第8話 レベルアップしました

 昼食後にステータス画面を確認したら、三×三の九マスブロックが二区画追加されて、三区画になっていた。


 新たに栽培できるものはコーン。定番中の定番だね。

 ジャガイモやコーンは比較的短期で収穫できる主食系だからかな? 

 往々にして異世界は、食生活が貧しい設定だから、何か配慮されているのかも?

 実際に現在の食卓を見れば、食料豊富とは言えないもんね。

 貴族家の食卓がこれだと、平民はもっと質素だと思う。下手をしたら一日二食もありえるよね。


 レベル二になったら作業完了時間が二十三時間になったよ。微妙な感じだけど、レベルアップで時短になるのはいいね。


 一区画は今までどおりジャガイモを植えて、新たな一区画はコーン栽培に割り振り、残りの一区画は植物創造魔法の試験場にしよう。

 地道にレベル上げをがんばるしかない。

 

 最初は野菜スタートになったけど、実は僕の前世のガーデニングは、お花の栽培がメインだったんだよね。もちろん家庭菜園はやっていたから、多少の知識はあるけれど。

 今世は前世の小さなお庭でできなかったことをやってみたい。

 そのための一歩とがんばろう。



 七月になるころ、父様も王都へ向けて出発していった。

 辺境伯家でレン兄と合流し、一緒に王都へ向かう。

 三週間前後で王都に到着すると、父様は王城で税の申告をして、すぐにラドクリフ領へ帰ってくる予定だ。

 五週間ちょっとかかるとして、八月中旬ころには戻ってくるだろう。

 さみしいけど、いい子にして待っているよ!

 父様が戻るころには、夏野菜もたくさん収穫できるだろう。

 楽しみだね!


 ちなみにレン兄は、ラグナード家のタウンハウスに居候することになる。

 ここでも親戚におんぶに抱っこだよ。

 貧乏なラドクリフ家では、王都にお屋敷を構えるお金がないからね!

 すねにかじりついて離れないよ!




 あっという間に、夏真っ盛り。

 開け放った窓から聞こえる、セミの鳴き声がやかましい。

 ミーンミンと大合唱だよ。

 それまで自由だった午前中は、今はお勉強の時間になっちゃった。

 リオル兄の余計な一言で、僕の自由時間が消えたよ。

 無念。

 午前中の二時間が勉強に割り振られることになった。

 我が家に家庭教師を雇う余裕はないので、マーサやバートンが空いた時間に見てくれている。とはいってもふたりとも忙しいので、簡単な教本を片手に自習することが多い。


 この世界の算術は算数レベルなので、九九と筆算でなんとかなりそう。

 でも読み書きはちょっと大変。

 幼児の柔軟な頭は、きっと勝手に覚えてくれるはず!

 そう信じてがんばるしかない。

 最近はようやく、文字の多い絵本をひとりで読めるようになった。

 文字はいまだにミミズがのたくっているけどね~。

 あはは~。



 お庭に植えたジャガイモの収穫は、トムや従士に手伝ってもらって、先日終わったよ。初収穫とは思えないくらい、大きなお芋さんがたくさん収穫できた。

 味も甘くてホクホクだった。

 今は土がついたまま冷暗所で保管中。

 数がそんなにないから、無くなる前に僕の倉庫からコッソリ補充しておこうかな?

 

 お庭に植えたほかの野菜も順調に生育中だよ。

 八月に入るころには、毎日余るくらい収穫できている。

 全体的に実が大きめでツヤツヤの輝き。

 まるで宝石のように輝くトマトさんの、なんとおいしいことでしょう!

 キュウリもナスもメッチャおいしかった!


 我が家の食卓に朝採れ夏野菜が上ると、リオル兄はあまりのおいしさに言葉を失っていた。

 家族も家臣たちもその甘さと瑞々しさに驚嘆していたよ。

 無心で食べる彼らを見て、僕はにっこりと笑った。

 そうでしょう、そうでしょう! 

 味わって、たんとお食べなさい!


