SA 35. 取り繕い

「お前たちも何か食べるか?」

「食べてきたよ、ハンバーガー」

 それを聞いてダンは残りのピザを自分の口へ放り込む。遂に冷えてしまったせいでチーズも生地も固くなり、ソースがしょっぱくなっている。

「何か聞き取れましたか?」

 口の中を綺麗にしてからダンが口を開いた。

「いや、人が多すぎて俺の耳じゃ拾いきれない」

「やはりわたしたちと場所を変えた方がよかったですね」

 アンジェラであればこの喧騒であってもひとグループごとの会話を聞き取れたやもしれない。

 ダンもそれに関しては同意を示したがすぐに、ただと否を口にし店内に目を向けた。

「サラがこっちにいたら情報収集どころじゃなくなるだろうな」

 つられるようにアンジェラも店内を見渡してみれば、据わった目をサラに向ける者、ちらちらと初心な反応を示す者、ほろ酔いゆえにか学生のように誰がファーストペンギンを決めるか騒いでいる輩。そしてそれに気付いているのに一切を眼中に納めないサラ。

 確かに、人は群がるだろうが、比例して情報が集まると問われればそうには思えない。アンジェラは納得した。

「じゃあ、出るか」

 ダンがサラの背を押して先を促す。その扱いにサラはぶちぶちと小言を口にしながらも率先して出口へと進んだ。サラの後にアンジェラを進ませ、過剰と思われない距離を保ち、ダンはアンジェラの後ろにつく。そして背後を振り返った。

 トイレに向かった部下が外に出たの否か。どちらでもいいが、ここに留まり続けるのはあまりよろしくないし、意味もない。

 ドアベルに見送られ踏み出した外は、昼の気温をさばききれていないようで肌に熱気がまとわりついてきた。

 先に外に出ていたサラが勝手知ったる足取りでどこかに歩き始める。アンジェラも何も言わずについていく。何も考えず少女二人に付き従うかたちとなったダンであるも、目的地くらいは把握しておきたかった。

「どこに行くんだ?」

「現場だよ。昨日は結局行けなかったじゃん」

 サラがダンを振り返り答える。

 サラが隊長に連絡を入れて後にあまり時間を置かずに折り返しがあり、ダンとサラに待機命令が下った。その間に隊長の方からカストとリックに協力の打診があったのかなかったのかは分からないが、待機が解除されたのは深夜に届いた、任務変更と二人の協力不可に関する隊長の謝罪メールであった。

 今更と思わなくもないが、それこそ今更であるので仕事をしている振りでも演じようという思いがダンの中に沸く。おそらくはサラも同意見であったのだろう。

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