第一話
こうして俺は五人の美少女を手に入れた。
アイドル『姫華 なぎさ』。
新体操部エース『水島 恋』。
図書委員長『藤堂 風香』。
生徒会長『山城 琴』
そして『雨川 汐音』。
彼女達全員を抱いた日。
極上の美少女達を手に入れたという達成感が脳髄の奥までを震わせた。
そして目覚めると催眠の力は消えていた。
まるでそれが代償だとでもいうように。
『くっくっく』
所詮は運命の気まぐれで与えられた力だ。
その力で俺は彼女達を手に入れた。
良いじゃないか。
素晴らしいじゃないか。
『俺は手に入れたぞ』
虚空へ語り掛ける。
俺を捨てた者共に届きはしないだろうが、良い。
俺は自由だ。
催眠が無くても。
これ以上の幸せはないだろう。
* * *
転校初日は何事もなく終わった。
絡んで来たギャルは適当におちょくって、今は放課後の教室で一人、『考える人』を続けているだろう。
「さて」
ジャージ姿に着替えて、柔軟体操も終わった。
リュックを背負い、ストップウオッチを左手に持ち、目の前に流れる川を睨む。
「ヒュプノ、スタート」
川に向けて走る。
小石を蹴って跳躍、そして流れる水の上に着地。
上流を目指して全力で走る。
俺の足は百mを十秒三〇で駆ける事ができる。
田園の景色もすぐに鬱蒼とした森へ姿を変え、川の傾斜は急となり流れの中に多くの岩が姿を見せるようになる。
「ハッ、ハッ、ハッ」
水流を蹴り、岩を蹴り、上流を目指す。
森の匂いがする空気を貪りながら、ただ先を目指す。
轟音が聞こえて来る。
向かい来る水気の量が増える。
もう視界の中にその姿が見える。
滝だ。
「ハッ、ハッ、ハッ」
ストップウオッチは百四十五秒。
「行くぜ、ラスト!!」
篠根吟詩は天才だ。
だから三十mの滝程度。
滝壺を蹴る!
流れを蹴る、蹴る、蹴る!
白い水飛沫を突き抜けて、川の終わりを蹴りつけた!!
心地良い浮遊感が全身を包む。
重力に引かれる俺の目の前には、軽自動車みたいなでかい岩がある。
「う、」
力を両足に集中する。
岩が、トランポリンのように沈んだ。
「ラアアアアッ!!」
空を翔ける。
そして開けた土の上に着地を決めた。
「うっしゃ」
昨日は失敗して泥まみれになったが、今日は成功した。
「ヒュプノ、エンド」
脱力して倒れ込む。
結局泥だらけになったが、そんな事は気にならない程に気持ち良い。
「流石は俺。マジで天才だわ」
俺が磨き上げ、進化させた催眠の力。
それは人の精神だけではなく、物質の在り方への干渉をも可能とした。
まさに魔法。
まさに神。
「くっくっく。く―――――っくっくっくっくっくっくっくげほっ」
リュックから出したスポーツドリンクを飲み干して立ち上がる。
「さて、続きといくか」
* * *
三往復と諸々のトレーニングを終え、アパートに着いたのは二十時を過ぎた頃だった。
ポストを開くと一枚の封書が入っていた。
差出人の名前は『山城 琴』。
シャワーを浴びて椅子に座り、封書を開封すると、中から手紙と写真が出て来た。
手紙は時候の挨拶から始まり、丁寧な言葉で感謝が綴られ、最後に入籍した旨が記されていた。
同封された写真には、前の学校で教師だった男と仲睦まじい様子で佇む、『山城 琴』の姿があった。
「律儀だね。ま、おめでとさん」
ゲームでの『篠根 吟詩』は、『山城 琴』を催眠と脅迫を駆使して手に入れた。
旧家の生まれである山城琴は、幼馴染の教師と想い合っていた。
しかし彼女達の家は、百年来の犬猿の仲というテンプレ。
そこを篠根吟詩に付け込まれた訳だが、俺はそうはしなかった。
逆に二人の仲を取り持つように動いた。
勿論、善意からではない。
「くっくっく」
手紙をファイルに入れて仕舞う。
実に愉快だった。
冷蔵庫のモカ・コーラ缶を出して一気に飲む。
勿論カロリーオフなんて甘えは俺には無い。
シュワシュワの炭酸と砂糖の甘味を堪能し、勝利のけっぷを出した。
―― ピンポーン。
「○HKか? テレビは無いっつーの」
しつこいようなら催眠で追い返すかとドアを開ける。
「テレビは無いです、よ……」
「……」
○HKではなかった。
もっと質の悪いものだった。
「え、えへへ。き、来ちゃった」
金髪碧眼が変な笑みを浮かべていた。
「雨川の妹、何でここにいる?」
ヒロイン『雨川 汐音』の異父姉、『雨川 月恵』。
そして。
「もちろん、あ、愛しているからです。うきゃっ」
俺のストーカー。
ブラックヒュプノ→バッドエンド/Xルート×ダークメサイア 大根入道 @gakuha
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