第19話 墜落
「いたっ」
「ん、傷薬が効いてるってこと、無茶したんだからしょうがない」
くぅ、しみる~。
気球の中で大ババが渡してくれた薬を使いきった。
バックの中身はもうほとんど無くなっている。
ポーションと傷薬は使い切ったので、あとはマナポーションが数本残ってるぐらいだ。
「バーナー吹かして!」
「はい! あ、進路が少しズレてます」
「はいよ!」
来訪者の2人はせわしなく気球を操作している。
高度を上げすぎるとまた外の世界へ行く。
低すぎると乱気流につかまって結界にたたきつけられる。
行きよりも慎重さが要求される。
そのためさっきからピリピリしている。
気球について少しだけ変化がある。
いつの間にかプロペラという風を起こして進む機械と、魚の骨のような部品が追加された。
さっきの説明によると――。
プロペラだけだと中心点から少しでもズレると気球がぐるぐる回転してしまう。
そこで魚のような「流線型?」という形にして風の流れを利用して常に同じ方向を向くようにしている。
ちなみに説明が終わってから「ぶっちゃけ風魔法があるならそれでも代用可能なんだよね」とのこと。
う~ん。
魔法は確かに便利だけど、使い切ると気絶する。
そう考えると移動手段として魔法を使うのは結構リスクがある。
これから戦いに赴くときは使えないし……ヘトヘトな帰りにも使えない……。
そういった使い方ができるのは魔力お化けなルルぐらいだ。
「ん、なに?」
「そうね、魔力どのぐらい残ってる?」
「ん~、6割?」
ちなみに一般人の平均を10とした場合、私は1000ぐらい。
魔法が使える騎士が300ぐらい。
対してルルは10000だ。
つまり私が全力で魔法を使った時の4倍ぐらいすでに使っている。
理不尽だ。
まあそのせいでルルは魔法に頼る戦い方を好んで、模擬戦とかでけっこうボロが出やすい。
「ん、どうしたの?」
「まだまだね。精進せよ」
「ん、旦那様にもよく言われる」
ルルは相変わらずのジト目で、ため息をつきながらぼやく。
父やブラントンにも魔法に頼りすぎと言われている。
「ふふふ」
『キィィィィィン』
強い魔力を感じた。
魔鳥だ。
あの魔鳥が風の出入り口付近まで飛んできた。
「みんか気を付けて!!」
全員が返事を返して、気球につかまる。
『ギイイイイィィィィ!!』
聞いたことのない鳴き声と共に風魔法を放つ。
「なんて魔力!?」
「うわあああ!?」
「きゃああああ!」
とてつもない魔力量なのかかなり遠いはずなのに強風が気球を襲う。
それにより気球が大きく揺れた。
「きゃあ!」
「おっとっと、ベルちゃん大丈夫?」
「はい、工じょ――コージさん」
体勢を崩したベルタをコージが支える。
そして私はというと――。
「シルヴィーも大丈夫?」
「だ、大丈夫なので離れなさい」
ルルが抱き寄せてきた。
顔が近い、顔が近い。
と、とにかく、あの魔鳥は?
「ん、もういない」
こちらを追うつもりも追撃するつもりもない。
ただの嫌がらせ?
「ふぅ、助かりましたね」
「ベルちゃんそれ死亡フラグ……」
「ふぇ!?」
ベルタがきょとんとすると同時に「ビリッ」という破けるような音が鳴る。
「あ……穴が開いた……」
「ちょっと、高度が下がってますよ!?」
「ベルちゃん穴ふさぐ奴、ふさぐ奴!」
「ちょっと待ってください。アレでもない……コレでもない……」
パニックになっているのか収納魔法からいろんな物を取り出す。
ナベ。
やかん。
それからハンマー!?
とにかく次々に出して気球が重くなった。
「ああストップ! 重量オーバー! 重量オーバー!!」
「ふあああ振動があああ!?」
今度は気球が乱気流につかまった。
布がどんどん裂け、骨組みがバラバラになる。
落ちる。
落ちる。
結界はすぐそこ。
死。
「ルル!」
「……全力」
ルルの魔力が一気に高まった。
「みんな掴まって!!」
「いったい何を――」
「……
「うわあああああああああ!!?」
「ひゃああああああああああ!?」
ルルが風魔法を一気に放出する。
一転、弧を描いて上へ上へと上昇する。
「飛んでる。飛んでるぞ!」
「なんて力なの!? 魔法だけで空を飛ぶってえええええ!」
「ルルルルルルぅぅぅ、あと少しいいいいいいいいいいい!」
「うぐぐぐぐぐぐぐぐ…………」
地面は……まだ白い。
まだ白。
まだ。
!?
