第9話 問答
強盗騎士との決闘が終わった。
私は決闘後の事後手続きに忙殺された。
あの男の部下たちが暴れるのかと思ったが、大人しく捕まった。
決闘の流儀を守っているあたり、その辺の山賊とは本質的に違うのだろう。
ともかく弟が領主になる前に領地内のゴタゴタは一息ついたので、今は――。
「ふぅ~~気持ちい~~」
お風呂に入っている。
お風呂で体を温めながら、次について考えた。
強盗騎士と手下たちは大人しく捕まった。
そして決闘の取り決めによりダンディの身柄は王宮へ、彼の財産は没収することになった。
手下はとりあえずこう留しているが、どうするか決まっていない。
山賊風の見た目でも決闘が合法である限り彼らに罪はない。
あっても勝手に領地に侵入したことぐらいだ。
なので本来の領主と連絡が取れたら引き渡すのが妥当だろう。
あの強盗騎士ダンディは屋敷の客室に泊まっている。
もちろん監視付きだ。
アレでも騎士爵なので手荒な真似はできない。
ブクブク、ブクブク。
クロードは徴税官を辞めることになった。
あまりにも弱いのでうちの騎士たちの訓練に参加させることになった。
強盗騎士たちは弱い相手を狙ってくる。
だから領地内で狙われそうな人を強くするしかない。
現状だとそれ以外の対策がない――ほんと厄介。
はぁ。
ちょっとのぼせそう。
お風呂をでて、自室に戻る。
ササラが風魔法を使って私の髪を乾かす。
「ねえササラ、どうすれば強盗騎士たちを止められると思う?」
「え、私に聞くんですか?」
「いいでしょ、他の人の意見を参考にしておきたいの」
「そうですね。ま~決闘は博打みたいなものなので、なんで襲ってきたのか聞いてみたらどうでしょうか」
確かに襲ってくる理由を知れば、何かしら手を打てるかもしれない。
「そうね。とりあえず明日にでもあの男に聞いてみるのもいいかもね」
頭の中でいろいろ考えていた時、「コンコン」とノックがした。
ササラがドアを開けるとルルが部屋に入ってきた。
「ん、シルヴィー。王都から連絡がきた」
「お父さまから?」
私は手紙を受け取って内容を確認する。
なになに……うげ。
「どうしました?」とササラが聞いてきた。
「……王が会いたいそうよ」
そういって手紙をササラに渡す。
「え~っと、竜退治の恩賞に、懇談会、それから……王族との昼食会……あ、王子と会うんですね」
「はぁ~ほんと最悪」
明日、王都へ行くことになった。
――翌日。
出発前に強盗騎士ダンディと会った。
甲冑を脱いだ彼は白髪の50代の男だった。
すでに騎士としては引退している年齢だ。
「なんじゃい負けた吾輩に何用か?」
「ちょっと聞きたいことがあるの」
単刀直入に、なぜ強盗を働いたのか、どうしてイシルメギナを狙ったのかを聞いた。
少し沈黙してから、彼は顎髭をさすり「年寄りの話は長いぞ」と答えた。
私は、構わないと返した。
「むかし、あれは吾輩がまだ辺境伯の騎士だった頃になる。
ドラゴンほどではないがとても強い魔物に襲われたのが運の尽き――左腕はその時に失ったものよ。
それでも辛うじて命を繋いで、生還することができた。
じゃが当時の辺境伯は腕をなくした吾輩を雇い続ける気がなかった。
名誉の負傷のため騎士爵のままだったが、領地に吾輩の居場所はなくなった」
その時の彼の顔は少し悲しげだった。
「それでおじいちゃんはその後どうしたんですか?」
ササラがすでに昔話を聞きたい孫娘モードになっている。
普段屋敷の中で生活しているので、別の土地に興味があるのだろう。
まあ、私も興味津々ですが。
「あれは怪我が治って、動けるようになったころになるかの。
吾輩は遠くに見える結界を眺めていた。
魔物と警戒して監視するのではなく、ただぼんやりと眺めておった。
あの結界の外から魔物が侵入してくる。
そう思った時、ふと結界の外を見てみたくなった。
この腕を奪った魔物たちの世界というのに興味が湧いたのだ。
そこで国中の結界壁を見て回り、どうにか外に出る方法がないか探し回った」
「結界の外!? ひょえぇぇ~なんと恐ろしや!!」
ササラが驚いて変なポーズをとる。
この国では、結界の外は地獄よりも恐ろしい所、とされている。
だから外へ行こうとする者や外周部に住む人に少なからず悪感情がある。
「それで外には出れたんですか?」
「いいや、行けなんだわい。
1年ほど外周部をぐるりと彷徨ったが手掛かりがなかった。
次に国中の領地で外の世界を研究している者を探したが……」
「探したが……ごく」
「誰も知らなかったわい」
「ほっ、なんだ~よかった~。わたしおばあちゃんに結界の外へ出たら魔物に姿が変わるって教わったから、そんな簡単に外へ出れたら怖いですよ~」
ササラがいうのは、魔法の力で外へ出た人が神の呪いで魔物に変わり国へ戻ったら討伐された、というよくあるおとぎ話のことだ。
「それで騎士である貴方がどうして強盗団を率いたのですか?」
「なに、あ奴らは吾輩が外へ出る方法を探すのをあきらめたときにたまたま訪れた集落の住民どもよ。
そこの領主があまりにも重税を課しており、見てられなかったから決闘で領地を奪ってやったのが縁になる」
「うわ~」
「世紀末ね」
「その後は村の用心棒をしておったじゃが、その悪徳領主のところでお家騒動が起きての。
その影響で村はどんどん貧しくなってしまい困り果ててな。
吾輩は見ての通り戦い以外はからっきしなので、仕方なく決闘ですべてを解決していたまでよ」
「それなら他の貴族に要請するとか、王宮に直訴するとか……」
「言ったはずだ。吾輩はあの村を武でもって奪った身。
お主ら貴族たちの援助なんぞ期待できぬ。
さらに言えば現王は病弱でまともに政務ができず、次期王は無能と聞く。
いったい誰に助けを求め、何を信じろというのだ」
「……それは」
その答えを私はまだ持っていなかった。
「イシルメギナの姫よ。
吾輩は自らの正義に従って行動したまで、その結果に責任が伴うことは承知している。
じゃが吾輩に何もわからず付いてきたあ奴らは単なる平民でしかない。
見た目は少々あれじゃが、こんな吾輩を受け入れてくれた者たちじゃ。
すまんが、ちぃっとばかし面倒を見てくれぬか」
「そのぐらいならいいでしょう。家名にかけて少しの間ですが彼らを支援しましょう」
話は大まかにわかり、面会は終わった。
ほどなくして彼は輸送用の馬車に乗り込んだ。
私も王都に用があるので、別の馬車に乗ろうとしたとき――。
「ん、これから大変だね」
「そうね。これから――なんで?」
ルルが言ったことに何かひっかっかった気がする。
「ん、だって決闘で得たのはあの男の財産全部」
「それがどうかした…………はっ!」
『決闘で領地を奪ってやったわい』
「ねえルル。もしかして今回の決闘で賭けていた物って」
「ん、こっちの年貢全部とあっちの全財産。だから彼らが拠点にしてた領地の所有者はシルヴィーになったよ」
「た、戦ったのはルルよね?」
「ん、主が見てる前でバトラーとして戦ったから代理戦……だよ」
…………。
「ねえササラ、イシルメギナの土地で暴れる強盗騎士って、存在すると思う?」
「まっさかぁ。イシルメギナにケンカ売るなんてよっぽどのバカかあるいは……ああ~」
「ちなみに彼の領地はどこなの?」
「ん、ウィートランドに隣接する森の奥って昨日教えてもらった」
ああ、嵌められた。
あのおじいさん、最初からイシルメギナに土地を押し付けるために決闘をしていた。
しかも王宮が機能していないから残りの人生を牢獄で暮らすことを覚悟のうえで。
「ああ、もう! さっきの昔話も最初から同情を誘うつもりで長々と話していたのね!」
「ああ~あそこまで聞いちゃうと、なんか助けたくなっちゃいますよね~」
「ルル! ゴロツキ風の平民たちを解放して村の状態を調査して、それからバトラー・ブラントンと一緒に領地編入の手続きをしてちょうだい」
「ん、わかった」
こうして竜災前から行っていた領地視察は領地を得るという結果に終わった。
なんで?
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