SA 40. 契約違反の襲撃者
ダンは振り向きざま左手で腰からグリップを引き抜く。銃弾が顔の横を通り過ぎ、背後のビルに当たるのを察し、グリップを左手から右手へ。
さらに発砲音。
目が闇に慣れ、銃口の向きが把握できる。体を横にずらして銃弾を交わす。
発砲音が相次ぐ。
足を踏み出す。いままで足をついていた地面が抉れる。土が跳ねる。また撃たれる。飛び退ってそれをかわす。
銃口から目を背けず、背後にはよくよく注意を払い、ダンは首をひねった。
銃の照準はほぼ正確。人を狙っているのに迷いもない。しかし、一発目と二発目は上体を狙ってきたが、それ以降は足元ばかりを狙っている。跳弾を恐れているのか。いや、致命傷を避けようとしている。
ダンは体を低くし一歩、前に踏み込んだ。銃口に迷いが出た。ダンの横を銃弾が掠める。何度も顔や体の横を掠めていく。一発が腕を擦り、刹那に熱が走る。銃口はぶれない。
ダンは着地した右足に力を籠め、銃口めがけ、一気に躍進した。
銃口が――、いや、襲撃者が動揺する。足が半歩下がる。ここに来て逃げる気か。
ダンの手が銃を構える襲撃者の右手を鷲掴みに押さえ込む。彼の懐へ潜り、グリップの先で鳩尾を一突き。すかさず足を払う。彼の体勢がくずおれる。彼の首に右腕を当て、体重をかけて一息に傾倒させ、地面に叩きつけた。
「こんばんは、サントスさん?」
倒れた衝撃で襲撃者の手を離れた銃を蹴り飛ばし、手で抑えていた右手を足で縫いとどめる。襲撃者は鼻から下を黒い布で覆っており、ダンがあいた手でそれをはがし、電源を入れたスマホ画面をかざす。
そうすれば苦悶にありながら敵意を剥き出しにするカールの顔がはっきりと見てとれた。彼が短い呼気を繰り返すので腕の力を弱めてみると大きくせき込み、ダンを睨み上げてくる。
「接触はしないでくださいって、氏から聞いてませんでしたか?」
睨みつけてくる眼光には怒気と殺気とが入り乱れ、どこか親しみを覚えると同時に、ここに来る途中に考えていたあやふやな推論が腑に落ちた。
「殺してしまえば関係ないだろう」
カールは額に汗を浮かべながらも鼻でダンをあしらうも、
「やっぱり、殺しもやってたんですね」
ダンの返しに舌を打った。
「ただの脅し文句だ」
ダンはカールの上から退き、グリップを腰のホルスターに戻した。
「どうでしょうね」
複数回とまではなくとも、確実に一人はやっている。
オリヴェイラがこの案件の早期解決を望むところは、結論とはとても単純明快なもので、お付き者に殺人を犯させたくなかった、それだけだ。一般的な感覚として傷害はセーフでも、殺人はやはりアウトなのだろう。
けれど、分からないことがまた浮上する。
「どうして俺を襲ったんですか? 殺す気はなかったにしても、契約違反ですよ」
カールとて、ダンが犯人ではないと踏んでいるのだろう。銃口は常に急所以外を狙い続けていた。あれは負傷を狙ったものだ。
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