第7話 強盗騎士

 ――村役場、ある一室。


「ネタは上がっているんだ。さっさと吐かぬか!!」


「ひぃっ!!」


 私たちは徴税官クロードを捕らえて、まずは話を聞くことにした。


 私が率先して聞こうとしたらササラに、「いや美女の尋問なんてご褒美でしょ」とツッコミを入れられた。


 そこで強面の騎士たちが代わりに尋問をしている。


 まだ時間がかかりそうだ。




 ルルが戻って来た。


 彼は一人で村の周辺に脅威がないか調べていた。


 そして何かあったようだ。


「ん……ちょっといい」


「どうしたの?」


「ん、村人じゃない怪しい連中を捕まえた」


「わかりました。ササラついてきなさい」


「はい、わかりました」


 私たち3人は村はずれの納屋へと行く。


「……これは」


「うわ~見るからにゴロツキって感じですね」


 そこにゴロツキたち数名が簀巻きにされていた。


「もごもごっ!?」

「ん~~!!」


「ん……あと怪しかったから村長も捕まえた」


「ん~~ん~~!!」


「え、なんで!?」


「……ついで? 話聞こうとしたら逃げ出したから、仕方なく」


 私たちが来てから村はずれで、村長と身なりの悪いゴロツキが密会していた。


 問い詰めようと近づいたら逃げ出したから全員捕らえた。


 連絡役かなにかかしら?


「そう、とりあえず騎士たちを連れてきて、全員取り調べましょう。ササラっ」


「おっ任せを!」


 ササラが騎士たちを連れてきて、全員尋問を開始した。


 ほどなくして村長が事の真相を話し始めた。



 


 まず山賊たちが村を襲撃して、徴税官含め村人全員を捕まえた。


 そして納めるための年貢を半ば強引に奪っていった。


「それなら領主に討伐を頼めばよかったでしょう」


「それが彼らはただの山賊じゃなく――」


 村長は少し間をおいてから言った。


「強盗騎士だったのです!」


「強盗騎士ですって!?」


「奪う側が貴族となると一体誰に助けを求めればいいのやら」



 これは、厄介ね。



「なんですか強盗騎士って? 騎士の格好した山賊ですか?」


「うーんちょっと違うのよ。山賊っていうのは村々や行商人を集団で襲うじゃない」


「そうですね。」


「ところが強盗騎士は騎士爵の爵位持ちで、行商人を襲うのよ」


「えっと……それって貴族が山賊やってるってことですか?」


「まあ、わかりやすく言うと、そういうことよ」


「ヤバいですね」

「ん、ヤバいね」


「さらに厄介なのが彼らの強盗行為がほぼ合法なの」


「えっ!?」とササラが驚いた顔になる。


「彼らは決闘制度を悪用して生計を立てているってこと。つまり決闘という貴族特権で互いの財産をかけて勝負を挑む。それに勝ちさえすれば罪を問われないってこと」


 村長が話したため、徴税官も観念したのか自らが決闘に敗北したことを認めた。


「はい、その通りです。やつら突然現れて決闘を強制され、やむを得ず戦ったのですが……負けてしまいました」


 クロードが悔しそうに言う。


「なんと決闘に負けたのであるか」

「ぬぬぬ、それならば仕方なく御座いましょう」

「うむ、潔く負けを認めるのもまた男也おとこなり


 こちらの騎士たちも決闘ならしょうがないという。


「はい……それで護衛の騎士たちも全員負けてしまい……さらに身代金の要求もしてきて……」


「それだけじゃありませんのじゃ。決闘について口外しないことも求められたのですじゃ」


「なんと勝敗を秘匿するとは騎士道にたがいし行為よ!」

「そうだ! そうだ!」


「ちょっと黙りなさい」


「……はい姫さま」


「それで被害にあった村々すべてと結託して、帳簿の改ざんをして身代金と上納金を支払い、泣く泣く問題が発覚しないようにしていたと」



 こちらの騎士たちが小声で、「決闘の取り決めなら仕方ないな」、「そうだなそうだな」と言って納得する。



 先ほどの言動から分かるように騎士たちは決闘を神聖視している。


 例え税金を奪われても、勝てるぐらい強い騎士を同行させなかった領主が悪い、というのが彼らの考えだ。


「相手が強かったのです。あの片手が鉄腕の男。彼は剣技だけでなく魔法も使い――こっちは手も足も出ませんでした」



「鉄の腕? 隻腕ということかしら」



「姫さま、もしかしたらそ奴らは負傷兵崩れの一団かもしれませぬ」

「国を守りし勇士たち、国を脅かす魔物を討伐する時に負った名誉の負傷!」

「されど平和が訪れればただ飯ぐらいの役立たず……ついには飯も食えぬ価格高騰……」

「なればボロボロの体に鞭打って、その腕っぷしで仲間たちを養う覚悟完了っ!」

「ぶわっ、あんまりじゃ、あんまりじゃ御座いませんか。ここは一つ我らで救ってあげましょうぞ!」



 強面の騎士たちが涙を流しながら「姫さまっ!」と連呼する。


 並みの貴族なら騎士たちの凄みに押されるだろう。


 だけど私は世界一怖い父のおかげでそういうのに耐性が付いている。


 だから。


「頭を冷やしなさいこの熱血漢! 氷結領土アイス・テリトリー!!」



「ぎゃあっ!?」

「さぶっ!?」



「まったく相手の背景を勝手に捏造しないでちょうだい」


「す、すみませんでした姫さま」


 大抵の騎士たちはだいたいこんな感じになる。


 彼らはどうも情に厚く、涙もろい。


 それでいて最も数が多いのが騎士爵になる。


 自分が正しいと思ったらまず行動する。


 正しくないと言われたら決闘に勝利して正しさを証明する。


 戦いでは大いに活躍するが、話が進まなくなる。



 そこで騎士たちには外の警護を任せて、尋問を続けることにした。






「――それで話の続きですが、この件について王宮に訴えれば決闘の権利をはく奪して事態の収拾がきるでしょうけど……」


「それならさっさと王様に訴えましょう!」


 ササラの顔に、早く帰って寝たい、と書いてある。


 訴えられればいいのよね。


「でもそれってあの王子に了承してもらわなきゃいけないの」


 …………。


 ササラがポカンとした顔になる。


「……無秩序ってまだマシだったんですね」


 この決闘制度の悪用は言ってしまえば騎士たちの強盗を法的に認めているようなものだ。


「たしかに無法だったら山賊は倒せば終わりなのよね」


 ササラが言うように決闘制度に関しては無法のほうがまだマシだと言える。



 無法がマシ……世も末ね。



「だけど私たちの国がかろうじて平和なのも法のおかげよ。無法だと力のある大貴族は無事でも民に多大な犠牲がでてしまう」


