第45話 僕が親分だよ?

「いずれにしましても、現在のハク様は生活魔法しか使えなくなっておりますので、皆様も今までどおりの保護でお願いいたします」

 メエメエさんがみんなにお辞儀をした。

 僕も一緒にお辞儀をしてみた。


 うん、ところで過保護でいいの?

「鈍臭いですから過保護なくらいでないと早死にしますよ」

 ええ!? ひどくない!


 眼前まで近寄ったメエメエさんの顔が近い。

 真っ黒お目目が見開かれているッ!

 フンと鼻息がかかるんですけど?

 もう少しパーソナルスペースを考えてほしいな~なんて……。

 ムニッと両のほっぺを摘ままれたよ!


 ああ、はい。僕は最弱です。

 ひとりじゃ寂しくて死んじゃうウサギです。

 ごめんなさい。

 きゅうきゅう。


 気を取り直して、メエメエさんはコホンと咳払いをした。

「この家は基本、この部屋と洗面室のみになりますが、二階にアルシェリード様のお部屋を増築いたしましょう。保管倉庫および、奥の植物園への立ち入りは制限させていただきます。奥へ入りたい場合は、ハク様の了承を得てからお願いいたします」

「承知した! よろしく頼む!」

 周りを置き去りにして、商談が成立したようだ。

 アルじーじの満足気な笑顔に、誰も何も言えなくなった。

 ええ?

 アルじーじのことだから、無理やり押し入りそう。

 


 父様は疲れたように、大きなため息をついていた。

 そんな父様の背中をロイおじさんがバンバンたたいている。

「ハク坊だから仕方がないさ! 難しく考えたら負けだ! 俺たちは今までどおり坊主を過保護に守るだけだ!! ガハハ」


「そうッスよ、ハク坊ちゃんは昔から変じゃないですか? 今更驚いても仕方がないですぜ。それにしてもこのパンもジャムも滅茶苦茶うまい! おかわり!」

 ケビンが地味に僕をディスりながら、能天気におかわりを要求しているよ。

 すかさず精霊さんたちも、ジェフにお皿を突き出した。


「あらあら、まあまあ」と、マーサが精霊さんたちのジャムで汚れた口を、拭いてあげている。みんなべっとりジャムまみれだった……。

 バートンはいつもと変わらない調子で、みんなにお茶のおかわりを用意していた。


 衝撃の事実(?)を知ったあとなのに、なんかみんな平常運転だよね。

 僕が変って……。

 事実だけに何も言い返せない……。

 しょぼぼ~ん。


 父様は困ったように苦笑して、百面相している僕を優しく抱きしめてくれた。

「本当に困った子だね。実際のところ理解が及ばないこともあるが、無茶をしてはいけないよ」

「ごめんなさい、父様。ここでアルじーじと真面目にお勉強します」

 いい子にします。

 僕のことは嫌いにならないでね?


 黒い執事の黒羊のメエメエさんが、胡乱うろんな目で僕を見ていた。

 その疑わし気な瞳は、なんで!

 ちゃんとお勉強するもん!

 ちょっとだけだけど!!


 そのあとは、みんなで精霊印のジャムをたっぷり塗った白パンを食べまくった。

 ジェフには「ここのキッチンをたまに使わせてください! あと、柔らか白パンの作り方が知りたい!」と懇願されたよ。

 マーサとバートンには、何品かお茶を融通してほしいとお願いされた。

 メエメエさんが。


 みんな何か勘違いしていると思うの!

 メエメエさんの親分は僕だよ!

 僕なんだよ?

 なのにメエメエさんがいろいろと進めていくん!

 僕はまるっと無視されまくった……。



 その日の午後には、小さな平屋の家が二階建てにリフォームされていたよ。

 メエメエさん、仕事が早過ぎ!

 アルじーじは大喜びで、その日のうちに荷物を運びこんで住み着いた。

 屋敷は『母屋』で、こっちは『離れ』ということで落ち着いたよ。


 だがしかし!

 ご飯は普通に母屋で食べるんだよ!

 誰かジェフとアルじーじを連れてきて!

 待てど暮らせど来ない彼らに、見かねたマーサが夜ご飯を作ってくれたんだ。

 ジェフは反省しなさい!


 そんなこんなで、たった一日のことなのに、四話も使っちゃったよ。

 どうしてくれるのさ!

 お話が一向に進まないじゃん。

 ぷりぷり。

 


 ところでメエメエさんや。

 いつの間に、お茶の木なんて栽培していたの?

 お茶の木は高地栽培じゃなかったっけ?

「精霊村の山の斜面を利用して、お茶の木の栽培を始めました。お茶の加工工房も作りましたので、茶葉だけでなく、ハーブティーもご用意できます。現在は新しいお茶も開発中です」

 そうなんですか……。


 僕の知らない世界が、着々と広がっているもよう。

 


 その後、離れまでの小道ができ、その周りには遠慮なく畑が作られていった。

 ここだけ見れば、もはや貴族のお庭ではないね。

 我が家は立派な農家のようになっちゃった!





 四月下旬には屋敷前の畑で、作付けがおこなわれた。

 ミリーちゃんたちはメロンの替わりにカボチャを、枝豆の替わりにツルなしインゲンとスナップエンドウを植えることにしたらしい。


「メロンも枝豆も裏の畑で作られると聞いたので、こちらではもっと一般的な野菜を植えようと、みんなで話し合ったんです。カボチャならメロンやスイカと同じウリ科なので、去年の経験も生かせます。困ったときはジャックおじいさんたちに相談して、それでもダメなときはハク様の手をお借りしますね!」

 ミリーちゃんはやる気に満ちた瞳で、楽しそうに笑っていた。

「うん、がんばってね!」

 ナイスチョイスだと思うよ!



 若者が希望にあふれて仕事をしているんだから、大人な君たちもしっかり働いてくれたまえ!

 と言って、従士たちに枝豆の種まきを命じた。

「ちゃんと株間を空けて種をまいてね! 土もしっかりかけないと芽が出ないよ! 自分たちで食べる分はしっかり働いてよね!」

 はいはい。サクサク作業したまえ~。

 特に僕をディスったケビンは、馬車馬のように働くんだよ~。

 僕を畑にくるくる飛ばしたイザークもね~。


「横暴だ!」とか言っているけど、本当にそうかな? 

 因果は回るものなのだ。

 その努力が巡り巡って君たちのお腹を満たすわけだ。

 夏にチョイ冷えエールと枝豆を食べるために、君たちはがんばるしかないんだよ!

 ハッハッハ~。


 アルじーじもなぜか楽しそうに参加していたよ。

「この年でこんな経験ができるとは思わなかったよ! 農作業も楽しいものだね。私はここに来れて幸せだよ」

 でしょうね。

 いろいろと、馴染むのが早過ぎだと思うの。

 

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