第49話 ご祝儀に何贈ろう?

 結果からいうと、セシリア様の突撃訪問はなかった。

 僕の八歳の誕生日を過ぎたころに、プレゼントと一緒に先触れのお手紙が届けられた。今年は六月初めに訪問すると書かれていたよ。


 ついでに六月下旬には、レン兄とリオル兄も帰ってくると手紙が届いていた。

 レン兄は王都の学園を卒業して戻ってくるんだよ!

 といっても、もう二~三年は王都でお勉強をするらしいけれど……。


 レン兄は十五歳になってこの世界の成人を迎えた。

 これからは大人としての社会経験を積むために、政治のお勉強が必要なんだって。

 それこそ(面倒な)貴族とのつき合い方とか、人脈作りの社交を学ばなければならないのだ。

 当主になるにはそれなりの準備が必要なんだね。

 ちょっとガッカリしたけど、お家のためにがんばっているんだもん、応援しなくちゃね。

 帰ってきたらいっぱい野菜とフルーツを食べさせようね!

 夏だからパイナップルやマンゴーとかいいかも。

 南国フルーツは、お家で食べる分だけ作ろうかな?

 ウキウキするよね~。


 


 寒冷地だと六月前半でも、バラはまだたくさん咲いているよ!

 むしろ早咲き品種も遅咲き品種も、同時に見られる良い季節だよ。

 気温が高くならなければ長持ちするしね。


 セシリア様が到着したときは、まさに花真っ盛りで、たいへん喜んでいただけた。

 今回はレオン様ではなく、ご長男のオスカー様(二十一歳)にエスコートされていた。

 オスカー様はレオン様とセシリア様のな感じの方だった。

 上背はあるけど細マッチョで、全然ゴツくなかった。なんか貴公子ってこんなかなって思っちゃったよ。さすがにウィル兄やカイル兄とは気品が違うねぇ。

 しみじみ思ったよ。

 グリちゃんポコちゃんも、うんうんと腕を組んでうなずいていた。


 バラ園のガゼボでお茶会を開いたとき、オスカー様が今年ご婚約されたことを伝えられた。

 お相手は東部の貴族ウィンサー伯爵家のご令嬢だそうだ。

 ウィンサー領はラグナード領から東に三つの領を越えたところにある、海に面した場所なんだって。海洋貿易が盛んなところで、裕福なお家みたい。

 良家のご令嬢とご縁が持てたと、セシリア様はたいそう喜んでおいでだった。

 肝心のオスカー様も照れたようすでお話されていたよ。

 先方のお嬢様と仲はいいみたいだね!

 おめでとうございます!


 ご婚姻は来年の夏になるそうで、まずはご婚約式の招待状を父様に手渡していた。

 その準備があるため今回は長居できないと、残念そうにしながらも翌日には帰っていかれたよ。



「せっかく離れの偽装工作をしたのに、肩透かしを食らいました……」

 メエメエさんはブツブツ文句を言って消えた。

 なんか黒いものが見えたのは気のせいかな?

 偽装準備にっていたからねぇ。

 徒労とろうに終わっちゃったね。



 まぁ確かに、今回はあっさりじゃない? って、僕も思ったよ。

 首をひねる僕に、準備がたくさんあるのだとバートンが説明してくれた。


「次期ご当主様であらせられるオスカー様のご婚約式ともなれば、それは盛大におこなわれることでしょう。王都のタウンハウスでの開催となれば、そうそうたる良家の面々がご出席なさいます。今から準備をしても遅いくらいでしょう。辺境伯夫人の腕の見せどころでございますよ」

 はわ~。


 相手のお嬢様のご準備も大変ですよと、マーサがため息をこぼしていた。

 あれだね? 

 ラノベで読んだ、貴族令嬢の苛烈なる見栄の張り合い!

 どれだけお金をかけたとか!

 どれだけ大きな宝石が贈られたとか!

 どれだけ流行の最先端を行っているとか!!

 バッチバチのバトルが繰り広げられるんだよ!

 なんかドキドキするよね!