 イシルメギナほどの大貴族が法を軽視すると問題になる。


 さて、どうしたものか。


 こちらの税収を奪ったのだから大々的な討伐を宣言して動くことができる。


 でも隣の領地やイシルメギナと仲の悪い領地に逃げられたら手が出せない。


 他の領地まで行くには、やはり王子の許可がいるからだ。


 対策として騎士たちに村々の護衛を頼む方法もある。


 しかし決闘に負ければ状況が覆る――そもそも護衛の騎士を倒して身代金を要求しているのだから、腕利きにとって稼ぎが増えるだけだ。


 強盗騎士対策としてより強い騎士を護衛に出したところで、弱そうなところを見定めて決闘を挑めば無効化できる。


 対策と対策カウンター、どうしてもイタチごっこになる。




 私があーでもない、こうでもないと唸っていると――


「ん、任せて」


 ――とルルが言う。



「何か策があるの?」


「ん、徴税官のふりして決闘を挑む」


 なるほど。


 特権に守られた貴族でも決闘で倒せばこちらの言い分が通る。


 私は貴族だけど、私に決闘を挑む人がいないので、そもそも決闘をしたことがない。


 その発想がなかった。


 たしかに決闘制度を使って逆に強盗騎士を捕らえることができる。


「危険です! 相手は決闘を挑むだけあって、かなりの手練れです!」


 クロードがそういう。


「ふふ、大丈夫よ。だってルルはこう見えて強いから」












 私たちの作戦はこうだ。


 まず偽の伝令を送り、新しい徴税官ロロという架空の徴税官が就任した、と連絡する。


 そして徴税官の服を着たルルが各村々で税の徴収をする。


 強盗騎士たちが新しい獲物だと思って襲ってきたところを一網打尽にする。


 つまりおとり捜査によって相手をつり出す。


 寺領内なら多少無茶をしても、父に怒られるだけで問題ない。


「結局、この3人になるのね」


「そりゃあそうですよ」

 

「ん、連携とりやすい」


 ルルが徴税官、私とササラは護衛に変装した。


 ガタイのいい騎士たちは目立つので、強盗団を誘い出すためにも、いったん帰らせた。


 最後まで護衛でついていくと言っていたが、「わたしより強い騎士だけ同行を許す」と言ったら諦めてくれた。


 若干1名が勝ったらデートしてくださいと挑んできたのでぶっ飛ばした。


 倒されたのに嬉しそうな顔をしていて……ちょっとキモかった。


 とにもかくにも強盗おびき出し作戦の開始である。


「おうおう村長を呼んで来い、徴税官さまが、わざわざ出向いたんだぞ!」


「は、はいっ、ただいま参りますっ!!」


「この新しく赴任したロロさまが、そんなしょぼい税で満足すると思ってんのかぁ? ちょっとぴょんぴょんしろや」


 ササラはさきほどから裏町でよくあるカツアゲの真似をしている。


 しかし小柄でほんわかカワイイ系の顔で高圧的なことを言っても――べつに怖くない。


 この村の村長も孫を見るようにほっこりしている。


「ちょっとシルヴィアさま。ちゃんと役に徹してくださいよ……」


 ササラが小声でチンピラの真似をするように言ってきた。


「こほん……あ~年貢をださなければ、貴公の首を木につるすぞー」


「う~ん、ちょっと違うんですよねぇ。それだと未開の地の文明国の指導者みたいな、そんな野蛮味を感じますね~。やり直しです」


 なんでメイドにダメ出しをされないといけないの。


 しかも村長も妙に納得して、うんうんって言ってるし。


「ちょっと村長さん……ボケっとしてないで早く用意しなさい!」


「今すぐに!」


「ん、三分間だけ待ってやる!」


 ルルもいつもの調子で話すから、どこか滑稽な徴税官一行になっている。


 まあ、強そうには見えないから、強盗にとってはいい獲物になる……のかな?


 ちょっと不安になってきた。




「あ、シルヴィアさま。なんか馬に乗った騎士がこちらに来ますよ」


 ササラのその一言で一気に警戒レベルが上がる。


 騎士だけじゃない。


 周囲の森からゴロツキたちも出てきた。


 馬1、歩30前後と言ったところか。


 そして私たちは瞬く間に取り囲まれた。



 馬に乗った騎士が前に出て叫ぶ。


「そこまでだ! 悪逆非道な徴税官よ!」


 戻ってきた村長が「うわっでた!!」と叫んだ。


 彼らが強盗騎士とその一味で間違いないようだ。


「貴様がこの近隣で私腹を肥やしているのは調べがついている。貴族なら正々堂々と決闘を受け、正義の裁きを受けるがいい!」


 騎士は馬から降り立ち、重い鎧がズシリと響く。


 左手の義手、幾度も打ち直した重厚な鎧。


 その身のこなしからら歴戦の猛者だとわかる。



「我が名はダンディ。正義の騎士『鉄腕ダンディ』とは俺のことよ!!」



 強盗騎士の登場だ。

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