第51話 帰ってきた兄さまたち

 メエメエさんに頼んでいたオールドローズの鉢が出来上がった。

 僕の倉庫に入っているとのことなので、お庭で確認することにしたよ。

 はい、ドーンと。

 出てきたのは立派な角鉢に植えられたオールドローズで、オベリスクに誘引された全高三メーテ以上の見事な株だった。

 ツルバラだから、こうなっちゃうよね……。


 一辺が八十センテもありそうな大きな角鉢は、きれいな装飾が施されていて、テラコッタっぽい素材だった。

 これってかなりの重量があるんじゃない?

 力自慢が二~三人もいれば持てると思うけど、こんなの贈って迷惑じゃないかな?


 白やピンクや赤紫のダマスクローズが八鉢だ。

 見た感じ三分咲きってところかな?

 ダマスクローズは香水の元になるんだよね。

 確かに良い香りがするので、鼻を近づけてクンクンとかいでみた。

 精霊さんたちも真似っこしているよ。


 さすがに大き過ぎやしないかと心配になったので、急いでバートンを呼んできた。

「バートン、こんなに大きいと迷惑じゃないかな? 切り花を贈ったほうがいいんじゃない?」

 庭にドンと置かれた大鉢八個を見て、バートンは息を飲んだ。


「これはまた見事なものでございますね。エントランスや庭園にございましたら、圧倒されること、間違いございませんね」

 バートンはうんうんと、満足げにうなずいていた。

「え? こんなに大きくてもいいの?」

「貴族など見栄張りでございますから、小さいものより大きなもののほうが喜ばれますよ」

 マジですか……。


 というわけで、鉢バラ八株は贈答されることになったよ。

 ちなみに鉢の重さは、『重力操作』という土魔法があるから問題ないんだって。

 マジックバッグにも十分入るからと、早速お届けすることになった。


「外に設置するときは、毎日浄化の魔法をかけるように伝えておいてね」

 浄化魔法で消毒いらずだよ!



 その後、ラグナード辺境伯家から追加のオーダーが入った。

 タウンハウスに設置する分と、邸宅用だといって大量注文が来ちゃった!

 顔には出さずともバートンは大喜び。

 メエメエさんはドヤ顔で胸を張っていた。

 う~む、貴族ってよくわからないね。

 

 

 そんなドタバタのあいだに、ラドベリーの収穫も始まっていた。

 露地栽培では形や大きさが不ぞろいなものも多かったけれど、味は文句なしの太鼓判だよ。粒ぞろいを選別して贈答用に箱詰めし、形の悪いものはジャム工房へ回した。

 あとは村のご婦人たちの腕次第だね。


 六月半ばにはジャムの試作品が届いた。

 ジェフとバートンとマーサと僕で試食した結果、問題なく販売できると判断したよ。封印紙に最良品の印が出たものを、数量限定で販売することになった。

 もちろん今回はハルド商会に全部卸すことにしている。

 イチゴの収穫時期にしか作れないから、大量生産は無理という条件付きでの販売だ。

 試食したベンジャミンさんの目が、お金のマークになっていたのは言うまでもない。

「高値で完売させてみせます」と、鼻息を荒くして帰っていった。

 がんばってね! よろしくね!



 そういえば、アルじーじを見かけないね。

 元気かな?

 メエメエさんもついているから大丈夫だよね。

 この季節は僕も忙しいから忘れちゃうよ!



 六月下旬になって兄様たちが戻ってきた!

 まだリオル兄には騎馬だけの旅は無理だったので、馬車と騎馬の併用できたんだって。

「ただいま、ハク」

「お帰りなさい、レン兄様、リオル兄様」

 にこやかに抱きしめてくれたレン兄は、すっかり大人っぽくなっていた。

 体格もガッシリしてきたみたい。


「相変わらず小さいねぇ」

 横からのぞき込んできたリオル兄は、僕の頭をなでなでしてくれた。

 なんか美少年度が増してない?

