色々諦めたら長編小説が一応書けた話

尾八原ジュージ

かなりどうでもいい話になってしまった

 念のため最初に申し上げておくと、こちら創作論ではありません。ジャンルはエッセイです。個人的な覚書に近いものです。


 まず2021年まで、私は長編小説が書けませんでした。

 ちなみにここでは、十万字以上の一本のストーリーの小説を「長編小説」ということにしておきますのでご承知ください。とにかく長い話が書けなかったのです。

 当時拙作の中で十万字を超えてたのは確か『へたれ怪談』一作でした。しかもこれ、九十九話の掌編からなるものなので長編小説ではなく掌編集なのです。連作短編集でもありません。

 一本のストーリーでやった最長のものは『異界探検』で、こちらは七万字。ワンチャン文字数延びないかなぁと何度も読み返したのですが、もうどうがんばってもこれ以上は延ばせないなというので断念しました。

 とにかく長編小説が書けない。私も長編書いてみたいな〜十万字書いて完結させたら気持ちいいだろうな〜と思いつつ時は過ぎて2022年。

 なぜかこの年の一月、突然連載を始めたのが『みんなこわい話が大すき』で、すったもんだありつつこれが十二万字を超えて完結しました。その後クオリティはともかく、「本文十万字以上、ステータスは完結済み」の作品を、2022年だけで四作書くことができました。ちなみに2023年四月現在、五作に増えています。

 なんで? 急にどうした? という話をこれからするのですが、たぶんあまり参考にならないと思います。仮になったとしても完全に趣味勢向けじゃないかな……なお念のため申し上げておきますと、少なくとも現時点では当該作品がなんらかの賞をいただいたりとか、書籍化したりとかもしておりません。ただ書いて完結させられたという話です。(2023年5月30日追記あり 文末※をご参照ください)

 もしも今この文章をお読みになってる方の中に「何でもいいから十万字超書いてみたいなぁ」という方がおられましたら、ワンチャン役に立つかもしれません。

 では以下。


●プロットを書くのを諦めた

 十万字も書くからにはプロットというものが必要だろう、と思っていました。なくて書ける人もいるらしいが少なくとも自分には必要だろう、と。

 実際、たまに「よーしやるぞ」と意気込んでは、それらしいものを作ろうとし、そして挫折していました。

 なぜプロットを完成させることができないのか? 途中で飽きるからです。どうしてもラストまでたどり着かない……。

 というわけで諦めまして、いきなり本文を書いてしまうことにしました。しかも書いたら公開しちゃう。それによって「公開してしまったからには最後まで書くぞ!」という背水の陣を敷くことができるわけです。

 ちなみに、拙作の中で唯一プロットらしきものがあったのが『異界探検』でした。これはビルの十階から一階に下りていくという話なので、どのフロアでどの程度の怪奇現象が起こるかを事前に決めていました。だんだん程度を上げていかなければならなかったので、何も決めずに書くと下層階に到達する前に私のホラー的イマジネーションが底をつく可能性が多分にあったのです。

 でもこれ、プロットらしきものが存在したという意味で奇跡の作品でした。たぶん「ビルを降りていく」という単純極まりない軸があったおかげではないかと思います。逆に言えばこのくらいの軸がないと書けない。諦めました。やむなし。


●ストックを貯めることを諦めた

 これも当然諦めました。簡単な筋書きすら完成させられず飽きて投げ出してしまう私が、それよりも書くのに時間がかかるであろう本文を、誰にも見せず、静かに貯めていけるものでしょうか? 否。

 自分は誰かが見ていてくれないと緊張感が保てない性質なのだということが、そろそろ自分自身理解できつつありました。随時公開していないとモチベーションが保てない。当然ストックは貯まりません。

 思えば昔、先生が回ってこない自習室では勉強が進まないタイプの学生でした。今は基本的に公開する日(基本的に朝七時台)の前夜に続きを書いています。


●めちゃくちゃ気軽になった

 気軽に連載を始めることにしました。

 誰かと契約し、お金をもらって書いているのでもなければ、「期限までに終わらせて公募に出すぞ!」という具合に大切なものが懸かった作品でもありません。何万字で終わってもいいし、最悪まとまらないなと思ったら夢オチや爆破オチになってもいい――いや、いいと言ってしまっていいのかどうかはわかりませんが、とにかく自分の人生や他人様に、多大な損害を与えるというものではないのです。気軽にやりました。

 ちなみに長編一作目の『みんなこわい話が大すき』では、一応最初の一章だけ前もって筋書きを用意しておいたのですが、その後はかなりアドリブを入れることになりました。次に書いた『巣』以降は「最初の一話をなんとなく書いちゃったらもう公開して連載開始」というのが定着し、連載をだいぶ軽いノリで始めてしまうようになりました。こうなるともう逆に日刊連載じゃないともちません。勢いが。

 アドリブが過ぎて、すでに公開されている本文をこっそり修正することもままありました。幸い紙の本と違って、web小説はいつでも加筆修正ができます(程度の問題はあるでしょうが)。助かっています。


 こんな感じかな……以上、ふと思い立ってまとめてみたものでした。

 改めて見ると本当に中身がカスカスなのですが、「これ読んで軽いノリで連載始めてみたら案外書けたし楽しいな~」ってなる人がいたらいいなとこっそり思っています。

 ただし、「これ読んで連載始めてみたけど書けなかった……」という場合の責任は、当然とれませんのでご承知おきください。

 それではこの辺で。皆様、よい一日を。




※2023年5月30日追記:本日最終選考結果が発表された第8回カクヨムWeb小説コンテストで前述の『みんなこわい話が大すき』がホラー部門の大賞をいただきました。この文章を書いていたときは本当に何も知らなかったので、思いがけずものすごいオチがついてしまったな……という気持ちです。お読みいただいた皆様のおかげで受賞が叶ったと思います。ありがとうございます!

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