10 想定外の出会い
日付が変わって、ヒューにはするべきことがやはりなかった。捌くべき肉はすべて昨日の若い肉屋の店主のもとにある。明日の朝に帰りの馬車に乗る予定だったから、今日という日がまるごと空っぽなのだった。ヒューの頭で思いつける時間の潰し方はやはり観光しかなく、それ自体に否定的な思いはなかったが、あらためてその機会を目の前にすると戸惑いが生まれた。
さて観光と決めてもそれは言葉の系統がそこに属しているというだけで、本来ならヒューがこれから行うのは散歩でしかなかった。なにせこの町は観光のための町ではなく、もちろんそのための発展もしていない。これといった名所があるわけもなく、あるのは温もりのある人々の暮らしだけだった。彼にできるのは、へえ、と一時的に思えるようななんとなく気に入った場所を探したり、あるいはカフェでコーヒーを飲みながら休憩することばかりだった。それこそが求めるものだと言い切れるのは何も持たずに何も決めずにふらっと旅行に出られるその道の達人だけだった。もちろんヒューはそんな極まった趣味を持ってはいない。思うままにうろうろして、たまに足を止めるのが関の山だった。
間違いなく退屈だった。しかし我慢の利く退屈ではあった。牢のような場所に閉じ込められてじっとしていなければならないわけではない。その退屈にはすくなくとも彼に選択の自由が与えられている。
あと一時間ほどで昼食のためにレストランが開き始めるころ、ヒューは教会堂を訪れていた。朝からずっと歩くにしろコーヒーを飲むにしろ常に目的を持って行動してきたから、何もない時間が欲しくなったのだ。彼にとって教会堂は何もない場所だ。その場にいるほとんどの人は広義の宗教的な目的があることを考えるとヒューは異物になってしまうが、だからといって排除されるほど宗教的施設の懐は狭くない。
教会堂の大きな扉を開けるとすぐそこにもうひとつ扉があって、二つの扉の間には廊下が横たわっていた。おそらく左右の廊下の先には人間的な施設、食堂や宿泊所があるのだろう。似たような構造の教会堂をヒューは見たことがあった。それにならうなら、きっと正面の扉の向こうにこの教会堂の中心的意味を持つ空間が広がっているはずだった。
講堂のような広い空間には長椅子がいくつも並んで、その前方には明らかに誰かが立てるスペースがあった。そこにある燭台や石細工などはそこに立つ人間の荘厳さを演出しているだろうことが窺われた。左右を見ると狭い間隔で円の柱が立っており、印象としては区切られたその向こうにも別の空間があるようだった。
空からこの部屋のかたちを見たとすると、すこし表現の難しいかたちをしており、それは四角形の部屋の一辺に半円をくっつけたようなものだった。また半円の直径は四角形の一辺よりも短いため、両端に余った辺ができている。余った部分を円の柱で区切っているといったかたちだ。ヒューの身近にある似たものといえばパッドロックだった。
ヒューはそのどれにも興味を抱かずに、ただ長椅子のひとつに腰を掛けた。座って見上げると、さまざまに色づいたガラスが日の光を透かしてきらきらしていた。この神々しさを後ろに置けば誰だって偉く見えそうだった。
周囲は思ったほど静寂に満たされているわけではなかった。懇願するように両手を合わせてぶつぶつつぶやいている人もいたし、単純に小声でささやき合っている人たちもいた。ヒューは視線を上げて考えて、静けさを強要されるよりは声があるほうが健全だという結論を出した。
ヒューにとって自分のなかに空虚を作ってそれを維持するという作業は難しく、そして意外に面白いものだった。水中で捕まえた泡を水面に逃がさないようにするのと似ていた。泡が大きすぎれば手からあふれてしまうし、小さすぎても隙間からするりと抜けていってしまう。そもそもかたちが不安定で簡単に割れてしまう。一人遊びはあまり他人の理解を得られないものだが、ヒューのそれも例外ではなかった。
「ヒュー、おはよう」
