第6話 忘れ物と失くし物
白山さんと別れてた後、急いで教室に戻り授業の時間と昼休みを使って、放課後のプランを考えた。
「よしっ、完璧だ」
ノートに書かれたプランを見て1人頷く。
「あとはこれを実行に移すだけだな……」
ノートを見ながら、今日のプランを確認する。
まずは鷹宮さんに、学校をサボってたことで先生に呼び出されたから先に帰っておいて、とメッセージを送る。その間に近くのカフェで、白山さんとデート。早い段階でバイト先から緊急の連絡が入ったと言って、白山さんと別れる。
その後に鷹宮さんに今日は鷹宮さんの手料理が食べたいなとメッセージを送り、手土産を持って家に行き夕飯をご馳走になって帰る。
「一部の隙もない計画だ。……でも、なんでこんなことになってんだ? ほんと」
今さらのため息を吐いて、放課後。何かに急かされるように教室から出ていった鷹宮さんを確認してから、『ごめん、先生に呼び出されたから先に帰ってて』というメッセージを送る。
「これで後は白山さんの所に……いや、学校で一緒にいるのは避けたほうがいいか」
どこで誰が見ているのか分からない。なので白山さんに『先生に呼び出されたから、近くのカフェで待ってて』というメッセージ送り、立ち上がる。するとふと、声が響いた。
「ねぇねぇ、神坂くん。カラオケ早く行こーよ」
「ちょっと、あんまりしつこいと神坂くんに嫌われちゃうよ」
朝に断ったはずなのに、また来る久梨原さんと雨宮さん。
「いや悪いけど、今日は忙しいから」
「またバイト? 神坂くんも大変だねー」
「あはははは。……だから悪いけど、また今度ね?」
そのまま逃げるように教室から出ようとしたところで、また声が響く。
「神坂くん。少し話があるので、空き教室までお願いできますか?」
今度は誰だと声の方に視線を向ける。声の主は担任の先生である
「えーっと、今日はちょっと忙しいんでまた今度でいいですか?」
「ダメです。貴方、3日も学校サボっておいて授業も上の空。このままだと本当に、ダメ人間になってしまいますよ?」
「いやもうなってるんで、大丈夫です」
「だったら尚更ダメです。ほら、行きますよ」
強引に腕を引かれて、空き教室へ。なんだか今日はよくこの空き教室に来るな。……というか、なんで職員室じゃなくて空き教室なのだろう?
「それで神坂くん。貴方はこの3日間、どこで何をしていたのですか? 家にも帰ってなかったそうじゃないですか」
ウェーブがかかった綺麗な茶髪を揺らして、厳しい目つきでこちらを睨む彩……先生。
「え? 俺、家帰ってなかったんですか?」
「貴方の妹さんからそう聞いてます」
「なんで、妹……」
「貴方のご両親は……貴方に対して甘過ぎます」
「うちの両親は甘やかし主義だから」
「そんな主義はありません。……貴方のご両親から、貴方が風邪をひいて体調を崩してるという旨の電話を頂いてました。けど正直、怪しいと思ったので妹さんに確認したんです。そしたら案の定、ズル休みですからね」
「あの裏切り者め……」
帰ったらほっぺたウニウニしてやる。
「悪いのは貴方です、神坂くん。貴方この3日間で何をしていたんですか?」
「いや、まあ、いろいろですよ。いろいろ……」
だからそれは俺が1番知りたいんだと、改めて切に思う。
「……何も、遊び歩くなと言ってるわけじゃないんです。貴方は勉強もできますし、基本的には生活態度も悪くはありません。ただ、あんまりサボり過ぎると他の先生方の心象も悪くなります。……ただでさえ、最近は問題を起こす生徒が多いんですから」
「何かあったんですか?」
「深夜に徘徊する白い天使って、知ってます?」
「て、天使? 何かの都市伝説ですか?」
想像していなかった言葉に、思わず目を見開く。
「そうです。そういう噂が1年生の間で流行っているようで、オカルト研究会の子たちがそれを調べて回って。……2人が、軽い怪我を負いました」
「まさか本当に天使に?」