一気に緑になる。
結界を通り越した。
「ルル! 帰ってきた!!」
「う……」
ルルの魔力が尽きる。
今度は地面へと一気に落ちる。
「ふおおおおお」
「あばばばばば」
私はマナポーションを飲み、魔力を回復させた。
「ごく……」
そして残りをルルに渡す。
ルルは蓋を口で開けて。
飲み干す。
「ごくごく……」
そして私たち2人で風魔法を地面に放つ。
「
「
風魔法の衝撃波はすさまじく、全員カゴから放り出された。
「うぐ……」
「どわっ!?」
「きゃ!」
全員がカゴから放り出された。
いや、来訪者2人は一緒だ。
「……いたた。ベルちゃんだいじょぶ?」
「おかげさまで……だいじょぶです……」
「背中痛い……もう爆発は無いと思ったのに……」
「わたし……次からヘルメットします……」
「安全……」「……第一」
ぐったりしてるけど大丈夫そうね。
ルルはどこに?
「いた……ルル!!」
ルルは魔力を使い果たして倒れている。
心臓は――鼓動は大丈夫。
息は――している。
けれど意識がなかった。
――――――――――
なんとか村まで戻ってきた。
ベルタのゴーレムたちのおかげだ。
あれからまだルルの意識が戻らない。
私は村に置いてきたササラになんて言い訳しようか考えたが。
「ずぴ~~~、ずぴ~~~~」
「え、まさか今日一日中寝てたの?」
ササラは熟睡していた。
ほっぺをつまむ。
「ずぴ~、むひゃひゃひゃひゃ~」
ササラは熟睡しているようだ。
「これ、シルヴィアの嬢ちゃん。その子は昼まで高熱をだして、やっと熱が下がったとろこじゃ。無理をさせちゃいかんよ」
「なんですって!?」
大ババが付きっきりで看病してくれていた。
「解熱の薬を飲ませた。このまま寝かせれば明日にゃ目が覚めるじゃろ」
「そう、それはよかった」
大ババに言われて、ベッドをもう一つ用意する。
その後、ベルタとコージがルルを担架で運んできた。
そして寝かせる。
大ババが竜を象った香炉を持ってきた。
「あとはこの香薬を焚けばよい」
「それは?」
「ドラゴンの内臓から採れる竜涎香じゃ。少量を焚いて煙の匂いを嗅ぐと、たちどころに疲労感が抜けて元気になるぞぃ」
ルルを寝かせ、お香が部屋に満ちる。
「それでは私たちは退室しますね」
「コージさん、ベルタさん、ありがとうございます」
「別にいいってことよ」
「そうですね。私たちの方が命を救われましたし」
「私はもう少しここで2人の看病をします」
「わかりました」
2人は宿屋へと戻っていく。
すると今までの疲労が一気に来たのか、あるいはお香の効果なのか、まぶたが鉛のように重くなる。
そして、意識が……すっと…………。
――――――――――
「シルヴィー! シルヴィー!!」
「ん、なあにぃ? ササラ?」
「いきなり寝ないで!」
「なんでメイド服なの?」
「なんでって、もう1年もメイドやってるんだけど!」
1年?
よく見るととても幼くなってる。
違う。
外を見るとお祭りだ。
ああ、思いだした。
あのバカ王子の誕生日ね。
「これから……誕生日会?」
「ちがう~帰るの~。あのバカ王子が……ぐす……ワンちゃんを…………戻りたくな~~い!」
ササラがめちゃ泣いてる。
そうだった。
あのくそ誕生日会のとちゅうで、さっさと馬車にのったんだ。
おとーさまになんていいわけしよう。
は~~ゆううつってこういうのね。
なにもしらないお外はたのしそー。
たのしそう?
そうだ!
「ササラ、ちょっとお祭りにいこ!」
「ええ!? ちょっとまってよーー!!」
「ぜったい、ぜったいお城よりたのしいよ!」
「ああ、まってーー!!」
あの日、幼かった私はお祭り騒ぎの城下町に繰り出した。
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