第52話 みんながハッピー?

 翌日はレン兄とリオル兄と一緒に、裏庭に来ていた。

 去年より充実した裏の畑にリオル兄は呆れていたけれど、少し先の木々に囲まれたメルヘンハウスを見たときは、目を細めて無言になっていた。

 レン兄は「かわいいお家だね!」と褒めてくれたよ!


 門に辿り着くと、クロちゃんシロちゃんに兄様たちを紹介する。

「おはよう、クロちゃんシロちゃん。ふたりは僕の兄様で、レン兄様とリオル兄様です。仲良くしてね」

「レンにいよろしくニャ!」

「リオルにいよろしくニャ!」

 クロちゃんシロちゃんは遠慮もなく兄ちゃん呼びだった……。


「やぁ、初めまして、私は長男のレンだよ!」

「…………。次男のリオルにいです。よろしくね」

 レン兄は素直に朗らかに、なんの疑いもなく挨拶していたけれど、リオル兄はチラリと僕を見て、それからきれいな笑顔で自己紹介していた。

 含みタップリだよね。

 なんか冷たい視線が刺さるけど、これくらいで驚いていちゃあ、僕のお兄ちゃんはやっていられないよ!


 クロちゃんシロちゃんに別れを告げ、さっさと離れのお庭を横切って扉の前に到着すると、僕は大きな声を上げて扉を開いた。

「おはようございます! アルじーじ、起きてるー?」

「おはよう。起きているよ、ハク坊や。おや、今日はお客さんも一緒かい?」

 まだ寝巻きのままで、アルじーじは朝食を食べていた。

 キッチンカウンターには、メエメエさんがフリルのついたエプロンをつけて浮かんでいた。

 かわいいエプロンはマーサのお手製だよ!

「おはようございます、ハク様。お客様もいらっしゃいませ。どうぞ、空いている席におかけください」

 入り口でポカンと口を開けている兄様たちに、とりあえず紹介しておこうね。


「兄様たち、あっちがアルじーじで、こっちがメエメエさんです。このお家に住んでます。で、このふたりはレン兄様とリオル兄様です」

 僕の雑な紹介にアルじーじは大ウケして笑い出した。

「はっはっは! 初めまして、私がアルじーじだ!」

「私がメエメエです。この家の管理人です」

 メエメエさんは虚無の瞳で僕を見ていた。

 その目はやめて!


 とりあえず、兄様たちには椅子に座ってもらう。

 精霊さんたちは窓辺のソファに飛んでいって、お気に入りのポジションに収まると、まったりと寛いでいたよ。

 最近は窓辺にクッションやら小物が増えているね。


 僕もいつもの席に「よいしょよいしょ」とよじ登って座ると、メエメエさんが飲み物を出してくれた。

「本日のお飲み物はレモンティーでございます。お好みでお砂糖を入れてお召し上がりください」

 レモンティーと甜菜糖のポットを僕らの前に置く。

 窓辺にいた精霊さんたちは順番に並んで受け取っていた。

 みんないい子だね。

 見ているだけで、ほっこりするよね~。

 かわゆす。


「アルじーじはね、アルシェリード様っていうお名前で、暁の賢者さんなんだって。魔除草の栽培法を調べにここに来てね~、今はこの離れに住んでいるの~」

 僕があらためて紹介すると、兄様たちは目を見開いて驚嘆した。

「……はっ!? 暁の賢者……様!!」

 その後、レン兄はハッとしたように我に返り、丁寧に挨拶をしていた。

 リオル兄は顔を青くしたり赤くしたり、なんかいつもと違うようすでキョドっていた。

 どうしたんだろうね~?


 なんてのん気に見ていたら、ズイッとメエメエさんの顔が眼前に近づいていた。

「この世界で有名な『暁の賢者』を前に、のほほんとしていられるのはハク様だけかと」

 だから近過ぎだよ! 

 僕の視界が黒一色になってるってば!

 怖いから引いて!!


 挨拶が終わると、アルじーじはにこやかにリオル兄と話を始めた。

 リオル兄は熱心に何か質問をしているね。

 レン兄はなぜかメエメエさんと楽しそうに会話をしている。

 キャラが真逆なのに会話が弾むものだろうか?

 陽キャと陰キャだよね?

 レン兄の社交性は謎だよ。


 僕は飽きてきたので、ソファへ移動して精霊さんたちのあいだに混ぜてもらった。

 引っついて暑くないのかって?

 離れの中は全館空調らしいから、外よりずっと涼しいんだよ。

 風魔法で空気を循環しているんだってさ。

 みんなとギュウギュウで座っていると、なんだか眠くなってくるねぇ……。

 くぁ~っ。

 まだ午前中だけど、みんなでお昼寝しようねぇ……。

 ムニャムニャ。


 

 あとからリオル兄にメッチャ褒められたー。

「でかした! よくぞアルシェリード様を我が家にご招待してくれたね! 暁の賢者様にご教授いただけるとは、なんという幸運だろう! ありがとう、ハク!!」

 すごく興奮したようすでハグされた。

 クルクル回って、僕は振り回されてます、るるるるる~。


 眼が回ってクラクラするよ……。

 足元が覚束おぼつかないんだけど……。

 僕はそのままよろけてソファにポスンと寝転がってしまった。


 う~ん、満面の笑みで言われても、僕は何もしていないよ?


 アルじーじが勝手に来て、勝手に住み着いているんだよ?

 アルじーじはこのあいだ「家賃代わりに納めてくれ」と言って、各種ポーション(品質:最上級)を父様に渡していた。

 父様は「暁の賢者様のお手製の品など……」と恐縮していたけど、あれって僕の倉庫の薬草と器具を使って、遠慮もなく好き勝手に、嬉々として作っていたやつだよね?

 大量の月光草とクレール草を見つけて、狂喜乱舞していたもん。


 倉庫には、ほかにも僕の知らない薬草が混ざっていたみたいで、それらとかけ合わせて謎のポーションを作っていたし。

 さらにユエちゃんがアルじーじにおだてられて、シャララ~の魔法をかけていた。

 ユエちゃんの魔法が付与されたポーションは(品質:伝説級)になっていて、アルじーじは手をたたいて喜んでいた。


 あなたたちは、何してるんですか?

 外に出せないものを作らないでくださいね。

 メエメエさん、最上級は門外不出にしてください!

 倉庫の奥底に、ポイッです!

 ポイッ!!


 そんな感じで、アルじーじは当分ここにいると思うから、リオル兄はアルじーじの知識をどんどん吸収したらいいと思うよ?

 リオル兄がいるあいだは、僕のお勉強がなくても全然大丈夫だよ~。

 応援しているから、お勉強がんばってね~~。


 使えるものはじーじでも使ったらいいと、昔の人は言いました。

「言っていません」

 おやおや、メエメエさんのツッコミが入りました~。

 てへぺろ。

 

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