「……ヘルツリヒ。おはよう」
突然、隣にあった空白が埋まった。そろそろ真南に近づく太陽の光が色彩に満ちたガラスを通り抜けて白い肌を輝かせた。ヘルツリヒが笑っていた。
おかしいことではないといえばその通りではある。たまたまこちらの町に彼女が訪れていただけのことだ。そして偶然にもヒューのいた教会堂に来た。それで説明はつく。けれどもヒューは驚いた。予想していなかったというよりも、ここにいるかどうかを考えてさえいなかったからだ。
ヒューの驚いた顔のせいか、ヘルツリヒはすこし笑顔を控えめにして立っている。
「なんでここに、って顔だね」
「ああ。言う通りだ。たまたまなんだろうが」
「昨日、馬車が出たでしょう? それ追っかけただけだよ、ちょっと距離とって」
「なんでまたそんなことを」
「言ったじゃん。あの町は何があるわけでもないの。遊びに来ただけだよ」
ヘルツリヒにとっての当たり前が、あるいは少女という年代のそれがわからなかったから、ヒューは反応を取り損ねた。実際的な意味で考えれば、体力的に難しいことはないだろう。しかしその部分とは関係のないところで彼女がここにいることを妙に感じる自分をヒューは見ていた。じゃあどの部分だ、と自身に問いかけて答えが返ってこないことも彼は知っていた。
彼女の姿はこの教会堂にはすこし似合っていなかった。整った顔立ちをしていることには疑いがないが、その背景としてこのロケーションは適切ではないらしい。あの北端の町のほうがずっと彼女を映えて見せた。何がどのように作用しているのかまるでわからないが、広く青い空と短い芝草がヘルツリヒの美質を際立たせるらしかった。
「宿は?」
「私だってこっちに親戚くらいいるよ。そこがダメならここでもいいし」
「まあ、家族に心配はかけないようにな」
「ヒューは意外に常識的なんだね。もっと豪放なのかと勝手に思ってた」
「俺個人の考えだが、猟師は繊細なほうがいい。微細なものが俺たちには大事だ」
常識的であることと豪放であることが対になるかは判断に苦しむところで、それに自己流の解釈を重ねて返したヒューの言葉では対話としてかみ合っているかは微妙なところがあった。しかしどちらも文句は言わなかった。
ヘルツリヒはヒューがそうすることを疑っていないかのように彼が立ちあがるのを待っていた。そしてふたりは何も言わずに教会堂の外へと歩き出した。ヒューは足を止めたくなかった。なにかが淀んでしまうような恐怖に襲われた。歩かないとどろんとしたものが底のほうに溜まってしまうような気がした。それはずっと何もしない。もしかしたら人生が終わっても結局は何もしないかもしれない。しかしその正体不明の何かが自分の中に潜んでいると認めてしまうことが何よりも怖かった。それは後ろ向きな感情。扉の向こうで名札をその胸につけて、ただじっと座っている。
「でも繊細で血に耐えられるの?」
「心の違う部分を使う。血は恐怖の対象じゃないんだ」
「私には難しそう。真っ赤でどろっとしてて、気持ち悪い感じがする」
「それはそれでいい。間違っていない。血が流れるのはろくな場面じゃない」
矛盾はしていないが、あまりまともに聞こえないことを言っているとヒューは自覚していた。無意味に自身を貶めていると取られてもおかしくはない。もちろん彼にそのつもりはないし、彼の中に明確な線引きはある。しかしそれを説明するのは非常に困難だった。逐一説明する気にはなれなかったし、わかりやすく一言で言い切れるものでもない。
ヘルツリヒはヒューの言葉をかみ砕いているようだった。幸い会話を急かすような事情はなかったから存分に時間を使うことができた。彼女は顔を無意識に背けるほど言葉の意味を考えているようだった。
「お肉を食べるのは褒められたことじゃないってこと?」
「違う。あくまで場面の話だ。自分ではない命に敵対することは良いことじゃない。だが肉を食べることはもうその段階を過ぎているんだ」
「よくわからない」
