SA 31. 西国訛りの誰かさん

 ダンが怪訝に眉をひそめる。

「奴の声を聞かせてもらったけど、あれは西国訛りの英語だ」

「データだと英語圏の亜州だっただろ」

 ダンもピザを手に取る。少し温くなっているがチーズはまだ伸びる。一切れを皿に移し、先っぽからくるくると素手で巻いていく。

 部下の青年はロールされていくピザを見守りながら、ビールジョッキをカラにした。

「偽造だな」

「成り代わりか?」

 綺麗に巻かれたピザを端から食べる。大柄で豪快そうに見えて、ダンはそれを一口ではいかずに三分の一ほどだけ噛み切り咀嚼する。

 アイスが到着した。平皿に大きめな丸いバニラアイスが乗り、チョコシロップがこれでもかとかかっている。部下の青年はアイス分の料金を払い、ビールの追加二杯分を頼んだ。

「それはないな。ここのところ変な出入りはなかったし」

「元から入っていたってことか」

 部下の青年はアイスを口に含みながら頷く。

「まだどこのネズミか把握していないけど、今回の件に合わせてでないことは確かだな。タイミングよくそこにいたから使ったって感じ」

 ダンは眉間にしわを一本増やして、ピザをもう一口ばかり頬張った。

 ビールが到着する。店員がテーブルに置かれていた料金をかっさらう。

「訛りについては誰にも気付かれなかったのか」

 部下の青年がビールを飲み、すぐにアイスも口に入れる。

「聞いた限りじゃ上手く隠してたからな。うっかりぽろっと出たんだろ。それに、例え気付いたところで情報照会しなけりゃ、誰も他人の出自なんて気にしないだろ。アルコンやバスカなんてごちゃ混ぜのくせにそれで通ってんだから」

 ダンは同僚の出自に関して遠い目となる。

 部下の青年が口にするように、アル・アルコンとレオ・バスカは何をどうしたのか世界中を転々として組織でも追跡不可の自称米国人。研修生含めて『C.S』内における出自不明の代表格でもある。

 今回紛れ込んでいる者が彼らのように国を移ろっていたとなれば追跡は難しい。が、組織に嘘の情報を伝えているということは疑う余地があるというもの。まして、猜疑をかけられている他の面子の中で唯一の特徴となれば調べやすい。罠であろうともとっかかりがほしい。

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