SA 29. interlude 灰黒と灰白

 内容を確認し、確かに自分が送ったものであると知れれば、自然と口の端がさらに持ち上がる。

「ああ、本当だ。各班のリーダー格でなくてもいい。そちらの情報に見合った情報をこちらも差し出そう」

 スマートフォンの液晶の光に浮かぶカールの顔は苦々しい。

「あそこの組織の情報はまず洩れない。それをどうして素人の俺に頼む」

 もっともな意見である。一組織が必死になって探っているのに、かの組織の深部は洗えていないに等しい。顔と名は判明がしているが、それ以上が分からない。隊長にいたっては話題には上がるが、存在しているのかすら怪しほどに顔を出さない。

「情報収集に苦戦している中で今回の掃除依頼も加わって、こっちはてんてこ舞いよ。なら、使える手はなんでも使おうってな。今は金よりも情報が欲しい。だから情報交換だ」

 カールは怪訝な顔でこちらを睨みつけていたが、しばらくして腕を下げた。スマートフォンの光が地面を照らす。

「情報は何でもいいのか」

「いいとも。こちらが情報を与えれば掃除の依頼も手伝ってくれるんだろうし。ただし、二つ条件がある」

「条件?」

 キャップの唾を押し上げてカールを見据える。スマートフォンの光が届かず闇にいる彼であったが、その表情は容易に想像ができた。

「一日に一つ、情報を寄越すこと。これが一つ目」

 カールが頷く。

「二つ目。もし情報を持ってこれなかったら、一日一人、こちらが始末していく」

「性急すぎじゃないか」

 語気が荒げられる。

「おたくのボスが一週間以内にことを収めろって言うし、ヒューストンは一週間で収められなかったら手を引くって言うもんだ。こっちだって早く終わらせたいし、こればかりは仕方がない」

 カールは口を閉ざし、逡巡しているようだった。

 尻ポケットに入れていた自分のスマートフォンが震える。処理班が到着したようだ。

「ま、ここまでご足労の礼だ。特別に一つ、情報提供をしてやる」

 足音はしないのに複数の人の気配が近づいてくる。カールもそれを感じ取ったのか、まとう空気がぴりぴりと張り詰める。

 鉄パイプを肩に担いで努めて笑顔を作った。

「犯人はコイツを含めて五人だ」

 肉の頭を踏みつけて、地面にこすりつける。カールが肉に目を向けるが、この闇だ、顔は分からないだろう。なによりも、光をかざそうが、肉にした時に顔面を潰してしまっているのだから、判別などできるはずもない。

「ここからどうするかはお前次第。自分で苦労して犯人を捜して制裁をするか、手近にあるアイツらの情報を探ってこちらに売るか」

 空気が動く。カールが背後を振り向いたのかもしれない。丁度、処理班が現れたのと同時だった。

「何かあったらどうぞお気軽にご連絡を」

 慇懃に頭を下げたが、果してカールには見えていたか否か。

 カールは処理班とすれ違い、足早に賑やかで眩しい世界へと戻っていった。

 制裁とか、私刑とか、なんともいじらしい感情である。それに罪悪感を覚えるカールの飼い主もまたバカで可愛らしい。どうすればそれだけ想い合える人に出会えるのだろうかと、少しだけ羨ましく思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る