SA 32. 得手不得手
古いビールを飲み干し、新しいビールに口をつける。
「……それで、こっちを続行でいいのか、リーダー?」
ダンは手にしていたピザの最後の一塊を口に放り込む。
「ああ、構わない」
「りょーかい」
ダンのスマートフォンが着信を告げる。二度ほど鳴ったのち、相手方から切られた。
部下の青年はせわしなくスプーンを口に運び出す。
「しかし、あれだな、マジで情報収集なんて俺たちには合わねえな」
彼はアイスを二口、三口と矢継ぎ早に口に運び、間を開けずにビールを飲む。アイスの小山はどんどん崩れていくし、ジョッキの中のビールの量も減っていく。
ダンがピザをもう一切れ巻き始める。
「本当にな。何かを聞き出すとなると神経を使って疲れるもんだ」
「面がよくてもダメか?」
「逆にダメだなあ。すぐに話が私事になって脱線するから戻すのが大変だった」
お互いに溜め息をつく。
どちらかと言えば脳筋寄りの班がやることではない。配属に問題があるのではないかと訴えたいが、豪州にカストがいるからこその配置なのかもしれない。
「せめてAが使えればよかったのに」
皿に接しているアイスが溶けて白い泉を作っている。チョコのシロップが汚水のように広がる。
「Aに混じってるんだから仕方がない」
ダンは巻いたピザをまたも三分の一ほどだけかじり取る。
「ダラムとルーピはマジで手伝ってくれないわけ?」
部下の青年が溶けた白いアイスとチョコをスプーンでゆっくりとかき回す。白と黒が綺麗に渦を巻く。
「昨日サラが隊長に報告も兼ねて連絡をしてくれたんだが、ルーピは別件で動いているらしい。部下なら送れると言われてもな」
「アイツは大陸だろ? 昨日の今日で、明日立つとしても……」
部下の青年が指折り数え撃沈する。
「ダラムにいたっては『経歴の精査くらいならやってやる』と直接送ってきやがった」
「逃げたな」
「『すまん』と隊長から連絡がきたから、ダラムに丸め込まれたんだろうな」
「アイツは口達者だからなあ。フィルトン、怒ってなかったか?」
部下の青年は手持ち無沙汰にスプーンを回し続ける。白と黒の境界線があいまいになっていく。
ダンはピザを皿に戻し、煙草を取り出し火をつけた。
「電話口で散々喚き散らした揚句に、長文メールを送ってた」
いい気味だとばかりにダンは鼻から煙を吐き出す。
部下の青年は声を殺して笑う。飽きもせずにスプーンを動かしながら、ビールを一気に飲み干した。
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