SA 39. 現場の来訪者
辿り着いたそこはビルとビルの狭間にある細い道の入り口であった。大の男性がひとり通れる幅はあるが、大通りの光を受け入れるにはその入り口は狭すぎて、入口からほどなくすれば真っ暗となっている。
「キープアウトのテープはないんだね」
サラがスマートフォンを手にして残念そうに呟く。記念撮影でもする気だったのだろうか。
「数日前の事件だしねー」
初めに細い道に足を踏み入れようとしたアンジェラを押し退け、サラが闇へと飛び込んだ。アンジェラがむっとした表情で彼女の後を追う。やれやれとダンは肩をすくめて彼女たちに続いた。
細い道は隣接するビル一棟分の長さ、おおよそ十数メートル先で少しだけ開けている場所があるのが夜目でも知れた。隣接し合うビル同士の奥行の違いでできた空間のようである。
ダンはスマートフォンのスリープを解除して、突貫のライトでサラたちを照らす。その間に二人もスマートフォンを取り出しライトをつけた。
ライトに浮かぶ空間は狭く、複数人で押し寄せれば少々息苦しさを感じてしまうだろう。けれど、誰かを追い込み痛めつけるという点で見れば、なかなかの立地である。大立ち回りはしづらいし、逃げ惑うにも場所がなく追い詰めやすい、障害物や武器になりそうな物もない。どこのビルも整備を放棄したのか地面がむき出しのままで少々足場も悪い。
逃げ道とて、先ほど三人が入ってきた細い道のみ――。
「あれ、まだ道が続いてるね。どこに繋がってんだろ」
サラが秘密を探り当てた子供のごとく喜色の声を上げた。
ダンもスマートフォンでライトをつけると、確かに空き地の奥まった角に三人が通ってきた道よりもさらに細い道がある。小柄な女性であればそのまま進めるだろうが、男性では横歩きを余儀なくされそうだ。サラが持っている大きめの板はその道を隠していたのか。
サラは好奇心の赴くままにポンッと得体のしれない、行き先も不明な細道へと身を投じた。
「ちょっと、サラ! 危ないって!」
アンジェラがダンを一瞥すると、慌ててサラを追い自らも細道へと入っていく。
ダンはライトを消して目を閉じた。
足音が聞こえない。故意に消しているのか、癖なのか。
どうでもいいかと、どうでもいいがこれ以上近づいてほしくないと、ダンは自身の腰に手を伸ばした。
「こんばんは、カール・サントスさん」
そう挨拶をしただけであるのに、返って来たのは鋭くて短い、闇を裂く発砲音であった。
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