SA 28. interlude 闇に混ざる灰色
6
星明りも届かないきらびやかな張りぼて都会の裏、光もほとんどなく人通りもなく、まさに悪さをしてくださいと言わんばかりの路地。そこの地面に俯せで転がる一人分の肉の塊の横で膝を抱えながら待ち続けた。今はどこにいるかは分からないけれど、きっとあの画像を見れば飛んでくると予想していた。
かすかに空気の動く音がする。待ち人はいまだやってこない。
スマートフォンの電源を入れ、画面側を肉の塊に向ける。ほの暗い光の中に、目元を隠す長い前髪、腫れあがった頬、膨れる唇。時折スマートフォンの画面を叩き照明を維持し続け、無様だなあと感じながら目を凝らし観察する。
どれほど経っただろうか。長い前髪の一筋が不自然に揺れた。
「めんどくさ」
立ち上がり、肉の塊を跨ぐ。腰に両腕を回し持ち上げる。力が抜けている体は重く手こずるが、何とか持ち上げ膝で立たせ、足を少し開いて自立させる。
このままだと上体が伸びてやりづらい。どうしようかと考え、ボロボロに砕いた肉の両腕を胸のあたりに押しこめる。地についていた頭を持ち上げて額より少し上、紙の生え際当たりに定めて地面に置く。
さっきまで自分が座っていた場所にある鉄パイプを拾い、肉の頭に片足を添えて固定する。
「はあ……、どっこら、せい!」
鉄パイプを振り上げて、気合と共に振り下ろした。だみ声、次いで鈍い音、そしてくぐもった音。辺りはすぐに静かになった。
立ったまま鉄パイプの先で肉の頭を小突く。動かない。しかし、さっきも全身を滅多打ちにしこと切れたと高をくくっていたところ、息をしていたのだから油断ならない。首が直角に曲がっていようと人間の生命力を過大評価してしまう。
やはり頭も砕いておくか。銃を使えれば楽なのだが、少し行けば人の往来がある。万が一にも誰かが銃声を聞きとめるのは避けたい。
「めんどうくさいなあ」
もう一度鉄パイプを振り上げる。肩をキュッと締める。
振り下ろそうとした、その刹那、土を踏みしめる音が鼓膜を微かに震わせた。
腕を上げたまま振り返る。思わず笑みが浮かぶ。
「やっと来たな。カール・サントスさん」
鉄パイプを振り下ろし、やって来た男を振り返る。
「殺さないという話だったろう」
数メートル先で立ち止まったカールから、不機嫌を隠しもしない声が、舌打ちを伴ってもたらされた。
「来るのが遅かったら自分の仕事をするって送ったろ? 文句をいうなら早く来いって話だ」
鉄パイプを地面に突き立て、力半分に寄りかかる。
カールは再度舌を打つが、賢明にも話を蒸し返すことはしなかった。自身のスマートフォンをいじり、その画面をこちらに見せてくる。
咄嗟にキャップの唾を下げる。
「『C.S』特務隊の情報提供、もしくは、ダン・ヒューストン、サラ・フィルトン以外のメンバーを引っ張り出せれば、テオを襲った奴らの情報をくれるというのは、本当なんだろうな」
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