 数日後に王都から大急ぎで戻ってきた父様も、「おいしい、おいしい」と言って食べてくれた。

 父様がずっと僕たち兄弟の食事を優先して、自分の食事は控えめにしていたことを、僕は知っているよ。

 僕の得たスキルが貧しいラドクリフ家の役に立つのなら、こんなにうれしいことはないよね。

 父様の喜ぶ顔を見て、僕はすごくうれしくなった。


 我が家で食べる以外に、従士たちにもお裾分けして喜ばれたんだ。


 食材が増えて必要量も補えるようになったせいか、栄養バランスも改善されたと思う。今まで結構貧しい食事内容だったから、みんな肌艶がよくなったよ。

 食物繊維やビタミンって大事なんだよね。

 マーサも料理のしがいがあると張り切っていたし。



 メロンの収穫までは、あともう少しだよ。

 そういえば、夏の果実的野菜の代表スイカを、うっかり植え忘れていたね。

 来年は忘れないようにメモしておかなくちゃ。



 夏の暑い日。

 従士たちが剣術の訓練後に、トマトやキュウリで栄養補給しているのを見ちゃった。

 トムもこっそりお馬さんにあげていたね。

 ニヤニヤしちゃう。


 おもしろかったのは、従士たちが雲のクーさんに水をかけてもらっていたんだよね。どうやらシャワーの代わりらしいよ。

 クーさんも喜んで雨を降らせていた。

 ミニ太陽のピッカちゃんは、夜になると玄関照明のアルバイトをしている。

 玄関先が明るくなったと、バートンが喜んでいた。

 クーさんとピッカちゃんも、すっかり我が家の一員として認められたね。


 ピッカちゃんはお日様が頂点のときは、クーさんの上に乗って、消灯して休んでいる。クーさんも夏の日差しが強い日中は、大きな樹の下で居眠りしている。

 僕の世界は今日も平和なのだ。

 


 来客用のお庭はまだほとんど手をつけていない。

 まだまだ、僕の体力が足りないから、今はのんびり植栽とかを考え中。

 僕としては癒やしの庭園を作りたい。

 我が家の顔になる場所なので、急がずゆっくり作っていこうと思う。


 

 植物栽培スキルは順調にレベルアップしているよ。

 今はレベル四になった。

 畑は拡張されて、今は七区画だ。栽培にかかる時間も二十一時間に短縮された。

 主食系の定番である大豆と小麦が栽培できるようになった。

 絶賛、量産中だよ。

 あとはニンジン、キャベツ、大根が追加された。創造魔法で作った五種はすでにレギュラーメンバー入りして、栽培ローテーションに組み込まれている。


 倉庫の容量は一品目ごとに増えるみたい。

 これってほぼ無制限じゃない? いつかカンストするのかな? 

 まだスキルを得て間もないから、焦らずやっていこうね。



 植物以外の加工品として、これまたメルヘンな麻袋工場ができていた。工場の看板は袋のマークだった。職人さんは緑の小人さん。

 ああ、麻袋といっても原料は麻じゃないよ。除草した雑草と植物廃棄物が主原料だよ。前世でも雑草の何かが原料だったはず。

 麻袋は根菜や穀物の収納に使えるから便利だね。収穫物が裸で魔法陣から転がり出てくるのも困るから、大助かりだよ。


 苗用の繊維ポットの工場も常時稼働になっていた。

 そのまま植えても土に分解される優れもの!

 前世にも似たような品があったから、記憶を読み取ってくれたのかな?


 ある日突然、植物油の工場も操業していて驚いた!

 現在は大豆油をちょこっと作っている。主な目的は、搾りカスで油粕あぶらかす肥料を製造すること。

 あとはカルシウムやマグネシウムを補えればいいんだよね?

 マグネシウムってなんだっけ?

 土の小人さんが知っているかな?


 追々、食用油を製造したらいいと思う。

 この世界では植物油ってすごく貴重品で高いから、一般では獣脂が使われているんだよね。

 もともと揚げものなどの油料理はないんだけど。

 植物油が量産できれば食生活が豊かになりそう。健康にもいいしさ。

 あれもこれも栽培したくなっちゃうね!

 我ながら欲深いよね。うふふ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る