「そんな訳ないでしょ? ただ2人は、口を揃えてその時のことを覚えてないと言ってるんです。……大方、何か危ないことをしたのを誤魔化す為に言ってるだけなんでしょうけど……私は心配なんです」
彩先生が潤んだ瞳でこっちを見る。……心配性なのは昔から変わらないな、と思う。
「彩ちゃんが心配してくれるのは嬉しいけど、俺は別に大丈夫だよ。こう見えて鍛えてるし」
「そういうことを言ってるんじゃないんです。分かっているのでしょう?」
「……ごめんなさい」
彩ちゃんが俺の肩に手を置く。教師が生徒にするには馴れ馴れしいとな思うけど、実は彩ちゃんは俺の従兄弟。近所に住んでるのもあって昔から彩ちゃんは、俺のお姉ちゃんのような存在だ。だから彼女は異様に俺のことを心配してくれる。
「って、彩ちゃん。まだそのネックレスしてくれてるんだ」
俺が小学生の時にプレゼントした、天使の羽がガラス玉を包み込むようなデザインのネックレス。彩ちゃんの誕生日に合わせて必死にお小遣いを貯めて渡したな、と懐かしく思う。
「ちょっ、どこ触ってるのよ」
「あ、ごめん」
懐かしいなと思って、無意識にネックレスに触れてしまった。……多分、肘におっぱいが当たっていた。彩ちゃん、胸大きいからな。
「別にいいけどね。でもここ学校だから、他の生徒に見られると困るでしょ?」
「はい、ごめんなさい」
「謝らなくていいって。春人は昔から私のこと大好きだしね。お姉ちゃんと結婚するーって、よく言ってたし」
「……そんなの本当にガキの頃の話だろ? 覚えてないよ」
昔を懐かしむように優しくネックレスに触れる彩ちゃん。その笑顔は『先生』をしている時とは別人のように、幼く見える。
「で、もう帰ってもいいかな? 彩ちゃん。実は今日ちょっと用事あって……」
「……貴方、本当に反省してる?」
「してるしてる。心配しなくても大丈夫」
「貴方が大丈夫って言う時って、大抵、大丈夫じゃないのよね」
鋭い。流石に長い付き合いなだけはある。でも今は本当に、こんなことをしてる場合じゃない。早く行かないと、また白山さんに怒られる。
「分かった、もういいわ。どうせ貴方、口で言っても聞かないもんね」
「あはははは」
「でも、危ないことだけはしないでね? 遅くなるならちゃんとご両親に連絡するように。それと、外泊もできるだけ避けること。分かった?」
「はい、分かりました。ご指導ありがとうございました」
と言って、そのまま流で空き教室から出て行こうとする。が、腕を掴んで止められる。
「……まだ何かあるの? 彩ちゃん」
「…………一応、最後に確認しておきたいんだけど」
「確認?」
「この前の……夜のこと」
彩ちゃんが俺を見る。頬を薄らと赤くして、初めて見るような照れた顔で、彩ちゃんが俺を見る。
「…………」
なんだか凄く嫌な予感がするのは気のせいだろうか? まさか、そんなことあるはずない。彩ちゃんは親戚だし、若いって言っても歳も5つ以上、離れてる。そんな彩ちゃんと、間違いが起こるわけないよな?
「やっぱり何でもない」
「いや、何でもないって、なんだよ……」
彩ちゃんの手が俺から離れる。……でもこのまま、立ち去っていいのだろうか?
「いいから! なんでもないのは、なんでもないの! ……じゃなくて、ちょっとした勘違いでした。神坂くんも、もう行っていいですよ。これからは節度を持って行動してくださいね?」
話はもう終わりです、と言ってそのまま空き教室から出て行く彩ちゃん……彩先生。なんか釈然としないというか、納得できない気がするが、触らぬ神に祟りなし。
「とりあえず今は、白山さんの所に急がないと」
そのまま走って、白山さんと付き合っていた頃によく行ったカフェに向かう。
「……やっぱり、全部忘れちゃったのか」
という小さな呟きは、俺の耳には届かなかった。
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