第7話 召喚! ピッカちゃん

 一晩寝たら元気を取り戻したよ。

 気持ちを切り替えて、ポジティブに行こう!


 それから数日に分けて、壁沿いの空いた場所に一メーテ幅の畑を所々作っていった。

 我が家は東南の方向に向かって屋敷が建っている。

 門から入ると、正面向かって左手側は家族や使用人の居住棟で、右手側は来客用になる。さすがに来客用の前庭に、野菜は植えられないよね。

 お客さまがびっくりしちゃうよ。めったに来ないけどさ。

 うふふ。


 建物の裏側の軒下は、日陰で西陽しか当たらないんだよね。それをいうと壁沿いも時間によって半日陰になるね。

 う~む。

 問題は日照問題で、あっちの世界にいたときも、日当たりには悩まされたっけ。

 ガーデニングあるあるだよね。


 なので、僕は考えた。

 なければ作ればいいんじゃない?


「というわけで、植物栽培・光魔法、召喚!」

 なぜ召喚なのかはわからない。

 雲のクーさんが出たんだから、ライトが出てもよくない?

 単にそう思っただけ。


 ピッカーッ! って、小さな太陽ができちゃったよ!

 ビバ!!

 命名ピッカちゃんでヨロ。


 キラキラ光るライトの魔法のつもりだったんだけど。

 僕の想像力のせいかな?

 え、幼稚な幼児だから?

 えへへ。

 ちょっとメルヘンな植物栽培魔法は、ショボいけどかわいいよね。

 雲のクーさんとミニ太陽のピッカちゃんコンビの結成だね。

 僕のお友だちが増えたよ!

 どんどん、ぱふぱふ〜。


 日当たりの悪い場所を、明るく照らしてね。



 ひとつ問題が解決したので次に行ってみよう。

 次は植える作物だね。

 ここは僕の植物創造スキルの出番だよ。一度お部屋に戻って実験するしかないよね。


 目標は夏野菜各種。

 地球の日の丸国の、おいしい野菜を再現したい僕。

 この世界の野菜は原種に近くて、品種改良なんてされていないんだよね。

 文明レベルが違うから仕方がないけど。

 全体的に実が小さく食味もよくない。僕の味覚の問題だけど、酸っぱいトマトやイチゴより、甘いほうがよいと思うんだ。

 なので、今日は植物園のジャガイモ栽培はお休みして、創造魔法で野菜の試作をおこなうことにする。


 お部屋の椅子に座って落ち着く。

 まずは、魔法はイメージ。

 目を閉じて日本のトマトを想像する。甘くて大きいツヤツヤなヤツ。

 ジャポン昔話の、主役の名を持つハイスペックなトマトさんよ、来たれ!

 ムムムムム。

 すると魔力がスッと抜ける感じとともに、両手の上にズシリとした重みが加わった。

 そっと目を開けてみると、そこには真っ赤な艶々完熟トマトさんが鎮座していた!


「ヤッターッ! できたー!!」


『スキル植物創造が開放されました。創造した植物を栽培しますか?』


 同時にアナウンスが聞こえた。

 僕は興奮冷めやらないまま、植物栽培スキルさんに質問してみた。

「果実から種を採取して栽培できるかな?」


『可能です。倉庫に収納し、倉庫から畑に移動してください』


 指示どおりに実行すると、畑の一マスにトマトのイラストが表示された。早速緑の小人さんがやってきて、ジョウロで水をまいている。


『大玉トマト 種子採取時間 一時間』

 おぉ、一時間で種子ができるのか。それを苗にすれば明日には植えつけできそうだね。

 この調子でほかの野菜も作ってみよう!


 定番のキュウリとナスは必須だよね。秋冬用にカボチャも植えておきたい。ウリ科ついでにメロンも行っとく? 

 この五種類を追加で創造してみた。

 結構魔力が抜けて、ドッと疲れがやってきちゃった。

 ヤバいかも。

 トマト同様にスキルさんにお願いすると、僕はベッドで休憩することにした。

 まだ幼児なんだもん、無理は禁物だよね。

 横になった途端、一瞬で眠りに落ちちゃったよ。

 超寝つきだね。グウ……。


 お昼になってもグーグー寝ていたので、マーサを心配させたみたい。

 素直に謝って、遅い昼食を食べた。お腹がペコペコになっていたよ。



 魔力も全回復してスッキリしたので、食後はできた種から苗を作製する。

 リアル畑にトマトとキュウリとナスを三マスずつ植えたいので、各十二株もあればよいよね。苗は大きめに育ててと……。 

 植物栽培スキルにオーダーを完了した。

 何げにすごく融通が利くスキルだよね。

 そろそろレベルアップしないかな?



 翌朝目覚めると、野菜の苗が出来上がっていた。

 今日は早速、植えつけをしよう!

 昨日のことがあったせいか、マーサが報告したらしく、ちょっぴりバートンに叱られた。

 リオル兄とトムが、植えつけ作業を手伝ってくれると言ったので、今日もがんばろう。


 畑の前にやってくると、ドドーンと倉庫の魔法陣から苗を放出した。

 茎の太い青々とした立派な苗に、惚れ惚れしちゃうね!

 僕の謎行動をリオル兄が興味津々で眺めていたよ。


「へぇ、トムから聞いていたけど、本当に魔法陣から出てきたね? それって転移の魔法陣みたいなものかな? 転移陣ってすごく高度なレア魔法なんだよ」

 あー、そんなごたいそうなものじゃないと思う。

 知らないけど。


「んとねぇ、『しょくぶつさいばい』スキルの中にソウコがあってね、そこからだしてるのー」

「倉庫?」

「うん! しょくぶつのホカンソウコだよ」

 ごめんね兄ちゃん。幼児のボキャブラリでは詳しく説明はできないよ。

 本人もよくわかってないしね!


 リオル兄は「ふむ」とうなずいた。

「それがハクのスキルなんだね。アイテムボックスみたいなものかな? それにしても結構レアスキルだよね。詳しいことはわからないけれど、だってことはわかったよ。そろそろ始めてもよいころだと思うから、あとで父様に伝えておくね」

 すっごく良い笑顔でリオル兄が言った。


「えっ?」

 

 この世の終わりが来た! 

 いきなり世紀末なの!?


 地味にショックを受けている僕を見かねて(正確には呆れている、かな?)、トムが助け船を出してくれた。

「坊ちゃん方、早く作業を始めやしょう。ハク様どこに植えるか指示してくだせぇ」

 おおぅ、そうだった。今はお勉強のことは忘れよう。


「えーとねぇ、この葉っぱがあおくさいのはトマトです。トマトは前のおにわのノキシタにうえるの」

 キュウリとナスは裏庭の石壁側で、カボチャとメロンは屋敷の北側の軒下に植える。

 あ、日照問題はピッカちゃんが解決してくれるよ!

 お水はクーさんが散水してくれるからお任せあれ。


 なんとか要点を伝えることができて、僕は満足。

 やりきった感がすごい!

 リオル兄の生温かい視線がグサグサと刺さるんですけど……。


 手分けして植えつけること一時間。すべての作業が終わった。

「兄さまもトムも、ありがとう!」

 僕は心から感謝を伝えた。ひとりだったら終わらなかったと思う。

 ほっと気を抜いたそのとき。


『レベルが一上がりました。新しいエリアと植物が開放されました』


 脳内にアナウンスが響いた! イェイ!

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