「難しいが、生きていることに善悪はない。根本的な部分だけだが」
ヘルツリヒからの質問は説教臭い返答を招いた。とくに彼女は不満げな顔をしてはいなかったから、そういった真面目なものを含んだ話をしたかったらしいことが窺えた。成長を続ける年代にはある程度は大事なことで、誰かから聞いて自分のなかで処理してみることが必要な種類のことだ。その意味で、よくわからない、という言葉は好ましいものだった。すくなくとも嘘をついてはいない。
考え込む少女を隣に歩きながら、ヒューは静かにしていることしかできなかった。誰かの考え事を邪魔するべきではないし、そこに割り込んでまでできる話を彼は持っていない。この町で初めて耳にした妖精については聞いてみたいと思わないこともないが、それだって優先度は高くない。必然、親子ほどの年齢差に見える彼らはゆっくりと歩いた。
無言で歩くことのむずがゆさが薄れてきたあたりのことだった。
「ねえヒュー。絵は好き? 絵画」
「どうした急に」
「話を変えようかなって。さっきの話、結局わからなかったから」
考えるのを諦めたのか、わからなかったことに拗ねているのか、あるいはまったく違う感情なのか。ヘルツリヒが抱えているのがそれらのうちのどれなのかをヒューは判別できなかった。あまりに波が立っていないところを見るに、どうでもいいと思っているのかもしれない。
しかし視線も顔つきも発声も健康的だった。後ろ向きなものはまるごと箱に詰めて別の部屋に置いてきたみたいな印象を受ける。わずかに生まれていた心配も遠くへと吹っ飛んでしまうような様子だった。
「絵は、俺にはわからない」
「見たことない?」
「見たことはある。でもそれまでだ、何かを言うことはできない」
ヘルツリヒは不思議そうにヒューの顔を覗き込んだ。
「綺麗とか、好きな色とか、そういうのも?」
「好き嫌いまでは言えるかもしれない。ただそこから一歩でも先の評価はダメだ」
「変なの。上手だね、タッチがいいね、とか言えるじゃん」
「俺には物差しがない」
ヒューは両の手のひらを向かい合わせたまま距離を広げた。声色はすこし残念そうで、それは彼が口にした内容が決定的な自覚になっていることを告げていた。もしもヘルツリヒがそれを否定しても聞く耳を持たないだろう。頑固であるとかそういったことを超えて、彼にとってはそれは事実なのだ。空を飛ぶことができない、山を押して動かすことはできない、というように。
ヘルツリヒは余計に眉根を寄せた。どうしてこうまで拒絶に似た否定をするのかがわからない。ヒューの声は残念そうだったが表情は変わらない。すっかりその事実を受け入れているように見える。
「そんなのただの感想でしょう?」
「そうだ。でも俺は人によって違った感想を示すものに自分の考えを出せない」
「……なんでも、たとえば人だってそういうものにあてはまらない? それ」
ここで黙ることは肯定を意味した。違うと言いたかったのにもかかわらず、それができないことを含んだ肯定。ヒューのその主張は自己矛盾そのものですらある。彼がその主張をして許されるためにはずるいことをしなければならなかった。自身だけを例外として取り扱うこと。しかし彼がそれを自ら積極的に認めるかというと難しい話だった。そもそもヒューはその自己矛盾に気付いてさえいないのだ。
落ち着きなく視線をさまよわせる姿は、その性質を表していた。どう言ったものか困ってしまうものがあることを知っていながら、それをどうにかしたいと奮闘してしまうのはいっそ子どもっぽいとも言えた。
「あのね、私は絵が好きでね。ここだと教会にある絵が一番かな」
「どんな絵だ?」
「ただの椅子に座った女の人の絵。肖像画じゃないから視線は外れてる」
「どんなところがいいんだ?」
「綺麗なんだ。絵だからたぶんちょっと美化されてはいると思うんだけどね、それがすごい現実的に綺麗でずっと見てたくなる」
