SA 37. 暴れ回る者共
アンジェラの目が遠くを見て、ダンはなんとなく察してしまった。
「なんか、すまん」
「……次はぜひとも同席を願います……」
一人に対して三人で聴取とはなかなかに威圧的であるし、暴力を振るわれたとなればダンのような体格のいい男は恐怖の対象となるわけで、仕方なしに女二人行かせて、ダンは警察を調べようと部下とうろうろしていたのだが。
力ないアンジェラの声がすべてを物語っていた。サラが暴走したのだろう。豪州の天然で場を乱すキラと違って、サラは面白いことを確信して場を乱す。A隊には伏せ、秘密裏に変更された任務内容を受けて、仕事から暇つぶしへ極振りしたのだろう、きっと。
本当に情報関係には向かない性格だ。ダンは自分のことを棚に上げてしみじみと感じた。
「それでね、被害者は……、名前忘れたけど、その人が影でパッパラパーのことをパッパラパーって言ってたのを聞かれたんだって」
サラは器用にダンを見上げながら後ろ向きに歩く。取り巻く環境が喧騒であってことがありがたい。サラのよく通る声でさえ隠してくれる。
「それでその日の内に空き室に呼び出されてサヨウナラって。んで、その日の内にパッパラパーもサヨウナラ」
神を信じてもないサラが胸で十字を切る。
ダンがアンジェラに視線を遣れば、おおよその筋はサラの話した通りだというように頷く。
「被害者の証言では、社内でも表立っての傷害事件はなく、噂程度だったらしいです。ただ、突然離職する者が多かったと」
彼女が気持ち歩調を緩め、ダンに近寄った。
「氏を軽んじた者や悪態をついた者、反発した者などがその次の日には辞めていったとのことですね。元々離職率の高い職場だったし、傷害で警察が出入りすることもなかったので誰も気には留めなかったんでしょう。今回の被害者もそう考えてと言っていました」
「被害届は出さなかったのか?」
「受理されなかったらしいです。まあ、アレです」
賄賂か。
「そしてここからは私たちの隊からの情報ですが、氏が事件に巻き込まれてから、氏の取引先の人物で傷害事件が五件発生しています。いづれも銃で体を数か所打ち抜かれたものの命に別状はなし。その被害者の共通項が、氏の見舞いに行ったことです。こちらは傷害として被害届が出ています」
社外事にまで対応はできなかったか。もしくは、社外の人間にまで手を出すとは予想していなかったか。
しかしそうなると、オリヴェイラもカールの私刑を容認していたことになる。しからば、双方まがりなりにも自身の会社の社員に対して、あまりにも容赦がなさすぎるのではないか。それにカールが不在であるから社内の私刑は抑えられても、社外に関しては手が回っておらず、一週間は足止めすると言っておきながらカール自身を抑え込めているわけでもない。
狂った人間を飼うには、あのお坊ちゃんは力量不足なのだろうか。得てして狂人を飼うのは容易ではないということか。特務隊の隊長も複数の狂人を飼っているが、その実、理知的で隠蔽が得意な狂人であったから上手く回っているようなもので。
ふと自身の考えに違和感を覚えた。
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