SA 22. おしゃべりは女の嗜み

 アンジェラの背後を女性たちが出口に向かってきゃっきゃと言いながら過ぎていく。緑色の紐の社員証を首にかけている。入れ替わる形で、今度は男女混合のグループが入って来る。社員証が見えないが生気のみなぎる表情からして、もしかしたらくだんの社員かもしれない。

 アンジェラはコーヒーを飲む。グループが取り留めもない会話をしながら通り

通り過ぎていく。それから彼女は再度口を開いた。

「偶然と言い捨てられるレベルの噂だけど、調べてみる必要はあると思う」

 もし噂が真実ならば、オリヴェイラを襲ったのはカールが制裁を加えた何某である可能性が高くなる。ならば、そちらを洗ったほうが確実か。そうなると制裁とやらをされた人物の捜索か。

 口の中を綺麗にしてから、口元をくいっと上げ、サラは訊ねた。

「さすがにそこまでは分からなかったんだ?」

「情報源の方が先に帰っちゃったからねー」

 サラのスマートフォンが二度震える。

「でも、こんなごちゃごちゃしているのに、よく他人の会話なんて聞き取れるね。ソンケーする」

 サラはスマホを手にして、自身の顔の正面に画面を据える。スマートフォンの影にアンジェラが隠れた。

「敬意がまったく感じられないんだけどー?」

 アンジェラはテーブルに頬杖を付き、スマートフォンの影からたちまちサラの視界に戻って来る。

「気のせい、気のせい」

 彼女をちらりと見遣り、サラはメールを開く。

 サラが気もそぞろだと察したアンジェラは片肘をついたまま、サンドイッチを啄んだ。

「……実際、立ち聞きってやりやすいもんだよ。みんな、話をしている最中は他人が自分たちの話を聞いてるなんて意識が薄いし。特に女の人は噂話が好きで、おしゃべりも大好き、テンションが上がると声が大きくなっていくから。本当に聞き取りやすい」

 アンジェラの言を証明してやるとばかりに、サラの背後から華やかな甲高い声が届く。どうでもいい内容であり、聞き耳を立てる価値すら見いだせなく、耳道を通り鼓膜を震わせる段階で脳が雑音に分類し、背景音楽として処理される。

 アンジェラは簡単だと言うが、音を意識して聞き分けるのはなかなか難しいし、何より神経が疲れる。

 サラは唇を突き出した。

「わたしに情報収集は無理だと思いました」

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