ヘルツリヒは興奮気味に語った。きっと彼女の頭には精確な絵画が再現されているのだろう。しかしヒューには単純そうに聞こえるその図が、まるで浮かばなかった。女性はどれほどの距離から描かれているのか、椅子にどのように座っているのか、顔の向きはどちらか、背景はあるのか、それとも何かの一色の色で塗られているのか。全部が全部わからなかった。共有できているイメージがこれだけゼロに近いと理解できると、それだけさみしくなった。
ヘルツリヒはふんふんと鼻息を荒くしていた。その目にはいろいろ映っていても、認識の段階ではそれほど残っていないだろうことを思わせた。何かに集中しすぎて視界が狭まっているのと近い。そんなにも絵が好きであることはヒューには意外に思えた。
「いつかね、私も描いてもらいたいと思ってるんだ」
「ああ、いいと思う」
その瞬間、ヒューの脳裏にあることがぱっとよぎった。
「ねえ、町に絵を描く人がいるって知ってる?」
ポーシャのことだ。点と点からお互いに糸がするする伸びていって、そうして結びついた。彼女が描きたいと言っていた少女はきっとヘルツリヒであり、ヘルツリヒの言う画家はポーシャだ。二人を引き合わせればどちらもが満足のいく結果で終わる。むしろもっと先に思い出してしかるべきだったのだ。ヘルツリヒに出会った時点でその話はできたし、そうでなくとも絵の話が出たらすぐに切り替えることもできた。
しかしここまで状況が整って、ヒューは、どうしてか。
「ああ。いるっていうのは聞いたことがある」
ポーシャのことを知らないふりをした。
理由は彼自身にもわからなかった。ただ会話という想像よりもスピード感のあるやり取りのなかで、意識をせずにその返答をしていた。いちど口にして言葉のかたちをとってしまうと、訂正は難しかった。ヒューは言葉を終えて自分の発言を疑った。それは無意味に彼女たちの望みを遠ざけるものにしか思えなかったからだ。明日にでも実行できることを、一週間後や一か月後に延ばしただけのことだった。
ヒューは自分に動揺した。なにか原因があるのかと自問したが、その成果は得られなかった。ただ思ってもみないことを言ってしまった、という人間にありがちな失敗とするしかなかった。
「その人が描いてくれたらいいなって思う。おなじ町の人に綺麗に描いてもらえたら最高じゃない?」
「……どんな絵を描くんだろうな」
「上手だよ。他のところから絵を買いに来る人がいるくらいだもの」
ヘルツリヒは若いという形容が許される年代に特有の、自分の好きなものが評価されると自分が褒められているのと錯覚するように気分を上ずらせていた。奇妙な同一視だ。その時期を過ぎると自分と対象を切り離して考えることができるようになる代わりに、対象への偏愛が生まれる土壌ができあがる。まるで正しい評価をできるのはこの世でたったひとりであるとでも言いたげな。
不思議なことに、かすってもいない言葉で苦いかどうかも判定の難しい過去が思い出された。どこに力を入れればそんなものができるのかと言いたくなる目。一方的に違うと言われ、物の見方を押し付けられた。あれ以上に体から力が抜けていく感覚はいまだに味わったことがない。
思い出のせいでわずかなあいだ夢遊状態にあったヒューは、ほんのわずかあって意識を取り戻した。
「わざわざ?」
「いいものはそれくらいされて当たり前だよ」
そうなのかもしれない。ヒューがそう思ったのは知見を持っていなかったからだ。いいものは人が買いに来る。そう置き換えるとすこし理解が進んだ。実生活でも食事に行くことと考えれば当てはめることができそうだった。
「妖精のいる町まで、か」
「何それ?」
「この町の人に聞いたんだ。俺たちの町は外からそう呼ばれてるらしい」
「馬鹿みたい。そんなのいるわけないのに」
「でも言ってることは白い森と大して差はないように聞こえる」
「住んでる人間に見たことある人がいるっていうのと、住んでない人の噂ってふうに分けるとけっこう違いがあるように思うけど」
ヘルツリヒはすこし機嫌を悪くしたようだった。住んでいる町の誤解が勝手に広まっていると知ればそれは素直な反応にも見える。しかしそれはヒューにはもうひとつ先の感情の表出のように見えた。失礼なことを言われた、というような。とはいえ、それは何に対しての感情だろうか。そういう部分が見えないからこそヒューは自身への信頼を失っていく。勝手に疑惑だけを抱いては証明しようともしない自分を。
「そうかもしれない」
「噂なんて無責任なもの。部外者の言うことは無視していいんだよ」
強烈な言葉だった。排除を念頭に置いたそれは、出てくる場面が限られていなければならなかった。ヒューはヘルツリヒとは片手で数えられるほどしか話をしていないが、それでもそれくらいはわかる。
ヘルツリヒはヒューに言葉を挟ませないのに、自分だけ呼吸をひとつ入れるという離れ業を当たり前のようにやってのけてからもう一度口を開いた。
「そういうのなんて、現実に存在しないのに」
「それは違う」
ヘルツリヒと顔を合わせてからきっぱりした部分を失くしたどころか気落ちさえしていたヒューが、刃を下ろすように歯切れよく言葉を落とした。それは断絶の一形態であった。すとん、と音が聞こえた。
「え?」
「いるんだ。妖精に類するものはこの世にいる」
すこし青ざめた顔で、ヒューは断言した。言葉の内容とは裏腹に、むしろ追い詰められて明かしたくなかった秘密を言わされているように。その最後の秘密が決定的な事態の引き金になることを理解していながら、もう抗う術がないことを理解してしまった男の顔のようだった。ほんの一瞬覗くのは、悔恨。
ヘルツリヒはヒューの前に回ってやっとその表情を見ることができた。これまでの彼のそれとはまるで違っている。無骨な思いやりも不器用に受け入れようとする懐の深さも何も感じない。表情は消えている。ある意図のもと生み出された仮面のほうがよほど表情に満ちていた。
「何を言っているの?」
「本当のことだ。前にちょっとあったんだ」
「……ヒュー。あなた何者なの?」
「別にすごい秘密があるわけじゃない。ただの猟師だ」
思い切り顔をしかめて、まるで間違い探しでもするかのようにヘルツリヒはヒューの顔を点検した。そこに何かの証拠を見つけようとする、あるいは願いに近いものが含まれている目だった。
娘が父親の顔を正面から見るために、その前に立って後ろ歩きをしている姿は平和で心温まる光景だった。周囲の人々は例外なく彼らをそのように見ていた。誰もその顔になど注意を払っていない。美しくすらある二人の立ち姿を前に、無意識のうちに確定してしまう情報である表情を見ないようにしていたのかもしれない。そうすればイメージ上の彼らに各自で好きな表情を当てはめることができるのだから。
「もしかして、私のこと嫌い?」
「どうだろう、わからない。いくつも考えなきゃいけないことがある気がする」
「焦って否定したりしないの誠実だね。傷つくけど」
ヘルツリヒは歯を見せて笑っていた。ヒューとの言葉のやり取りの流れとの不一致に彼女が気付いていないわけがなかったが、とくに間違えたそぶりは見せなかった。ヒューから飛び去るように一歩後ろへ跳んで、次の一歩で踏み切ってヘルツリヒはスカートをはためかせて空中で一回転した。その動きに意味はない。ただ跳び上がってヒューから離れた以外の意味は。
大股で三歩の距離を置いて、ヒューとヘルツリヒは向かい合っている。何も起こることはない。二人のあいだにあるのは距離と呼ぶほどでもない距離だけだ。断絶も隔意もない。ただほんのすこし、互いに手を伸ばしても届かない程度に離れているだけでしかない。
どちらも口を開かずにじっと一分のあいだ目を合わせていた。彼らにはそのなかに意味を持たせたのかもしれない。しかし外からは何もわからなかった。一分が経過すると、ヘルツリヒは決められていた時間が来たとでも言うように身を翻した。
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