「ていっ」

 またしてもユエちゃんにはたかれた!

 なんで!?

 え? 不審なオーラを感じたから?

 ええぇ?

 言いがかりじゃないかな?



 そうとなれば、我が家でも贈り物をしないといけないらしい。

 招待される側とはいえ、ただで飲み食いしに行くわけにはいかない。

 一応は親戚だしね!

「お祝いの品に、何を贈ろうか?」

 父様に相談されたよ!


 緊急会議の参加者は父様と僕とアルじーじと、バートンとビクターの執事親子だよ。

 アルじーじは何げに、我が家の主要メンバーに入り込んでいた!


 父様いわく「あまり目立たず、それでいて品位を落とさないもの」だそうだ。

 う~ん、前世だったらご祝儀包んで行くだけでよかったんだけどね。

 現金じゃダメなの?

 ほら、記念コインみたいに、指輪ケースみたいなのに入れてさ。

 バートンがため息をつきながら首を振っていた。

 うん、ダメみたい。


 王都のタウンハウスでおこなうそうだし、目立たずっていうと、フルーツ系は避けたほうがいいよね。ラドベリーもメロンも白桃も、まだ中央には知られたくないしね。

 少なくとも村で安定生産できるまでは、なるべく隠しておきたい。

 そうなると誤魔化しが利くように、桃の木は増やしておいたほうがいいかも……。


「今はそれとは違うお話かと思われます」

 ニュッと、メエメエさんがテーブルの下から顔を出した!

「ええ! さっき帰ったんじゃなかったの? なんでメエメエさんがここにいるの?」

「ハク様のダメな気を察知いたしましたので」

 ええーっ! ひどい!

 でも脱線してたかもー!


 アワアワする僕を無視して、メエメエさんは贈り物会議に飛び入り参加してきた。


「オールドローズの鉢植えなどはいかがでしょう」

「オールドローズ? 庭のバラとは違うのかい?」

 父様が不思議そうにメエメエさんに聞いた。

 メエメエさんはうなずくと説明を始めた。


「バラ園のバラは、ハク様のイメージで作られたバラでございます。ですから一般的ではございません。オールドローズは王道のバラでございますので、特に悪目立ちするものではございません。しかし、ハク様のスキルで育てたオールドローズならば、それは豪華な仕上がりとなることでしょう。そちらを辺境伯家のタウンハウスにしつらえていただければ、たいそう見栄えがするものと思われます」

 メエメエさんは胸を張って言いきったよ。

 相変わらず、もっともらしく、丸め込むような話し方だね!


 でもね、ちょっと待ってよ。

「ご婚約式は秋におこなわれるんでしょ? オールドローズは 一季咲きだから、秋にお花はないよ?」

 僕が首をかしげながら言うと、メエメエさんはダメな子を見るような視線を向けてきた。

 なんか、しゃくにさわるーッ。

「マジックバッグで保管しておくことが可能でございましょう?」


「おお!そうだな!」

 父様も納得の表情である。

 バートンもビクターもうなずいていた。

「秋だからこそ、あるはずのない豪華なバラの花は目を惹くことでしょう。まさにご婚約式に花を添えるものとなりましょう!」

 上手いこと言った、みたいな顔をしてご満悦だね。

 メエメエさんも根源では僕と似てるんじゃないかな?

 僕から派生したんだし? 

 ねぇ?


「オールドローズの枝を数種類ご用意いただければ、挿し木で栽培させていただきます」

 僕の内心の言葉は、華麗にスルーされたよ! 

 

「それなら私のコレクションの中にいくつかあるから融通しよう」

 それまで黙っていたアルじーじが手を挙げた。

「コレクションとは?」

 メエメエさんの目が怪しく光ると、アルじーじがニヤリと笑った。


「世界中を旅して集めた植物や鉱物が、私の内にたくさんあるんでね。珍しいバラの木もあったはずだよ?」

 そう言って、アルじーじは左手の腕輪を掲げてみせた。


 希少品アイテムボックス来たーッ!

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