 髪も伸びているぞ!


「むー、ちょっとは大きくなったもん!」

 むーむー、と唸りながらリオル兄にも抱きついたよ。

 リオル兄も身長が伸びていた!


「はいはい、ところで浄化魔法をかけてくれない? 埃っぽくてさ」

「あ、いいね、それ。私にもお願いしていいかな?」

 弟たちのじゃれあいを、ほほ笑ましそうに見ていたレン兄ものってきた。

 ふたりとも僕のこと浄化石扱いしてない?

 まぁ仕方がないからクリーンしてあげるよ!

 はい、はい、りふれーっしゅ!

 復唱してください!


「相変わらず、このおつむは進歩がないねぇ」

 そう言って、リオル兄は僕のほっぺを両手でサンドした。

 むにゅって、タコさんになっちゃう。

 そのあとほっぺたムニムニされて、おでこにチュウされちゃったよ。

 モニョモニョ。

 

 精霊さんたちも飛んできて、順番にタコさんムニムニチュウをしてもらっていたよ。

 みんなキャッキャと大喜びしていた。


 

 そのあとは、昼食を取って談話室で近況報告会をする。

 レン兄は上位の成績で学園を無事に卒業できたそうだ。

 リオル兄は基礎学科を三箇月で終了し、現在は魔法学科で魔法陣の勉強をしているらしい。成績はソコソコ上位をキープしているんだって。

 なんか意外。リオル兄は頭がいいからトップも狙えそうだけど。


「同学年に第三王子とその側近連中がいるから、悪目立ちして睨まれても困るからね。私は王都で要職につくわけではないから、学園の成績なんてそこそこでいいんだよ」

 おお、王子様とその側近!

「王子様に婚約者はいないのですか?」

 思わず聞いてしまった僕は悪くない。……はず。


「変なことに興味を持つねぇ? ご婚約者はまだいないはずだよ」

 どうでもよさそうに返事をして、リオル兄はラドベリージュースを飲んでいた。

 ジェフに氷魔法で氷を作ってもらい、それを細かく砕いてラドベリーと一緒にミキサーにかけてもらったのだ。

 この世界にも手動だけどミキサーの魔道具が存在したんだよ!

 できたラドベリージュースは冷たくて、シャリシャリ感がたまらない一品になった!

 ちょー激うま!

 我が家の名物が、またひとつ生まれたよ。

 

「あ、これおいしいね! ラドベリーと氷の粒が入っているんだね! 果肉の触感もおもしろいし、甘さもくどくなくて夏にはぴったりの飲み物だね」

 大絶賛だ!

 リオル兄が瞳を輝かせていたよ。

 大好物のラドベリーのドリンクだもんね。饒舌じょうぜつにもなるよ。

 実はこれ、従士たちも訓練後に飲んで栄養補給しているんだよ。

 レン兄もニコニコと、おいしそうに飲んでいた。

 

 だけど僕は、マーサから一日コップ一杯と制限をかけられている。

「冷たいものを飲んで、お腹を壊したらどうするんです? 一杯だけですよ!」

 子ども用のちっちゃいコップを渡された。

 しょんぼりさん。


 そして、兄様たちふたりのコップは大きかった。

 僕のコップの三倍はあるよ。

 僕のコップは……。

 あうぅ。目から心の汗が流れたよ。



 余談だけど、今回ジジ様は同行していなかった。

 オスカー様のご婚約式に向けて、猛獣ネコの手も借りたいらしく、レオン様が引き留めたんだって。ジジ様は最後まで駄々をこねていたらしいけどね!

 兄様たちには辺境伯家の騎士が数人護衛に当たってくれていて、今日一泊したら明日には戻るんだって。八月の頭にまた迎えに来てくれるそうだよ。

 お疲れさま~。

 今日はおいしい野菜とフルーツを、お腹いっぱい食べていってね!

 お土産もたくさん持って帰るといいよ!

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