SA 23. 立場を弁えて

「諦めるの早くない? のために頑張ろうよ」

「難しいこと苦手なんだもん。……ダメだ、ジェインも遠いからって手伝ってくれないって……」

「こそこそと何をやってんの。いくら北米にいるからって簡単に来れないって」

 サラが画面から目を離し、アンジェラを視界に納める。

「こうなったら総当たりで頼むしか……」

「ちょっと、ずるしちゃダメでしょ。誰かがジェインより近くにいるかは知らないけど、助けを頼むってことは、頼まれた側の担当エリアが疎かになるんだよ?」

 サラが画面をタップする。アンジェラの口は止まらない。

「それにはサラたちにお願いしたんでしょ? だったらちゃんと、」

「アンジェラ」

 サラが彼女の名を呼び遮った。

 アンジェラは食んでいたサンドイッチを口から離し、顔を強張らせる。サンドイッチを掴む手が震えている。血が引いているのか、顔も、指先も青白くなってしまった。

 先ほどまで光をたくさん集めていたエメラルドグリーンの瞳が暗がりに落ち、鈍く閃き、アンジェラをとらえていた。

「アンジェラってさ、今日、Aに配属されたんだよね?」

 サラが小首を傾げる。金糸のような髪が彼女の肩を滑る。

「なんでそんなこと、言えるのかな?」

 アンジェラがサンドイッチをテーブルに取り落とす。視線はサラからそらすことができずに目は見開かれたまま。小刻みに揺れる手で口元を覆い隠す。指の隙間からかすかな喘鳴が漏れている。

 テーブルが小さく跳ねた。アンジェラの足が無意識に逃げだそうとしたのかもしれない。しかし、それを理性が制し、せめぎ合いの果てに膝がテーブルを打ったのだろう。

 サラは嫣然に笑った。指先でスマートフォンの画面を何度も斜めにこする。

 理性は正しい。やれと言われたからには、恐怖を抱こうが、嫌悪に蝕まれようが、精神を削ってしがみつき、やり遂げなければならない。暴力という力のない者や、権力という力のない者は、それらを持つ者に従うしかない。本能に負けたらそこで終わりだ。

 アンジェラはよく分かっている。

「……ごめん……、言い過ぎた……」

 口から手を離して、彼女は俯き、大いに震える声で告げた。

 サラはくすっと笑い、

「いいよ。わたしも愚痴り過ぎた。ゴメンね?」

画面を灰色で適当に塗りたくったメールを、文字がまったく入っていない状態で送信ボタンを押した。送信完了を確認し、スマートフォンをテーブルに置く。機嫌はすぐに上向いた様子で、レモネードへ果敢に再戦を挑んだ。

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