SA 38. 思考の海へ
「ダン?」
「前を向け」
サラの頭を鷲掴みにして無理やり前方へ向かせる。アンジェラが気遣わしいげに見上げてくるも口を閉ざす。ダンは眉間にしわを寄せた。
短絡的な思考と感想のどこに違和感があったのか。ほんのわずかな時間の思考を逆流する。狂人を飼う人、限度一週間、執着と独占、内外ともに容赦しない暴力――。
私刑は今に始まったことではない。オリヴェイラの暴行事件の折にカールがいなかったのは、私刑を行っていたから。
オリヴェイラがカールの私刑を把握していたのであれば、今回の事件の犯人としても、私刑の被害者が第一の容疑者として上げてもいい要素だ。私刑があったなんてこと、ダンたちに対し隠し立てするような内容でもない。しかし、オリヴェイラはそのような証言をしていなかった。
なら、オリヴェイラが設けた一週間の足止め期間は何か。足止めの対象はカールで間違いないだろう。
では、どうして足止めが必要なのか。オリヴェイラの切羽詰まった雰囲気から、カールが何かに対して暴挙に出ると考えたからなのか。見舞客への襲撃を予想してのことか。そうだとすれば、被害が出ている時点で、あのオリヴェイラが接触不可の条件を犯してでもクレームを入れに来るだろう。けれど、とばっちりを受けそうなクロードやルカからそのような報告はない。オリヴェイラにとってカールの見舞客への暴挙は予想範囲内であったのか。
であるのならば、オリヴェイラが危惧しているは、順当に考えて犯人である。カールが犯人に対して暴挙に出る。それを止めたい。
筋は通っているが確証が持てない。結論が弱いというべきなのか。
そこまで考えてダンは嘆息した。考えたところでこの件はすでにダンたちの手を離れている。秘密裏であるもすべてA隊の管轄案件。本音を言えばどうでもいいのだ。
弾むように歩くサラの金色の頭をぼんやりと眺める。面倒な情報収集補佐任務の免除を受けて、サラは昨日から機嫌がいい。依頼の変更内容が八割方完了しているから、彼女のやる気次第では「手が滑っちゃった」と笑いながら、疑わしきは罰せよで任務完了とすることもできなくはない。
「あ、もうすぐですよ」
アンジェラが振り向く。サラも彼女の声に反応して、人の波を上手く交わしながら建物側へとそれていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます