアの方ですが配信サービス世界最大手の
〈WePod〉と契約します、各国主要メディアも入りますので
ほぼ世界同時生中継となりますでしょう」
「ますます緊張しますね 新しいスーツでも新調しますかね」
可笑しそうに笑う 神宮寺
「そこでですね、さらに注目を集めるために開示できる情報が無いものかと言われているのですが。。。」
「なるほど それでしたら馬場博士から、たった今届いた。。。ちょっと待って下さい」
パソコンを操作して目的のデータを開く
「これですね 砂漠でも収穫ができる«じゃがいも»どうです?
わずかな水と太陽光があれば、ほとんどの環境で成育し
ほぉ~驚いたことに放置していても腐らない だそうです」
「それは、凄いことですが開示しても宜しいのですか?
映像データも頂けるのでしょうか?」
「うん いいでしょう 8月の目玉は、こんなものではないですから 映像も添付してデータを送りますね」
怪しく微笑む 神宮寺
その後 1時間程をかけ8月の会見の調整をして会議を終える
その1週間後 砂漠でも収穫ができる«じゃがいも»が世界中のメディアを駆け抜け JAXA広報部は、さらなる対応に忙殺されることになる
西暦2045年 8月 新世界暦0010年
JAXA筑波宇宙センター内 スペースドーム
前日よりの厳重な警備の中 各国政府機関の代表者、大学研究機関、主要メディア等など 30台を超えるTVカメラが持ち込まれ
8月25日[プロジェクト·アイオーン]による研究発表会見が無事に開催されている
劣化、死滅することなく 分裂、融合を繰り返す細胞
寿命を大きく上回り10歳を越える ラット
がん細胞、あらゆるウィルスの影響を受けない細胞
裂傷、火傷など重度なものでも薬や治療等を施さずとも自己修復、再生する事
ラットのみに留まらず 猫·犬·猿でも同じ結果がもたらされた事
先に発表された植物に対する実験データ などがそれぞれの専門であるプロジェクト·アイオーンのメンバーにより
明かされていく 想像を超える実験データーに思考が追いつかない 来場者たち
未だ明言をされることはないが、会場にいるすべての人の脳裏に不死、永遠の命をイメージするに十分な情報を与えていた
そして責任者である神宮寺博士と白河玲子博士が紹介とともに壇上へと上がる
「これらは、すべてアイオーンによりもたらされた結果であることは、間違いないのですが なぜ? このような結果に至るのかに関しましては、只今 原因解明中であります」
「最後にこれは、余興のような物なのですが ご覧ください」
背後の新調され、さらに大きくなったプロジェクターに神宮寺博士の写真が映る 壇上の博士自信より明らかに
老けていて、活力のようなものも感じられない写真 右下の日付には 2035年8月8日とある 10年前の写真
それを見てまじまじと壇上の神宮寺博士と見比べる 来場者たち
10年前の写真は、白髪が大半で生え際も後退し始めており 目尻や口元の皺シワも目立っている
それに比べて壇上の神宮寺博士は白髪も見当たらず 肌のハリも比べるまでもない
「この写真は、10年前アイオーンを研究し始めた年の物です 年齢は52歳でした 今は僕は62歳ですね 髪は染めていません」どっとざわめく場内
続いてプロジェクターに神宮寺博士の写真と白河博士の写真が並べて映し出される
日付には2038年11月17日とあり、それぞれの年齢まで記されている 神宮寺55歳 白河43歳
先程の写真より、やや若返って見える神宮寺博士が笑っている写真
それよりも来場者たちの注目を集めたのが 壇上の白河博士である 写真が事実であれば 50歳のはずの彼女が
どう見ても30代 それも前半のように見える しかも十分に美しい30代
それに引き換え写真に写った彼女は、年相応に見え 髪の潤いや 肌の艶など化粧では隠しきれない悲しささえ感じられる
その突き刺さる視線に、ニッコリと微笑み 白衣を脱ぎ タンクトップから伸びる 引き締まった二の腕を
カメラに向かい晒すと その映像がプロジェクターに映し出される さらに両手の甲をカメラに向ける
どう見ても50歳の手では無い カメラが彼女の体を舐め回すように撮る
ハリのあるバスト たるみの無い顎アゴ50代ではありえないヒップライン これを見て、この二人がアイオーンを照射したのだと大半の来場者が覚サトる
二人が口を開くのをシーンと静まり返り待つ 来場者
「皆さんが、想像された通り 我々は自らの身体を実験体にアイオーンを浴びました」
ワァーと湧きかえる場内 立ち上がり手を上げる者たち
「静粛に願います 静粛に願います」司会者が叫ぶが 興奮が止まない場内
その喧騒の中 不敵な笑みを浮かべ壇上から降りていく2人
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