第13話 奇妙な2人組?
最果ての村の薬屋の外。
私とササラは壁際に座り込んで空を眺めている。
とりあえず大ババが何か思い出すまですることがない。
「シルヴィア様、これからどうしますか?」
「そうね。森に自生してるかもしれないから、ちょっとそこまでマンドラゴラを探してみようかしら」
「お使い感覚で伝説の植物を探さないでくれます――いえ、そっちじゃなく仮面王が亡くなったら、あるいは何も無しで王都に帰ったらすぐに結婚じゃないですか」
「う、嫌なことを思い出させるわね」
このままずるずるとしてたら、あの王子と結婚することになる。
そうなると後宮で実質的な人質生活だ。
「あ~なんか婚約解消するきっかけになるようなことが、空から落ちてこないかしら」
「そんな偶然あるわけないじゃないですか」
「マンドラゴラを飲み込んだ鳥は落ちてきたんだから、別にありえないことでもないと思うのよね」
「もうそれで奇跡を使い果たしてますよ~」
「じゃあササラの幸運も全部使っちゃお~」
「ひどっ!?」
「えい、ラッキードレイ~ン」
「いや~幸運が吸い取られる~」
「ホホホ、さあお前の幸運をよこすのだ」
屋敷などでこうやってじゃれ合うとメイド長や教育係が飛んでくる。
そして令嬢とはどう振舞うべきか、メイドとは何たるか、などなどいい聞かされる。
だから3人でよく、屋敷を抜け出したり、学園の人の少ないところを探検したりした。
ササラがワガママを言うのも、ルルがシルヴィーと愛称で呼ぶのも、他に人がいない時だけだ。
後宮に入ったら今まで以上に人の目があるので、もうこんなこともできないのだろう。
『そうじゃ、思い出した!』
大ババの声が外まで響いた。
あら、本当に幸運が上がったのかしら?
ササラと一緒にお店に戻った。
「おばあちゃん、思い出した~」
「それでどうなんでしょうか?」
「おおっ、そうじゃ。ほれ、避難民がきたじゃろ」
「竜災難民のことだね……」と猟師が言う。
「んにゃ、それに紛れて奇妙な2人組が村に入ってきてのぉ」
「奇妙な2人……?」
「ああ、あの2人のことか!」
猟師も思い出したようだ。
「どういう人たちなのでしょうか?」
猟師のおじさんが腕を組んで、真顔で答える。
「ばあちゃんの言うように奇妙と言えば奇妙だった。
とにかく変な感じだった。
何が変かというとまず服装、そう服装だ。
見たことのない生地に見たことのない装備。
あれは何か……住む世界が違うところから来たんじゃないかってぐらい変わっていた。
と、言ってもこの辺にゃ没落貴族なんかも来る。
見た目で拒絶するっていうのはあんまりねぇ。
それに悪いやつらじゃないと思うんだ。
俺が獲ってきた肉を焼いて肉料理を出した。
そしたらよ、あいつら、泣いて喜んだんだぜ。
比喩なんかじゃない。
本当に泣いたんだ。
涙を流しながら飯を、料理を食べたんだ。
そして、へへ、美味しいって言ってくれたんだぜ。
まあ何が言いたいかというと、とにかく奇妙な2人だったってことだ」
「ただ飯を喜んで食べた人じゃないですかっ!」
「変な格好と変な言動と料理を美味しいと言っただけでは結界と関係ないのでは?」
「んにゃ、その日のうちに来たんじゃよ。あたしの店にね」
全員が大ババの方をむき話を聞く。
「店に入ってはっきりこう言った。
なにかあったんですか、とな。
あ奴らはドラゴンが襲ってきたことをまるで知らんという顔じゃった。
しかも次に聞いてきたことが変じゃった。
この国の名前は何か?
貴金属の換金はできるか?
村の名前は何か?
領主はいるか?
冒険者ギルドとかあるか?
訳が分からんかったから、若いのに聞けと言ってやったわい」
「ばあちゃん……なんで忘れてたんだよ」
「ちゃんと思い出したじゃろ。年寄りだからって」
「物忘れ多いんだから、店番は誰か若いのに頼んでくれよ」
「ふん、あたしゃ旦那以外と店をやるつもりはないよ。まったくいつ帰ってくるんじゃ」
「ばあちゃん、じいちゃんは数年前に亡くなっただろ」
「んにゃ……なんか言ったかい?」
「すぐこれだよ」
「まあ、思い出していただいただけありがたいです。それに確かに奇妙ですね」
名前のない村の名前を聞く。
王領で領主について聞く。
物々交換が主流の辺境で換金について聞く。
どれもこの国に住んでいればまず聞かない話だ。
「シルヴィア様……これって」
「ええ、にわかには信じがたいですが」
もし結界を越える方法があり、その道を鳥と共に越えてきたのなら辻褄があう。
どこかに「結界を通れる道」がある。
「その2人組なら近くの宿屋に泊まってるはずだ。見た目は……見ればすぐにわかる」
私たちが薬屋を出るとき、大ババに一つ忠告された。
「お主はマンドラゴラを探しているようじゃが、それでできる霊薬。エリキシルでも王の病は治せぬぞ。あれはそういう類のものではない。使っても辛うじて寿命を数年のばせる程度じゃ」
「何か知ってるのですか?」
「いいや、王宮の裏など何も知らんよ。ひぃひぃひぃ」
大ババは何か知ってるのだろうか?
それともこの辺境だから見えることがあるのか。
あるいは長年の経験から答えたのかも。
私はこれ以上何も聞かず、一礼して店を後にする。
「それでどうするのですか?」
「とりあえずルルと合流よ。ササラとルルの2人ならどんな人とも打ち解けられるでしょう」
あいにく私は2人ほど可愛げがない。
どちらかというと近づきがたい貴族令嬢になる。
「今は身分を偽って接触している時間がないので、最初から公爵令嬢として会います。相手が萎縮しないように2人にフォローしてもらうわ」
「わかりました!」
さて、精神を研ぎ澄ませ集中して、ルルの魔力を探る。
見つけた。
「あの建物の中にいるみたい」
「食事処ですね。まったくササラお姉ちゃんを連れずに一人で食事ですかっ」
「ルルは村の怪しい人や脅威となる人をチェックして回っていたので、たぶんこの村で最も怪しい人をマークしてるんでしょう」
「あ、なるほど~。やっぱルル君は優秀だね~」
「さあ、何があるかわからないから気を引き締めて」
「はい」
私たちは食事処へと入った。
客はまばら。
その中にルルもいた。
声をかけようとしたとき。
「うんまぁっ!!」
「よかったです。ほんと……生きててよかった……ぐす」
テンションのおかしな2人組と相席しているようだ。
「いやー、ルルさんのお勧めメニューは美味い!」
「ほんとに、どれがどういう料理かわからなくて困っていたんです。ありがとうございます」
「ん……この肉料理、おいしい」
そう、あえて一言で言うなら。
ウチの専属執事が奇妙な2人組とすでに打ち解けていた。
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